アームズワールド
火田案山子
第1話 Sサイド
アームズワールドは2030年にサービス開始されたアメリカ製のⅤRオープンワールドオンラインゲームである。
プレイヤーは各自アカウント登録時にアバターの設定と共に数多ある武器の中からたった1つだけを選んで入手する。
プレイヤーは最初に選んだその武器を永遠に所持し続ける事になる。
他の武器を使う事は一切できない。
1つの武器を使い続け、極めるのがこのゲーム最大の特徴である。
アバターネーム『サイラ』
セックス『フィーメイル』
スキン『ホワイト』
エイジ『25』
「ん。まあこんなとこかな」
俺は日本の田舎に暮らす30代後半の男。童貞。デブ。眼鏡。無職。引きこもり。ぼっち。好物はカップ麺とポテチ。趣味はゲームとアニメとオナニー。
「いやあ、しかしアバターも細かく設定できてすげえなあ」
顔のパーツ、髪形も豊富だし色も選べる。衣装も最初から色々選べるが、ゲーム内で稼いだポイントで更にカスタマイズできるらしい。まあ俺ファッションには微塵も興味ねえけど。
アバターは俺好みの若い女にした。へへ…胸のサイズまで選べるってんだからうんと爆乳にしてやったぜ。
部屋の外からお袋が掃除機かける音がヘッドホン越しにしてきた。
「うっせえな…まずい飯しか作れねえばばあ。死ね…」
そう呟きながら俺は音量を大きくしてゲームに集中した。
決定を押してアバター設定完了。
次はこのゲームのキーアイテム武器の選択だ。
しかし、あるわあるわ。
剣、刀、槍、弓矢、銃、ナイフ、ハンマー、メイス、手裏剣、パチンコ、ブーメラン…それぞれに色んな種類がある。
「うーん…武器ごとのパラメータも無いのか……どれがいいのかわかんねえな」
10分近く悩んだ末、俺はアサルトライフルを選んだ。実在する銃らしいけど、俺は銃に詳しく無いしな。まあ、多分これでいいだろ。
決定すると、いよいよゲームが始まった。
まず俺がいたのはベッドの上だった。いやまあ、リアルでもベッドの上に寝転んでゴーグル着けてやってんだけどな。
そのまま手に握ったコントローラーで起き上がって周りを見渡してみた。
どうやらここがこの世界での俺の家らしい。
鏡があったので前に立って見てみると、そこには設定した通りの巨乳美女が立っていた。しかもすげえリアル。
「おおっ!すっげえ!」
と言った俺の声は女の声だった。
さっきアバター製作の時に声も選べたからな。何人かの声優の声を元に作られた合成音声だ。自分の声が俺もよく知ってるあの人気声優の声になってる。
ⅤRゴーグルに付いたマイクに入った俺の声が即座に変わってヘッドホンから耳に入る。
しかし、触れないってのは残念だな。本来なら自分の服を脱いだり揉んだりしたい物だが。
手元にはアサルトライフルがあった。確認してみると、既に弾がいっぱいに入っている。
「……そういや、弾の補充はどうするんだ?」
疑問に思いながら、俺は自宅を出た。
そこは町だった。所謂中世ヨーロッパ風の。
そして、いるわいるわ。
俺以外のプレイヤー達や商人等のNPⅭ達がわんさかと。
俺は適当にその辺を歩き回って、適当に色んな奴に話しかけてみた。
彼らからこのゲームのポイントやらを聞いて、俺は早速フィールドに出てクリーチャーと呼ばれる雑魚敵と戦ってみた。
なるほど、倒せばどんどん熟練度が上がって行って強くなるし、金やアイテムも手に入る、か。まあゲームの基本だわな。
そして、強くなればなる程に出現するクリーチャーも比例して強くなる。また、他のプレイヤーに対戦を申し込んでОKされればプレイヤー同士で対戦できる。
そして、この世界での強さには上限がない。誰でも無限に強くなれる。
そんな感じで、俺も着々と強化していった。
しかし……いい女にした事を軽く後悔していた。
男たちがどんどんよってくる。
女の振りして女たちの集まりに混ざってもみたが、皆会話はしてくれるが3サイズや彼氏の有無等プライベートに関しては何も教えてくれなかった。
そんな感じで俺は毎日このゲームに入り浸る様になった。ゲームしてない時は寝るかトイレ行くかメシ食うかアニメ観るかマスかくかネットに誰かの悪口書き込むかだ。服は着替えねえし風呂にも入らねえ。ごみは廊下に捨てときゃ親が拾って処分してくれる。たまにドアの向こうから俺に対する文句が聞こえてくるが、鍵かけてヘッドホンしてればブロックできる。つうかうぜえ……死ねよ。
そんな日々を過ごしていると、いつの間にかこのゲームにも慣れてきた。
ある日、俺はある噂を小耳に挟んだ。
何でも、クリーチャーを倒した後手に入るアイテムの中に、まだ誰も手にした事の無い超レアアイテムがあるとか。
俺はそんな噂信じなかったが、ある日俺は奇跡的にそれを当ててしまった。
たちまちゲーム中が騒然となった。俺は一気に有名人になった。
俺の周りには大勢のプレイヤーが集まる様になった。その中には俺よりずっと強い奴も少なくない。
「最高の気分だ!もう一生この世界で暮らしたい!現実になんか戻りたくない!」
俺は皆の前でそう叫んだ。
『その望み、叶えてやろう』
「……え?」
誰だ?今誰が喋った?周囲を見渡してもそれらしき者は見当たらない。皆、俺を囲ってワイワイ騒いでいる。
気のせいか。
今思えば、どうしてこの時に気付かなかったのだろう?
俺がいつも寝ていた、ダニと汗だらけの汚い布団の感触が消えていて、まるで本当にそこにいる様に感じた事に。
現実世界のとある家。
男は部屋のドアを無理矢理押し破って入った。途端に悪臭が鼻を刺した。
薄暗い部屋の中、1人の太った男がベッドに寝転がっている。
頭にはⅤRゴーグルが取り着けられている。
あれだけの騒音を立てたのにこの男は寝たままだ。
男はふーふーと息を吐きながら目を見開いてベッドの前に立った。
男の手には包丁が握られている。
「お前の…お前のせいで、母さんは死んだぞ……。この、クズ野郎が……」
男は包丁を握る手をゆっくりと上げた。目からは涙が流れた。
「俺も母さんも、毎日必死に働いたってのに、お前は毎日毎日こんな生活を……俺や母さんがどれだけ苦労したか。挙句の果てに、母さんはさっき死んだ…過労で……。もうたくさんだ…お前なんかもう俺たちの息子じゃない。……死ねええええええっ!!」
男は息子のその大きな丸い腹に思い切り包丁を突き刺した。
その後、その男はすぐに殺人罪で逮捕されるのだが、そんな事は息子の知る所ではなかった。
息子は気づいた時には自分だけログアウト出来なくなっていて、サイラという女として永遠にこの世界で生きていく事になったのだった。
現実での自分が死んだ事にも気づかないまま。
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