同類

「マスター様。お疲れ様でした」


「怪我がなくて本当に良かったです。愛しのマスター」


「マスター殿! 見事な勝利でした!」


「流石マスター。私はマスターが勝つのを信じてました」


「おあっ!?」


『『…………………………!?』』


 練習試合を終えたサイが自分の従者である四人のホムンクルスの女性の元へ戻ると、ローゼが笑みを浮かべて出迎えてヒルデが彼から木剣を受け取り、ヴィヴィアンとピオンが勢いよく抱きついてきた。


 その際にピオンとヴィヴィアンのスカートがめくれて、下着のつけていない彼女達の形のよい裸の尻が露となり、それを見た男子生徒達は鼻血が出そうになった鼻をおさえながらサイに嫉妬の目を向けた。


 ここまでは士官学校に入学してから何度も繰り返されているやり取りなのだが、今回は少し様子が違っていた。


『『…………………………』』


 ピオン達四人に囲まれているサイを嫉妬の目で睨み付けていた男子生徒達は、何かに気づくと視線をサイ達とは別の方へ向ける。その時の男子生徒達は、まるで憧れの女性を見る初恋を覚えた思春期の男子のような恍惚とした表情をしていた。


「一体どうしたんだ?」


 男子生徒達の変化に疑問を覚えたサイは、彼らの視線の先を見てみるが、そこには数人の男女の生徒達が会話をしているだけであった。


 何故男子生徒達があのような恍惚とした表情をしているのか分からず首を傾げていたサイは、彼らから少し離れた所にいる一人の男子生徒の姿を見つけた。その男子生徒は、練習試合で怪我をしたのか地面に座り込んで他の生徒達の練習試合を見学していた。


「おーい、ビークポッド」


「ん? サイか。どうした?」


 サイがその男子生徒の名を呼びながら近づくと、名前を呼ばれた男子生徒はその場で立ち上がって彼の方を見る。


 ビークポッドと呼ばれた男子生徒は、身長が二メートル近くあり筋骨隆々の逞しい体格を持つ生徒だった。その上、禿頭の目つきが鋭い悪人顔をしている為、とてもサイと同じ年齢の士官学校の生徒には見えず、よくて歴戦の傭兵悪くて山賊団の頭領といった印象である。


 しかし話をしてみると中々気のいい生徒で、彼はこの士官学校で数少ないサイの話し相手であった。


「なぁ、ビークポッド。彼らは一体どうしたんだ?」


「……ああ、そうか。お前はよく士官学校を休むから知らなかったな」


 サイが恍惚とした表情の男子生徒達を指差して聞くと、彼が指差した先を見たビークポッドは納得したように頷いてから説明してくれた。


「この最近、一人の騎兵科の女子生徒が男子生徒達の間で人気になってな、あいつらは全員その女子生徒に熱をあげているやつらだ」


「へぇ、それでその女子生徒って?」


「彼女だ」


 興味を覚えたサイが聞くと、ビークポッドは男子生徒達が見つめている先、先程彼も見た仲良く会話をしている数人の男女の生徒達を指差した。よく見るとその生徒達は女子生徒が一人だけで他は全員男子生徒で、恐らく一人だけの女子生徒が噂の人物なのだろう。


「エレナ・キャンダル。最近になってアックア公国でも有数の富豪が養女に迎えた娘らしい。成績は座学実技共に優秀で、その上人当たりもいいそうだぞ」


「成る程……。それは人気者になるわけですね」


「そうですね。それに中々可愛らしい方みたですし」


「あのエレナさんの周りにいる男子生徒の皆さん、とても幸せそうですね」


「ふむ……。あれが男性が女性を侍らせる通常のハーレムの逆バージョン、通称『逆ハー』という奴ですか。初めて見ましたね」


 ビークポッドが男子生徒達に囲まれている女子生徒、エレナを指差しながらサイに説明をしていると、それまで黙って二人の会話を聞いていたローゼにヒルデ、ヴィヴィアンとピオンの四人も会話に入ってきた。


「………!? こ、これは皆さん! 相変わらずお美しい!」


 ピオン達四人の声を聞いたビークポッドは、顔を真っ赤にして直立不動の体勢になると挨拶の代わりにピオンの容姿を賞賛した。そんな彼に四人を代表してピオンが笑顔を浮かべながら話しかける。


「はい、ありがとうございます♪ それであのエレナさんって人が人気者なのは分かりましたけど、マスターとビークポッドさんはエレナさんと私達、どちら可愛いと思います?」


 先程の会話でサイがエレナに少しでも興味を覚えたのが気になったのだろう。今のピオンの質問は彼女だけでなく、他の三人のホムンクルスの女性も気になるものであった。


「ピオン達だな」「ピオンさん達です」


 しかしそんなピオン達の内心の不安とは裏腹にサイとビークポッドは即答。即答した二人はお互いの顔を見て力強く頷いた。


「そ、そうですか」


「そうだって」


「そうです」


 ピオン達四人がサイが自分達を選んでくれた事に内心で安堵していると、サイとビークポッドはもう一度エレナの方を見る。


 確かにエレナは男子生徒達の注目の的になるだけあって非常に優れた容姿をしている。


 短く切り揃えられた赤毛と金髪が混じったストロベリーブロンドと呼ばれる髪。まるで人形のように整った顔立ち。士官学校の生徒らしく筋肉がついているが、それを意識させない均等の取れた肢体。


 男性の理想形となるように作られたピオン達ホムンクルスの女性には一歩劣るかもしれないが、それでも充分美少女であるエレナ。しかし彼女にはピオン達に決定的に負けている点があった。


「「貧乳には興味ない」」


 サイとビークポッドは全く同時に同じ言葉を言い放つ。


 そう、エレナはピオン達どころか他の女子生徒と比べても大変慎ましい胸囲の持ち主だった。もちろんそれでも彼女の肢体は一般の人間から見て美しく見えるのだが、サイとビークポッドから見れば興味の対象外である。


 全く同時に同じ言葉を言い放ったサイとビークポッドは、お互いに手を差し出すと固い握手を交わした。


 このビークポッドという男子生徒もまたサイと同じく巨乳好きな馬鹿であった。

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