近所に住むクールな少女が実はめちゃくちゃヤンデレだった件。
門崎タッタ
本編
第1話
「今日のバイトもめちゃくちゃ激務だったなぁ〜」
自分の肩を揉みながら、そう独り言ちる。
俺の名は
21歳の男性で、アルバイトで生計を立てている、フリーターと呼ばれる人種だ。
幼い頃から将来の目標を持たずに楽な方向へと歩んできた俺は高校を卒業する前に内定をもらう事が出来ず、無職になってしまい。
そんな俺に心の底から失望した親は家から追い出したため、ボロアパートで一人暮らしを余儀なくされているというわけだ。
回想に浸りながら歩みを進めていると、俺の部屋の前に美しい容姿を持った少女が佇んでいるのが見えた。
「お帰りなさい、下山さん」
「ごめんね、随分と待たせちゃったかな?」
「いえ、私も学校から帰ったばかりでしたので」
表情の変化が少ない美少女。
彼女の名前は
幼い頃から親交がある人の娘である。
渚ちゃんの父親はブラック企業で勤めている上に、自分の嫁に逃げられてしまったため、彼女の面倒を俺に頼んでいるのだ。
因みに、面倒だと思った事はない。
彼女の食費と共に、給料のようなものまで頂いているからな。
寧ろ、願ったり叶ったりだ。
「今日の夕飯は炒飯でいいかな?」
「はい……」
夕飯を作りながら、ふと俺のベットに腰掛けながら本を読む渚ちゃんを一瞥する。
艶のある手入れの行き届いた黒髪。
父親譲りの切れ長の瞳に端正な顔立ち。
それらを併せ持つ彼女は何処か中学生離れしている大人びた雰囲気を見に纏っている。
……ここまで、可愛いのなら、同じ中学校の男子からは高嶺の花のような扱いを受けているんだろうな。
だがしかし、浮いた話は彼女の口から聞いたことは無い。
突然だが、俺には絶対に他者には他言する事はできない性壁を持っていて。
……簡潔に言うと、俺はロリコンである。
勘違いしてもらいたく無いが、勿論彼女の事を性的な目で見たことは一度も無い。
一度も無い……が、女性として、意識してしまいそうになる事は多々あって。
「何考えてんだ、俺は」
雑念を消すために頭を振る。
次いで、調理を終えた俺はテーブルの上に二人分の炒飯を置いた。
肝心の渚ちゃんは炒飯の匂いに釣られたらしく、読んでいた本を置いてテーブルの前で着席している。
自慢では無いが、一人暮らしを始めてから、一日も自炊を怠った時は無い。
バイト先の定食屋の店主に太鼓判を押させるぐらいの料理の腕が俺にはあった。
「たくさん食べてくれよ、渚ちゃん」
「……はい」
心なしか、俺の料理を食べる彼女の表情が柔らかくなるのを感じる。
……彼女と共に食卓を囲むこの時間が俺にとってはとても大切なものだ。
なんというか、心が暖かくなる。
「炒飯ありがとうございました。今日も美味しかったです」
彼女は俺の顔をじっと見据えながら、夕飯の礼を言った。
一見すると彼女は表情を変えていない様に見えるが、よく見ると僅かに微笑んでいる。
食事を済ませた後は各々の時間を過ごす。
彼女は俺のベットに寝そべりながら学校から借りてきた小説を読み、俺は椅子に腰掛けてスマホを用い、ネットサーフィンを行う。
閑静な空間が出来上がるが、不快感は感じない。
長い間、面倒を見ているからかもしれないが、彼女も俺に対して心を許してくれているように感じる。
……なんて、事を考えていると、携帯の通知音が部屋に響き渡る。
どうやら、渚ちゃんの父親が帰宅して、彼女にLINEで連絡したようだ。
彼女は帰り支度を整えながら、こちらを一瞥し、ぺこりと頭を下げた。
「今日も一日お世話になりました。明日もまたよろしくお願いします」
「気にしないで。こちらこそよろしく」
玄関口から外に出る彼女の背中を見送りながら、俺は何処か名残惜しさを感じる。
家が近いため、見送りの必要がない事は分かっているが、それでも見送りたいと思う。
要するに、俺は彼女と別れたくなくて。
少しでも一緒にいたいのだ。
我ながら、気持ち悪い事この上ないが。
だが、それを言葉にする事はなく、彼女を見送った俺は部屋の戸締りをする。
そして、明日も朝早くからコンビニのバイトがあるため、さっさとシャワーを浴びてベットに潜り込む。
次いで、目を閉じると、体が強張った。
……いつまでもアルバイトで生計を立てることは出来ないということは俺自身も実感している。
だからこそ、怖くて眠れない。
自らの将来に漠然とした不安を感じており、目が冴えてしまうのだ。
どんなに寝たいと思っていても、息苦しさを覚えて眠ることが出来なくなる。
「ん……?」
良い匂いが鼻腔をくすぐる。
渚ちゃんがベットに寝そべっていたからか、掛け布団から馥郁たる香りを感じた。
……すると、彼女の笑顔が脳裏に浮かぶ。
「また明日……か……」
その言葉を口にすると、俺が感じていた不安が立ち消えて。
瞬く間に、猛烈な睡魔が俺の脳味噌を蕩かす様に襲ってくる。
……そのまま泥の様に眠った俺は確かな安心感をその胸に抱いていた。
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