よく見かける場面
椎名由騎
片想い
私に中学一年の頃から好きな男子がいる。バスケットボール部で将来のエースとして期待されている同学年の子だった。
しかし、私は彼からはただの応援する女子の一人に過ぎない。彼と同じクラスではあるものの気軽に話す中ではない。あっても挨拶を交わすだけの間柄だ。
それでも初めて好きになった人だからこそ勇気を出したいと思った私は、部のマネージャー希望を顧問の先生に申し出た。他に何人もの生徒が申し出たが、マネージャーの仕事は簡単なものではなく、男子目当てだった何人かの女子生徒は辞めていった。しかし私は大変なマネージャーの仕事をこなし、先輩のマネージャーからも認められるようになった頃。
「いつも頑張ってるな」
給水ボトルを彼に渡す時に一言そう言われた。いつも先輩に言われている言葉に比べて内心嬉しい気持ちで心が跳ねる。そこからだんだんとクラスでも話すようになり、本当に時々、笑いかけてくれるようになった。告白までは勇気が出なかった私にはそれだけの関係でもとても幸せだった。しかし偶然聞いてしまった彼の言葉に私は涙を流した。
「ごめん。俺、好きな人がいる」
よくあるような告白の瞬間に立ち会ってしまったことへの罪悪感と他に好きな子がいるという彼の言葉への悲しみ。私は彼が相手の名前を言う前に聞かれないようにその場を走り去る。
私自身が振られてしまった気になる位に涙が止めどなく流れ落ちる。こすってもこすっても落ち着かない涙を流しながら教室の隅でしゃがんで泣いていた。
よく見かける場面 椎名由騎 @shiinayosiki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます