英雄機ドランノーガ
小狗丸
惑星イクス
「マスター」
「ん?」
若い女性の声に呼び掛けられて一人の男が後ろを振り返る。
マスターと呼ばれた男はまだ二十にもなっていない十代の青年だった。
髪の色は黒で瞳の色は青。中肉中背で左目が髪で隠れている地味な顔立ち。しかし着ている服は上級の将官しか着ることが許されない立派な軍服という、ちぐはぐな印象の外見をしていた。
そんな青年の目の前にいるのは、青年と似たような軍服で身を包んだ一人の少女。
少女は青年とは逆に非常に整った顔立ちをしており、顔立ち以外にも鮮やかな赤紫の髪、小柄だが黄金比がとれた肢体、そして軍服の上からでも分かる豊かな胸元と非常に魅力的な外見をしている。
「どうしたんだ?」
「どうしたんだ? じゃありませんよ。『彼女』達から連絡がありました。もうあちらにいる方々の準備はできたそうです。後はマスターが『開戦の合図』を出すだけです」
「そうか。……」
青年の言葉に少女は僅かに呆れた様な顔を見せてから言うと、それを聞いた青年は返事をしてから何かを考えるように空を見上げた。
「? どうしましたか、マスター?」
「いや……。俺が王国の精鋭を率いてモンスター退治の指揮を取っているなんて今更ながら夢のようだと思ってな……」
青年はこの地にいるモンスターの群れを退治する任務の為にこの地に来ていた。
別の場所には青年と同じくモンスター退治の任務を受けた王国の精鋭である兵士達が準備を整えており、その全てが「開戦の合図」、青年がモンスターの群れに先制攻撃をするのに続いて攻撃を開始する予定であった。
「何を言っているのですか、マスター」
空を見上げながら呟く青年に少女が叱るような口調で言う。
「マスターが王国の精鋭を率いるのは当然の事です! マスターはフランメ王国の英雄なのですから! ほら、いつまでも無駄話をしていないで行きますよ、マスター」
「うわっ!? 分かったから引っ張るなって」
「マスターが速く歩いてくれるなら引っ張りません。それにこの戦場には『彼女』達だけでなく、あの『お二人』も来ているのですから、格好いいところを見せるチャンスですよ」
「そうだな。確かに婚約者達にはいいところを見せたいよな」
少女は青年の腕を掴むんで進み、青年も返事をしながら少女について行く。
そんな二人の行く先には、竜の背中に人の上半身が生えた鋼鉄の巨像があった。
X X X
地球から遠く離れた宇宙の果てに惑星イクスという星がある。
かつて惑星イクスには高度に発達した文明があり、惑星イクスの人類に多くの恩恵を与えていた。
宇宙に築いた居住空間。
ナノマシンの技術を用いた高性能な機械類。
遺伝子調整によって発現した超能力という人類の新たな可能性。
これらの文明の恩恵により惑星イクスの人類は長い間豊かで平和な日々を送っていたのだが、その日々はある日突然終わりを迎えた。
惑星イクスに「モンスター」と呼ばれる凶悪な生物の群れが現れて、惑星イクスの人類に牙をむいたのだ。
惑星イクスの人類は総力をあげてモンスターの群れと戦い、そのほとんどを滅ぼすことに成功したのだが、モンスターとの戦いは苛烈を極めていて人類が負った被害は決して少なくなかった。しかし不幸はこれだけでは終わらず、更なる不幸が惑星イクスの人類に起こった。
モンスターとの戦いの直後に新種の人体に害を与えるウィルスが発生して惑星イクス全土で猛威を振るったのだ。
モンスターとの戦いで多くの人材や研究施設を失った惑星イクスの人類にはウィルスのワクチンを開発する余力なんてなく、多くの人間がウィルスによって死んでしまう。それによって惑星イクスの人類は文明を維持できないくらいに人口を減らし、かつては別の星まで行ける程繁栄した文明は衰退してしまった。
そして辛うじて生き残った僅かな人々が一から新たな文明を築いてから数百年後。
前の文明とモンスターとの戦いの歴史が「伝説」に、前の文明の技術が「魔法」となって惑星イクスに暮らす人々の中で朧気な存在となった時代。
惑星イクスにある国家の一つ、フランメ王国の辺境の地で後の世に「英雄」として名前を残す一人の男の物語が始まろうとしていた。
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