今夜、迎えに行きます……。黒猫モグと僕の物語

上条 樹

あっちゃんとゆうちゃん

 僕はどちらかといえば体の弱い方であった。


 喘息により小さい時より、何度も入退院を繰り返していた。ちょうど今も入院真っ最中であった。


 今日は比較的気分が良いので屋上の空気を吸いに一人階段を上ってきた。天気が良くて日光が沢山体に注いで気持ちがいい。


「こんにちわ」突然背後から声をかけられて驚く。少しおどおどしながら振り向くとそこにはパジャマ姿の可愛らしい少女が立っていた。肩が冷えないようにジャンパーを羽織っている。


「こんにちわ……」初めて見る可愛らしい女の子に少し緊張しながら挨拶を返す。正直いうと今までの短い人生の中で女の子と話をする機会などほとんどなかった。


「私、ここの景色好きなの。向こうに少し海が見えるでしょ。たまに大きな船が見えるの、私もあの船に乗ってみたいな」女の子は両手のひらを胸の前で合わせて願うように呟いた。


「本当だ。海が見えるのんだね。気がつかなかった」屋上に来て心地よい風に当たる事を目的としていて、落ち着いて景色など楽しんだ事などなかった。


「貴方もこの病院に入院しているの?」少女は僕の顔を見た。彼女は少し古風な感じのする髪飾りを頭にしていた。透けるような白い肌でおかっぱのような髪型が可愛らしい。


「うん、僕は小児喘息で入院しているんだ。一度咳が出ると苦しくなってしまって……、その時は、ホントに死にたい位に苦しくなっちゃうんだ」僕は物心つく前からこの病気で嫌な思いばかりしてきた。


 学校の運動行事もほとんど参加したこと事がない。学校に行ける事自体が少なくて友達と言えるクラスメイトも皆無である。

 ちなみに僕は今、中学二年生十四歳である。


「ふーん、そうなんだ。私は胸の病気で入院しているの。中々治らなくて……、ねえ良かったら私とお友達になってくれないかな?」女の子は少し恥ずかしそうな顔をして聞いてきた。


「あっ、僕なんかが友達でいいの?」突然の申し出に驚きと喜びの混ざりあった感覚に襲われる。


「ええ、もちろんよ。私は大倉おおくら敦子あつこっていうの。貴方のお名前は?」


「僕は前田まえだ雄太ゆうた。宜しく……」なんたか恥ずかしくて声が小さくなってしまった。


「雄太君か……。ゆうちゃんって呼んでいい?私の事はあっちゃんでいいからね」急に二人の距離が近づいた気がした。


「あっちゃん……」


 こうして僕とあっちゃんは仲良しになり、毎日、屋上に行く事が入院中一番の楽しみになった。

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