第26話 あふれるエナジー

 玲香「はぁ……」

 未咲「玲香ちゃん?」

 玲香「あら未咲、奇遇ね……こんなところで出会うなんて」

 未咲「そうかな? 前にもここで会ったことある気がするけど……」


 そう、ここは以前、玲香ちゃんがライブをしたところの近くだった。


 未咲「なにしてたの?」

 玲香「なにって……ちょっとここで休んでただけよ」

 未咲「この前のライブすっごくよかったのに、もうやめちゃったんだね……

    あっ、れいかちゃんの手袋、わたしよりおっき~い♡」

 玲香「うぐっ……そういうのやめなさいよ、まったく……」


 なぜか恥ずかしそうにする玲香ちゃん。それもまたかわいかったりする。


 未咲「玲香ちゃ~ん、ほんとはわたしとの時間を増やしたかったんでしょ~?」

 玲香「ぶっ」


 不意を突かれた。


 未咲「いまでもバンド活動を続けてたら、もしかしたらそのうち

    わたしの作った曲も披露してくれるかな、なんて思ってたんだけど……」

 玲香「ばか言うんじゃないわよ、なんなのよもう……」


 間をおいて玲香ちゃんが口にしたのは、とんでもない裏側だった。


 玲香「めちゃくちゃだったのよ、あの子たち」

 未咲「?」

 玲香「その年齢に達してもいないのにお酒は飲むし、とにかく荒れてたの」

 未咲「そんなことが……」

 玲香「あるのよ、これが。目を覆いたくなるけど、悲しいかな、現実だったわ」


 玲香ちゃんが動いたとき、雪解け水の音がかすかに聞こえた。


 玲香「思い返してたの。ここで過ごしてきた日々を」

 未咲「……」


 冷たく言い放つ一言一言が、わたしの身にも確かに突き刺さっていた。


 玲香「『もう終わったこと』って切替えようとしても、中々そうはいかなくて」

 未咲「そう、だったんだ……」


 いっしょに過ごしてきたつもりなのに、まったく気がつかなかった。


 玲香「ほんと笑える。あの子たち、出会った当初はどこまでも純粋だったのに」


 文字どおり笑ってはいたけど、どこか抜けているような感じもして。


 玲香「お互いにできないところをカバーしあった仲だったのに……

    いつの間にああなったのかしら……あは、あははっ……楽しかったなぁ」


 途切れそうな声とことばで、玲香ちゃんは虚空に向かって喋り続けていて。


 ――気づいたときには、わたしの右手はスカートの裾をまくりあげていた。


 未咲「ねぇ、玲香ちゃん……おしっこ、したくなぁい……?」

 玲香「どうしたのよ未咲……あんたまさか、そのままおしっこするつもりじゃ」

 未咲「そうだよ、だって……はふぅ、もうがまん、できないんだもん……!」


 よく見ると、未咲の下着にはすでにくっきりと跡がついてしまっている。

 そして、もう片方の手には、何やら怪しげな飲み物が入ってそうな缶が。


 玲香「その左手に持ってるのは何よ?」

 未咲「エナジードリンクだよ。これ飲んだらね、なんだかおしっこが近く……」


 言っている間にも、未咲の股間からはどんどん液体がほとばしり出てくる。


 玲香「(どうやら瑞穂とはわけが違いそうね……)」


 瑞穂の場合、飲んだら通常より動きが二倍近くは早くなっていそうだけど、

 未咲はそうではないらしい。むしろ体感として遅くなっている気さえする。

 あと、どことなく変態度までふだんより増している感じも。


 未咲「玲香ちゃんとのあれこれを想像したら、なんだか立ってきちゃった……」


 どことはあえて言わなかったけど、一歩間違えば公共の場で大変なことに……。

 尿意との相乗効果で、未咲の脳内はいまごろヘンな色に染まっていそう。

 そのままいけないことでも始めてしまいそうだ。なんとかして止めないと。


 玲香「あのね、わたしもう元気ないの。いい加減にしないと……」

 未咲「玲香ちゃん……さわって?」

 玲香「はい?!」


 ぽおっと顔が赤くなる。それを見越してだったとしたら、なかなかの手練れだ。

 それともこれはやっぱりあの飲み物のせいなのか。想像の域をまるで出ない。


 玲香「仕方ないわね……付き合ってあげるわよ」


 あきらめたように、わたしは言った。


 未咲「ありがとー玲香ちゃん。できるだけやさしくお願いするね」

 玲香「言われなくてもそうするから、あんたはじっとしてなさい」


 こうしてわたしたちは街中で、人目もはばからずにことに及んだ。

 ときおり「あん♪」だの、びくん、だのとわかりやすい反応をしていたけれど、

 本当に気持ちよくなってるかはさだかではない。半分からかっていそうだった。


 街ゆく人たちがわたしたちのほうを振り向いて、頬を赤らめながら去っていく。

 それもまた経験だった。未咲はふりふりの可愛い服を汚しながら悦に入ってる。

 わたしの指に合わせるかのように、しゅぅっ、しゅぅっ……と音をさせながら。


 幸い、おしっこの香りだけは人一倍によく、街にまぎれても遜色はないみたい。


 未咲「バンド活動とかより、こっちのほうが全然きもちいいかもしれないよ?」

 玲香「流石にそれはないわよ、たぶん……」

 未咲「じゃぁ玲香ちゃん……わたし、がんばってここまでやったんだから、

    玲香ちゃんはもーっと、わたしよりすごいおしっこ、できるよね……?」

 玲香「はぁ……ちょっとだけよ?」


 言ってすぐ、玲香ちゃんもわたしがしたようにスカートをまくり上げて……

 少しだけ、おしっこをした。


 玲香「こ、これでせいっぱいなのっ、許さないとぶつわy……あぁっ」


 冬の寒さのせいか、勢い余って二発めが出てしまった。太ももがあったかい……


 未咲「おぉ……何かを捨てた女が出すものって、けっこうそそりますなぁ……」

 玲香「ヘンなこと言ってんじゃないわよっ……やだっ、また出ちゃうっ……!」


 きゅぅっと太ももを閉じても、ことが改善されるはずもなく……

 余計に染みが広がってしまう結果に。もう恥ずかしさで泣くしかなかった。


 未咲「よーしよし。よく頑張りました♡」

 玲香「うぅ……」


 自前のハンカチでやさしく拭いてくれる未咲。

 ただ、敏感になっていてそれどころじゃない。


 未咲「まだぴゅっぴゅちてまちゅねぇ……

    もしかして出し足りないのかなぁ、おちゃめなれいかちゃん?」

 玲香「もうやめて、いいからやめなさいよぉ……」


 最後は自分でもびっくりするほど大きく震えて、そこからはぴたっと止まった。


 未咲「はぁ、はぁ……わたしまだ興奮がおさまってないかもぉ……♪」

 玲香「ひとりでやって……お願いだからこれ以上わたしを巻き込まないで……」

 未咲「わかった!」


 言って、未咲はこそこそとあそこをいじくるのだった。


 玲香「まったくもう、恥ずかしいったらありゃしない……」


 息も絶え絶えになって、わたしの頭はほとんど真っ白になっていた。


 美花「なーんかこのへんからいいにおいがするなー」

 未咲「!!」


 その声は、わたしにとって長年にわたる因縁の相手、橘 美花だった。


 美花「元気~? あたしは見てのとおり元気なわけだけどさー」

 未咲「う、うん……こっちも元気だよ……?」

 美花「どうした、どうした~? こんなところで盛っちゃったりして~」

 未咲「べつに、そういうわけじゃ……」

 美花「ふーん……じゃぁこのあまーい香りの水たまりは何?

    ジュース、じゃないよね? あたし、さっき見てたんだけど……」

 玲香「それ以上はやめなさい」

 美花「何よ? あんた、この子とどういう関係?」

 玲香「ただのクラスメートよ。何が訊きたいのかしら?」

 未咲「そ、そうだよ! 玲香ちゃんとはただの……」

 玲香「あんたは黙ってなさい」

 美花「さっきから見ていたらあんたたち、仲睦まじそうにあれやこれやを……」

 玲香「それがなんだっていうの?」

 美花「いやあたし思ったんだけどさ、こういうのって『レズ』とかいう、

    いわばどうしようもなくなっちゃった人たちの最後の頼みの綱でしょ?

    あたしそういうのって滅法苦手でさぁ……目障りだしやめてくんない?」

 玲香「関係ないでしょ、いいから早くここから去りなさい!」

 美花「そういうことしか言えないんだ、なっさけない……

    まぁいいわ、好きにいちゃいちゃしてればそれでいいんじゃないの?

    よくわかんないけど。あはっ、あははっ! あー、おなかいたーい!」


 たしかに未咲の欲望とも呼べそうなそれは誰よりも深いかもしれない。

 だけどそれは、誰かに簡単に否定されていいものではない。

 これまで幼馴染として、最低限それだけはわかってきたつもり。


 だからこれからも、わたしは未咲を守り続けたい。


 玲香「ヘンな奴は去ったわ。さて、早く帰りましょう」

 未咲「そうだね……ありがとう、玲香ちゃん……」


 ふたつの意味で慰められながら、わたしたちはそれぞれ帰ることにした。



 (小言:自慰の反対って "他慰" なのでしょうか。なんか気になります。)

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