8月15日

 8月15日がやって来た。

 あっちゃんと約束した花火大会の日がやって来た。もちろんもうあの病院に行こうとは思わなかった。それよりも、早く明日になってくれないかとずっとお祈りをしているような状態である。


 いつもは勝手に外に遊びにいってしまうモグが今日に限ってずっと僕の近くから離れようとしない。なぜか彼が側に居てくれる少しだけ気持ちが楽になった。


「雄太たまには散歩でも行ってきなさい。夏休みになってからずっと家にこもりっきりじゃないの。少しは日光を浴びないとまた、病気になるわよ」そう言うとお母さんは半分無理やり僕を家から追い出した。


 当てもなくブラブラと歩く。その後をモグが着いてくる。


「暑いね、モグ……」黒猫のモグはその黒い毛並みのせいで尚更暑そうであった。また、アスファルトも熱を吸収しており鉄板のように熱くなっていると思われる。モグは少しグロッキー気味であった。


「モグ、おいで」僕は彼に手招きをする。モグは器用に僕の体をかけ上ると肩の上にちょこんと座った。やはり足の裏側が熱くなっているようであった。


「ちょっと日陰にいこうか」


 にゃ~


 モグは賛成と意思をしめした……、ような気がした。


 公園のベンチに座るとモグは肩から降りて一人前に隣に座った。

 さすがにお盆真っ最中のこの灼熱地獄では遊んでいる子供も見当たらない。お母さんはたまには外にでないとと言ったが、逆に体に悪そうな感じであった。


 木陰が気持ち良いので少し睡魔に襲われる。両肘を足に着いてグッタリとする。


「ねえ、ねえ」唐突に女の子の声がする。目を開くと目の前に赤い靴が見えた。僕の鼓動が激しくなる。ゆっくりと視線を上げていくと目の前には、昌子ちゃんが立っていた。


「あー、ビックリした。昌子ちゃんか……」気持ちを落ち着かせるように胸の辺りを擦る。


「失礼ね!人の顔を見てビックリしたって!」昌子ちゃんの頬っぺたがぷくりとふくれた。


「ごめんね。どうしたの?」突然目の前に現れたら驚くのは当たり前だろうと思ったが……。 


「公園の前を通ったら、前田君が入っていくのが見えたから、これ君の猫?可愛いね」彼女はモグの頭を撫でた。モグは嬉しそうに目を細める。


「名前はモグっていうんだ」


「そうなんだ。あっ、そうだ今晩の花火大会は見に行くの?」昌子ちゃんが話題を帰る。花火大会という言葉を聞いて少し背筋が寒くなる。


「ううん、今晩は用事があるから行けないんだ……」今晩は家から出ないつもりであった。


「なーんだ、せっかく私達の浴衣姿が見れるのに、残念ね」彼女は軽く小石を蹴った。


「ごめんね、またの機会にお願いします」僕は丁寧に謝った。


「そうね」少し他愛のない会話を続けてから、昌子ちゃんは手を振りながら公園から出ていった。


「僕達も帰ろうか」モグに語りかける。モグはスタスタと来たときと同じように僕の肩の上に乗った。


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