挨拶
夜の人気のない森の中に十数人の集団の姿があった。その集団は森の中で焚き火を灯しているのだが、それでも周囲はまだ暗く、集団の正確な人数や外見は分からなかった。
集団の中で一人の男が焚き火の明かりで手に持っている手紙を読んでいると、そこに別の男がやって来て話しかける。
「お頭。一体何を読んでいるんですかい?」
「『豚』からの報告書だ」
「『豚』……あいつからですかい」
お頭と呼ばれた男の「豚」という言葉に、彼に話しかけた男は一人の人物の顔を脳裏に思い浮かべた。
「それで報告書には何て?」
「士官学校にサイ・リューランっていう留学生が留学しているんだが……信じられない事にその留学生、ゴーレムトルーパーの操縦士らしい」
「はぁ!? マジですかい!」
お頭が口にした報告書の内容に男は思わず大声を出す。周囲にいる男の仲間達が何事だと見てくるが、そんなのは気にならないくらいに衝撃的な内容であった。
「確かに信じられない事だが、あの『豚』が今まで間違った情報を寄越してきた事はないだろう?」
「それはそうですが……」
男が頷いたのを見てお頭は大きく息を吐いた。
「計画は一部変更だな。……だがまぁ、相手にゴーレムトルーパーがいるって分かっただけでもよしとしておくか」
「そうですね。……そういえば、何でお頭はあいつの事を『豚』って呼ぶんですかい?」
男が以前より気になっていた事を聞くと、お頭は鼻を鳴らしてから答えた。
「ふん。金や美味い飯に酒を見ると後先考えずに食いついて、いい女を見つけると鼻息を荒くする……。そんな奴なんて『豚』で充分なんだよ」
X X X
「あいたた……。ビークポッドの奴、本気で殴りやがって……まだ痛いよ」
今日の授業と訓練が終わった放課後。サイ達はいつものようにブリジッタがいる図書館に向かっていた。
昼間の訓練でビークポッドに殴られた顎をさすりながらサイが愚痴をこぼすと、ピオンが笑いながら話しかけてくる。
「マスター、なんてお可哀想に……。よろしければ『ぱふぱふ』しましょうか? 私の胸でマスターのお顔を優し〜く挟んだらその痛みもなくなるかもしれませんよ?」
「確かに痛みはなくなるかもしれないけどここではちょっとな……。だから部屋に帰ってから是非お願いします」
「はい♡」
胸元を広げるピオンの誘惑同然の提案に、周囲からサイと呼ばれている巨乳好きな馬鹿がそう答えていると、次はヒルデが口を開いた。
「それでも……マスターもビークポッドさんも随分と打ち解けてきましたね」
「そういえばそうですね」
「確かに。以前は最も険悪……というより、ビークポッド様が一方的にマスター様を敵視していましたからね」
ヒルデの言葉にヴィヴィアンとローゼが同意して、サイもまた同意見であった。
ビークポッドはほんの一ヶ月くらい前までは他の生徒達と同じようにサイに嫉妬の視線を送ってくるだけであった。しかし一度話して見るとお互い巨乳好きという共通点があった為、意気投合して今のような友人関係となれたのだった。
そんな事を話しながらサイ達が図書館に向かっていると、彼らの前に数人の男女が現れた。
それは剣術訓練の時にビークポッドが話していたエレナ・キャンダルとその取り巻きの男子生徒達であった。
「エレナ・キャンダル……!」
自分達の前に現れた男漁りが激しいという噂を持つ女生徒の顔を見て、ピオンがサイ以上に警戒心を露わにして右腕に抱きつく。それと同時にヴィヴィアンが彼の左腕に抱きつき、ヒルデとローゼは彼の後ろについた。
「……ふん。ホムンクルスとは言え、堂々と四人の女性を侍らせているとは噂通りだな、サイ・リューラン。私はアルベロ・ワーキウ。ワーキウ侯爵家の嫡男だ」
「俺の事を知っているんですか?」
エレナの取り巻きの一人、アルベロがどこか軽蔑したような目でサイを見ながら名乗る。何故だか知らないが、彼にそのような目で見られると非常に腹が立つのを感じながらサイが聞くとアルベロは頷く。
「ああ、君は色々と有名だからね。それについ先程、ボインスキー子爵家の子息と出会ってね。彼からも君の事を聞いたよ」
アルベロの口から出たのはサイと隣の席の男子生徒の名前だった。サイは自分の隣の男子生徒の顔を思い浮かべる。
「あいつが……何て言っていました」
「それは想像にお任せするよ。それで私達ぎ君に会いに来た要件なんだが……」
「サイさん。初めまして」
アルベロの言葉を途中で遮り、エレナがサイの前に進み出て来た。
「お、おい! エレナ!」
アルベロや他の取り巻き達の声をかけるが、エレナはそれを聞いておらずサイに挨拶をする。
「私、エレナ・キャンダルと言います。サイさん、よろしければ私とお友達になってくれませんか?」
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