先制攻撃

「俺……幻覚でも見ているのか? ゴーレムトルーパーが空を飛んでやがる……」


「安心しろ。俺にも空を飛んでるゴーレムトルーパーが見える」


 兵士の一人が空に浮かぶドラトーラを見上げながら呆然とした表情で呟くと、隣で聞いていた兵士も同じような顔で答える。そうしている間にドラトーラは砦の上空を通りすぎて地面に降りていき、その様子を見ていた別の兵士が何かを思い出して口を開く。


「そういえば……。最近新しいゴーレムトルーパーがフランメ王国に現れて、そいつは空を飛ぶって噂を聞いたことがある。名前は確か……ドランノーガ、だったか?」


『それはー、お兄ちゃんのゴーレムトルーパーの名前ー。この子の名前はドラトーラ』


「……え? 若い女の声?」


 兵士が呟くとドラトーラに乗るサーシャが外部音声機能を使って答える。兵士達はドラトーラから聞こえてくる彼女の声に困惑するが、サーシャはそれに構わず言葉を続ける。


『私はー、サイ・リューラン小佐の妹ー、サーシャ・リューラン。今は士官学校の学生をしていますー。このモンスター達はー、私が相手をしますからー、兵士の皆さんは急いで撤退の準備をしてくださいー。何しろー、ゴーレムトルーパーに乗るのはー、これが二回目でー、実戦は初めてですからー』


「士官学校の学生? 何で学生がゴーレムトルーパーに?」


「というより実戦が初めてってどういうことだ?」


「と、とにかく急いで撤退するぞ! 俺達がここにいても邪魔にしかならない!」


 兵士達はサーシャの言葉にますます困惑するのだが、それでも撤退を開始する。ゴーレムトルーパーが現れた以上、通常の兵士に残された仕事は戦いに巻き込まれないよう安全な場所まで退避することだけだった。


「それじゃー、始めますかー」


 砦の兵士達が撤退を始めたのを確認したサーシャは、次に三体の蜥蜴のモンスターに視線を向けて、一番砦に近いモンスターに狙いを定める。


「行くよー、ドラトーラ! 【サギッタ・マヌス】!」


『………!』


 サーシャの指示に従い、ドラトーラの女騎士の上半身がその巨大な右腕を大きく振りかぶって拳を放つ。


 ドラトーラとサーシャが狙いを定めた蜥蜴のモンスターの間にはかなりの距離があり、普通ならばドラトーラの拳が届くはずはない。しかしドラトーラが右腕を振るった瞬間、右腕の装甲が展開してそこから何本もの金属のツタが一つに束ねられたようなものが飛び出し、その先端にある右拳は蜥蜴のモンスターの胴体に命中した。


「ーーーーー!?」


 矢のような速度で遠く離れた位置から命中したドラトーラの拳の威力に、蜥蜴のモンスターはたまらず吹き飛ばされる。


『『う……!? うおおおおっ!』』


 ドラトーラの右腕が伸び、蜥蜴のモンスターを吹き飛ばす光景に撤退の途中であった砦の兵士達が全員揃って歓声を上げる。その歓声は蜥蜴のモンスターに一撃を与えた喜びだけでなく、憧れていたものを見たような感動も混じっており、兵士達の瞳は子供のような輝きが宿っていた。

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