女性バンドPH7⑤メンバーは揃ったので次は何をしよう?

江戸川ばた散歩

第1話 炬燵内会議。

 物事には順番というものがあるのよ、と彼女は言った。


 だがそれはどんな順番なんだろうか、と言われた彼女にはよく判らなかった。

 何故なら言われた彼女には言った彼女のヴィジョンがいまいちよく理解できなかったからだ。

 それは言われた彼女に理解力が不足していたからではない。言った彼女のヴィジョンが言われた彼女にとって突拍子もないものだったからだ。


 何だかゲシュタルト崩壊しそうな出だしだが、このバンドにはありがちなことである。



「音源を出そうか」


とリーダー殿はのたもうた。


 ん? とTVの中の巨大クリスマスツリーを眺めながらみかんをむいていたMAVOは問い返した。

 ミーティングである。本日の議題は二つ、とリーダー殿はのたもうた。その一つ目が先の台詞である。


「音源… ってことはCDだね」

「そ。いー加減ここいらでステップアップせねば」

「そーだね… アルバム? 何曲入り?」


 うー寒い、と言いながらこたつに足を突っ込んでいたFAVが訊ねる。冷え性なんだ、と言う。


「まあ一時間近い方がいいな。どーせCDは七十四分入るんだから、できるだけ有効に使わねば」

「ななじゅうよんぷん」


 はあ、とP子さんが復唱する。


「七十四分というと、だいたい一時間ちょいですか」

「もうちょいあるぜ。一時間十四分だから」

「と、するとだいたい十三、四曲ってとこかな」

「長い曲入れれば十二曲くらい」


 いずれにせよ、大仕事になりそうな予感が…… メンバーの誰にも、した。

 よいしょ、と長方形のこたつの、長い方の、TVに面した方にMAVOが居たのだが、HISAKAはその隣に入り込む。それにしても寒くなったわね、とか言いながら。

 FAVとTEARは狭い方の辺に対面して座っていた。

 別に横に座ればいいのに、とFAV以外の誰もが思っている。

 いや別にFAVとて今更隠している訳ではない。ただあまりバンドの話している時に馴れ馴れしくなるのが嫌だっただけだ。

 まあ当の思われている本人も、実際はバンドのことに関しては非常に真面目だったが。

 そしてMAVOの視線とTVとがかち合わない位置にP子さんが座っていた。

 こたつ盤の上にはみかん篭が置かれている。既にMAVOの前には二つ三つ、むいた皮と筋が置かれている。


「で、何処のインディーズレーベルから出す訳? それともそれを今から相談しようっての?」

「そのことだけどね」


 FAVの問いにHISAKAは首を回しながら、


「まあ色々と話はあったのよ」

「ほお」


 四人してうなづく。


「インディだけじゃなく、メジャーからも話がない訳でもなかったのよ」

「はあ」


 これには四人とも目を見開く。

 そんなことがあったのか。

 マリコさんがお茶ですよ、と丸い盆に急須と湯呑みを人数分乗せてくる。そしてP子さんの横に座った。

 やがてこぽこぽ、とお茶を注ぐ音が全員の耳に届く。


「だけどねえ」

「だけど?」


 のぞきこむようにしてMAVOが問いかける。


「どーにも、あんた達に話すのも馬鹿馬鹿しいよーな話が多くて、悪いけど握りつぶしました」

「……」


 は? とFAVとTEARは目を丸くした。


「何、メジャーから話があったってのは凄いじゃん」

「TEARさあ…… あんたもしももっとぴらぴら、女の子仕様の『衣装』着ろって言われたらどーする?」

「へ?」

「話はあったのよ、ただし、『女の子バンド』としてね」

「げ」


 弦楽器隊三人が顔をしかめて見合わせた。確かにHISAKAが「握りつぶす」はずである。


「しかも曲はこっちで用意する、売れる曲を渡せるシステムがあるからどーのこーの…… あまり馬鹿馬鹿しかったんで、途中までしか話記憶してないのよねえ」

「なるほどそれなら判る」


 そうつぶやいてTEARはみかんを一つ取る。


「音聞いたことねーな、そりゃ」

「だから音源が要るな、と最近非常に思った訳よ」


 納得、と全員がうなづく。P子さんはお茶をずずっとすする。


「じゃあ、インディの方は?」


とFAV。


「うん。それも一応話は聞いてみた。だけどどーも引っかかる」

「引っかかる?」

「説明があいまい。特に売れた盤と収入の関係が」

「と、言うと」

「つまり、何に対してお金が支払われるか、ということなんですが」


 それまで黙っていたマリコさんが口をはさむ。全員の視線がそちらへ集まった。TVからは天気予報のテーマソングが流れている。


「例えば、私達がそういうものを作るとします。そこで、私達が… とにかくおおもとの物を作ります」


 まずそういうものがありますね、とマリコさんは近くのメモ用紙を取って、赤の細いサインペンで「オリジナルのもの」と書き込んだ。視線が集中する。


「で、そこからが違うんです。インディで出す時、大きく言って二つ方法があります。一つは、現在あるインディーズ・レーベルに製作を依頼して、そのレーベルの持っている流通経路に卸し、ある程度の売上に対する収入を得る、という方法です」

「流通経路?」


 紙に線を書いていくマリコさんにMAVOが訊ねる。


「つまり、何処で売るか、ということです。ねえMAVOちゃん、インディのレーベルのCDって、普通のレコード屋で見ますか?」


 ううん、とMAVOは首を横に振る。


「凄く大きいか…… でなかったら、小さいけどロックならロックって専門みたいになっている店とか、中古の店とか」


「ですよね。で、その売っている店でも、あるレーベルのものは置いてあるけど、あるレーベルのものはないってこともある訳です」


 あ、そういえばそうだな、とFAVはつぶやく。


「それがそのレーベルの流通経路ってことです。だから、そのレーベルに頼めば、全国の、そのレーベルが『置かせてもらっている』店には自動的に並ぶ訳ですよ」

「ほー」

「で、問題はそこなんですが」

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