妄想1

@Ak386FMG

第1話

「えっ! 私たち、すごくないですか!?」

 宇治さんは、ぱっと顔を輝かせた。

 そんな言葉に、僕は、まんざらでもないように、照れているのを隠すように笑う。

 僕と宇治さんは、古都大学の新入生で同じクラスになった。クラスとはいっても、基本的には、語学の講義が同じ、というだけのことである。

 入学式の後、クラスの懇親会を先輩方が有志で開いてくれたのだが、たまたま僕の右隣に座っていたのが宇治さんだった。宇治さんは、ショートカットのよく似合う、子犬のような女の子であった。懇親会は、大学内にある中庭で行われていたが、そこに咲いている桜は、春の訪れを喜ぶように辺りを飛び回っている。ビールの入った紙コップを持った僕には、全く似つかわしくないように感じた。


 懇親会とはいえ、最初に話すのは、どこ出身だとか、何が好きだとかそういうことであるが、僕と宇治さんは、どちらも愛知出身で、高校も、中学校も、小学校も一緒だった。よくよく宇治さんの話を聞いていくと、最寄りのスーパーや最寄りの神社などが見事に一致しており、逆になぜ今まで話したことがなかったんだろうと笑い合った。

 全く話したことがなかったのは、ただ、僕の方が1つ年上だったからだ。


 宇治さんと地元トークで盛り上がっていると、ふと、あの日のことが話題に上がった。

 それは、僕が小学生のころ、神社の秋のお祭りで起きた話である。


 僕らの最寄りの神社は、仰々しい参道のようなものがあるわけではなく、鳥居とそこそこの広さの境内があるくらいの小規模な神社である。秋のお祭りでは、中央で火が焚かれ、隅の方で地元の運営する屋台が3つ4つくらい並んでいる。

 その日も、同じようにお祭りがおこなわれていた。僕は、友人たちとお祭りに行き、たこ焼きを買ったりして遊んでいた。そしてその日の屋台が終了するころ、突如として中央で焚かれていた火が、ごうっと燃え上がり、天まで届かんばかりの勢いで激しく燃え上がったのである。本殿や周りの木に燃え移っては大変と、急いで消防に連絡がなされたが、その消防隊が到着するまでの間、奇妙なことが起こった。

 空から紙がひらひらと舞い降りてきたのである。その紙は、中央の火で燃えてしまったものもあったが、燃えずに落ちてきたものもあった。

 そのうちの1つが、阿保みたいに口を開けて空を見上げていた僕の顔の上に載ったのだった。


 その紙を見ると、「桜 ↓ 右」と記載され、真ん中に鳳凰の絵が描かれていた。もちろん当時は鳳凰なんて分からなくて、高校に入って、日本史を勉強していたときに分かったのである。僕は、その紙をいまだに大事に持ち歩いているのだった。


「あれってなんだったんですかね?」

 宇治さんは、そう言って自分のかばんの中から、例の紙を取り出した。その紙には、「麦 ← 大好き。」と記載されている。


「あ、今見ましたか? べ、別に私、麦が大好きとかそういうわけじゃないんで!」

 宇治さんは、一人で慌てて、手をぶんぶん振ってごまかそうとする。


「いや、そうじゃなくて、僕も似たようなのを持ってるんですよ。」

 僕は、そうやって笑いながら、同じような紙をかばんから取り出す。

「へー、藤原さんって鳥の絵が描かれてるんですね。私は魚ですよ。ほら」

 そう言いながら、さっきの単語が書かれた部分を手で隠しながら、紙を僕の方へ向けた。なるほど、確かに魚の絵である。これはホッケであろうか。


「でもきっと、これは神様からの啓示だと思うんです。だから私は、これを大切にとっておきたいと思ってて」

 宇治さんは、にこっと笑う。僕は、そのあまりの可愛さに心底惚れてしまって、その笑顔が頭から離れなくなった。彼女の右ほおについているほくろも同じだった。


 花見が終わり、お開きとなった。

 僕が下宿に帰ると言うと、宇治さんも帰るらしい。

 僕は、こっちの方だからと言うと、宇治さんも同じ方だと言う。結局同じアパートだと分かった。

「私たち、すごい偶然ですね。」

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