百合の花が咲く頃に

たくらまかん

無情に

 濃い茶色のカーテンが揺れる隙間から、朝靄に霞んだ来光が部屋に注がれる。その光に薄く照らされながら、僕たちは激しくお互いの体を弄り合う。深い愛を証明するかのように舌を絡め合いながら。

 彼女は目を閉じ、快楽を得ているようだった。その表情を見るだけで体が反応し、果てかける。

 真白のベッドに僕たちの汗が浸透していく。それはやがて冷ややかな感触を皮膚に与える。

 彼女の体の上を這うように指を滑らせ、陰部を触るとそこは愛液で満たされていた。その滑らかな液体は僕の感情を高揚させた。指を中で上下に優しく動かすと彼女は小さな声で喘いだ。その声を聞きながら、僕の指は無意識に奥へと伸びていく。奥へと行けば行くほどに彼女の声は高く、激しくなり、顔は紅潮する。僕はその表情から目線を逸らしながら、体を半分だけ彼女の上に重ね、下半身を彼女の下腹部に擦り合わせた。

「挿れたいの?」

 僕は右手をゆっくりと動かすことに神経を使いながら、首を縦に振った。

「でも今日はゴムないから」

「そのままじゃだめなの?」

 少しだけ激しくなった右手の動きに合わせて彼女は目を瞑り、声をあげた。その表情を見た瞬間、僕は一心不乱に動かしていた右手の動きを止める。僕は彼女の上から体を降ろした。

「今度でいいよ」

 僕がそう言うと、彼女は拍子抜けしたようだった。そして含み笑いを浮かべた後に僕の下半身を触り始める。不覚にも体は快感を覚えていた。

 そして彼女の手が高速で動き始めた後僕は果てた。僕が息を整えている最中、携帯電話がけたたましい音で鳴り響いた。彼女は僕の下半身から手を外し、急いでティッシュで拭いた。ぬめりのある彼女の唾液で濡れた体は朝の光を浴び、煌めいていた。

「ごめんね」

 そう言うと彼女は店からの電話を取った。僕は初めて店から嬢に電話がかかってくることを知る。

「お風呂入る?」

 電話を切った後、笑顔で彼女は言った。僕は首を横に振る。彼女は少し残念そうな顔をした後に、わかったとだけ言ってバスルームへと向かった。

 シャワーの音が部屋に響く。この手のホテルは所詮プレハブ小屋のようなものだろう。隣の部屋に声が届かないのかと心配になる。今の段階でどの部屋からもいやらしい声は聞こえてこないから意外と防音性には優れているのかもしれないが。

 シャワーの音が止まり、しばらくすると白いバスタオルを羽織った天女が部屋へと降臨した。仄暗い部屋でも神々しさがわかる。

「お風呂本当に一緒に入らなくてもよかった?」

「風呂は一人で入りたいんだ」

「そっか」

 寂しげにそう言った彼女は壁にかかった時計を見た後に脱ぎ捨てていた服を拾い上げ、着替え始めた。若い女が結婚式で着るようなパーティードレスを思わせる服装。血塗られたようなルビー色のドレス。彼女によく似合っていた。

「じゃあね。名刺渡しておくから。ご指名お待ちしております」

 テーブルの上に名刺を置いた後、彼女は僕を見て、ウインクした。

 僕はこの人の名前を初めて知った。紙媒体で偽の名前を。

「今度は指名するよ。いついるの?」

「私決まってないの。気まぐれだから。縁があればまた必ず会えるよ」

 小さなバッグを肩にかけて、彼女は出口へと向かっていった。

「あとさ、どうでもいいけど僕って言う大人久しぶりに見た。レアだから覚えておくね」

 最後に少しだけの笑みを浮かべて彼女は去っていった。甘い香水の匂いを残したまま、孤独な無音の空間になった。

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