故郷への帰り道

「……あれ?」


 サイ・リューランが目を覚ますと目の前には雲一つない晴天が広がっていた。


「ここは? ……ああ、そうか」


 サイが上半身を起こして辺りを見回すとそこは荷馬車の荷台の上で、自分が故郷に帰る途中で親切な行商人の馬車に乗せてもらっていたのを思い出した。


「……夢か」


「よお。起きたかい、ニィちゃん。何か嬉しそうな寝顔だったが、何かいい夢でも見れたのか?」


 サイが先程まで見ていた夢を思い出していると御者席にいる行商人が声をかけてきた。


「ええ、凄くいい夢でしたね。……できればもう一度見たいくらいの」


「へぇ? どんな夢だったんだ?」


 サイの口ぶりに興味を覚えた行商人が聞く。


「俺が『英雄』と呼ばれる偉い軍人になって、とても可愛い女の子の部下がいて婚約者もいるみたいでした。それで……」


 そこで一度言葉を切ってサイは夢に出た竜の背中に人の上半身が生えた鋼鉄の巨像の姿を思い出す。


「それで?」


「『ゴーレムトルーパー』の操縦士になっていました」


「ははははっ! なるほどなるほど! それゃ、確かにいい夢だ!」


 サイの夢の内容を聞いた行商人が大声で笑う。


 ゴーレムトルーパーとはこの惑星イクスで最強の兵器であり、それを操る操縦士はどの国でも英雄として崇められていて、男の子なら一度はゴーレムトルーパーの操縦士を夢見るものなのである。かくいう行商人も子供の頃にゴーレムトルーパーの操縦士を夢見た経験があった為、しばらくの間面白そうに笑った。


「ははは……! それでそれで? ゴーレムトルーパーに乗る英雄様は一体どこまで行くつもりなんだ? 分かってると思うがこの先には大して大きな街なんてないぞ?」


 しばらく笑っていた行商人に聞かれてサイは一つ頷いて答える。


「はい。故郷のイーノ村に帰るつもりです」


 サイは十五歳の頃、幼馴染みのアイリーンに誘われたのがきっかけで王都にある軍学校に入学した。そして三年の学習期間を終えた今、軍に入隊するまでの一ヶ月の準備期間を使って一度実家に帰る途中であった。


「イーノ村? ……確か、辺境にあるド田舎の村だったか?」


 行商人は記憶を掘り返して確認するかのように聞き返す。行商人の言う通り、イーノ村はフランメ王国の辺境の地にある小さな村で大した特徴は無く、地理に詳しい行商人の中にも知らないと言う者が多い田舎であった。


「ええ。そのド田舎の村ですよ。……本当に、ひいおじいちゃんも何であんな土地を買ったんだか」


「? 土地を、買った?」


 サイが最後に呟いた言葉に行商人が首を傾げ、その様子に気づいたサイが何でも無いように説明する。


「ああ、イーノ村とその周辺って俺のひいおじいちゃんが買った領地なんですよ。俺の家、一応男爵家ですから」


「………!? りょ、領地! それに男爵家って! ニィちゃん、いや、貴方はき、き、貴族なんですかい!?」


 自分の馬車の荷台に乗っている冴えない外見の青年が貴族、男爵家の人間だと知って驚く行商人だが、当の本人であるサイは苦笑いを浮かべる。


「そんな急に敬語なんて使わなくてもいいですよ。言ったでしょ? 一応って。貴族って言っても名ばかりで、ひいおじいちゃんが今の領地を国から買い取ったのがきっかけで爵位をもらっただけ。実際は平民と変わらないんですよ。当主である父さんだって『イーノ村の村長』という権限しかなくて他の村人と同じように畑を耕しているんですから」


「そ、そうなのか?」


 意外そうな行商人の声にサイは肩をすくめて答える。


「そうなんですよ。本当に何もない所なんですよ。ウチの領地、と言うかイーノ村は」

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