初対面?
「それではここでどうかお待ちください」
侍女達はサイ達を来客用の部屋へと案内すると、そう言って自分達は部屋を後にした。そしてサイが応接間にある長椅子の真ん中に腰を下ろしていると、その右隣に座っているピオンが不満気な顔で口を開いた。
「それにしてもあの侍女達……。マスターに敵意のある目を向けてきて……腹が立ちますね」
「そうですね。あの人達、ずっと私達を冷たい目で見てきましたね」
「でもあの方々の視線は敵意とは違うような……どちらかと言えば苛立ち、でしょうか?」
「ですが私達、侍女の皆さんに嫌われるような事をしたでしょうか?」
ピオンが言うと周囲の椅子に座っていたヴィヴィアン、ヒルデ、ローゼも口々に言い、それを聞いていたブリジッタがためらいがちに口を開いた。
「あの……それはきっと私達がサイさんと一緒にいたせいじゃないですか? その、今回サイさんがフランベルク陛下に呼ばれた理由が理由ですし……」
「あー……。やっぱりそうかな……」
ブリジッタの言葉にサイは納得したような声を出して天井を見上げる。
今回サイ達がフランベルク三世に呼び出された要件は、サイとフランベルク三世の姪との婚約、つまりはお見合いであった。
一夫多妻制であるフランメ王国では複数の婚約者をもつ事はそれ程珍しい事ではない。だがこれからお見合いをするというのに、他の婚約者や女性の従者を複数連れて来たというのは、非常識とまでは言わないがお見合いの相手の女性を軽く見ていると思われても仕方がないだろう。
侍女達に冷たい目で見られる理由を理解したサイだったが、ピオンは納得していない顔をブリジッタに向けた。
「そんな事を言われたって、全員でここに来いって言ったのは他でもないフランベルク三世陛下ですよ?」
「それはそうですけど……。それでもやっぱり、お見合いの席にはサイさん一人のほうがいいと思うのですけど、どうですか?」
「そうだな……」
サイは最後のほうは自分に向けられたブリジッタの言葉に返事をしながら今日自分がお見合いをする相手の事を考える。
「まさか俺が彼女と婚約するなんてね……。一年前までは考えもしなかったよ」
サイがそう呟いたその時。
「へぇ? 貴方が私の婚約者?」
と、サイの左隣、誰も座っていなかった長椅子のスペースにいつの間にか一人の女性が座っていた。その女性は銀色に見える金髪と健康的に焼けた小麦色の肌をした女性で、ピオンとヴィヴィアン、ヒルデとローゼの四人が即座に立ち上がって突然現れた女性を取り囲むと、その女性は感心した様子で自分を取り囲む四人のホムンクルス達を見た。
「わお♪ 中々イイ反応するじゃない? 貴女達も私と同じこの人の婚約者? なんでも私以外にも婚約者がいるって話だったけど」
「……いえ、私達は婚約者ではなく従者のホムンクルスです。婚約者はそちらにいる……」
ピオンが視線を向けるとそれまで椅子に座って様子を見ていた……というか、突然の事態にようやく追いついたブリジッタが立ち上がり、サイの左隣に現れた女性に優雅な礼をして挨拶をする。
「お久しぶりです、クリスナーガ様。五年前のパーティーの時以来ですね」
「ぶ、ブリジッタ様!? 貴女が私と同じ婚約者なの?」
優雅な礼をするブリジッタの姿を見てサイの左隣に現れた女性、フランベルク三世の姪であるクリスナーガ・ライデンシャフトは驚いた顔をして、次にサイの顔を見る。
「貴方……一体何者なの?」
クリスナーガは思わずといった風にサイに訊ねる。この時の彼女には悪意など全くなかったが、それでも今の言葉はサイの心を僅かに傷つけた。
サイとクリスナーガは同じ時期に軍学校に通っていた同級生である。軍学校にいた頃は全く接点なかった為仕方ないかもしれないが、かつて同じ場所にいた同年代の女性に「顔も名前も知らない」と暗に言われるのは男として少し落ち込むものであった。
「あー……。やっぱり俺の事なんて知らないか……」
『『…………!』』
サイが乾いた笑みを浮かべるとピオン達四人のホムンクルスが怒りの目でクリスナーガを睨みつける。そんな五人の態度を見てクリスナーガは困惑する。
「え? え? 私、何か変な事言った? 私達って初対面じゃないの?」
「いや……。俺がクリスナーガさんを知っているだけでこうして顔を合わせて話すのは初めてだよ」
サイは困惑するクリスナーガにそう言うと、彼女に向かって自己紹介をした。
「初めまして、クリスナーガ・ライデンシャフトさん。俺の名前はサイ・リューラン。話をする機会はなかったけど、一応クリスナーガさんと同じ時期に同じ軍学校に通っていたよ」
「私と同じ時期に同じ軍学校に……? ……サイ・リューランってもしかしてアイリーンの幼馴染の?」
サイの自己紹介を聞いてクリスナーガはその名前に聞き覚えがある事を思い出した。そしてその横では……。
「………アイリーン」
一度も会った事はないが、それでもすでに怨敵と認定している人物の名前を聞いて顔をしかめているピオンの姿があった。ちなみにこの時のホムンクルスの少女は、幸いな事に見ている者はいなかったが、まかり間違ってもヒロインがしてはいけないヒドい顔をしていた。
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