第3話

「ごめッ、ごめんなさい…、こんな夜間にめ、迷惑ですよね…」


 不機嫌そうな顔を見た渚ちゃんが、怯えながらも謝罪する。


「いや、ぜ、全然迷惑なんかじゃ無いよ!取り敢えず、外は寒いから家に上がってッ」


 慌てて取り繕う様な笑顔を浮かべた俺は渚ちゃんを家に迎い入れる。

 彼女は激しく嗚咽しながらしきりに御免なさい、御免なさいと呟いており。

 どこからどう見ても、様子がおかしい。

 彼女の両手一杯に抱えていた手荷物を部屋の傍に置いて考える。

 渚ちゃんは優作さん彼女の父親と口喧嘩でもして、勢いのまま家出したのだろうか。

 だがしかし、ただの口喧嘩で、ここまでパニックになるか?

 ……そんな訳がない。


「渚ちゃん、何かあったの? 俺で良ければ話を聞くけど……話すのが嫌だったら、無理して話さなくても良いから」


 ひたすらに泣きじゃくる渚ちゃんに対し、優しい声色を心がけて、話しかける。

 すると、彼女は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、家出した経緯を話し始めた。


「……突然私の家にお父さんと私を筈のお母さんが帰ってきたんです…」


 俺はその言葉を聞いて率直に驚く。

 渚ちゃんの母親は数年前に不倫をして、彼女のお父さんと離婚した筈だ。

 もちろん、離婚の原因となったのは母親の方で。

 聞いた話によると、彼女は他の男と不倫していた上に……優作さんがブラック企業で働いている裏で、肉体的暴力を始めとした虐待を渚ちゃんに行っていたそうだ。

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