レグサリオスの首飾り~空と大地の盟約
モカコ ナイト
プロローグ
《世界創成神話より抜粋》
『レグサリオスの首飾り』
首飾りに宿りし、祝福の力もて、空と大地の盟約取り交わされし時、大地の怒り鎮まり、天、慈愛の涙を流すであろう。
空と大地の盟約の一族、この世界の礎にて、柱なり。
かの血族絶えしとき、天より審判の矢が降り注がれるだろう。
かの血族、殺めしとき、大地の怒りが汝らを飲み込むであろう。
盟約の大地より、かの一族絶えしとき、空は大地の拘束から解き放たれるものなり。
その時こそ、この世界の崩壊の始まりなり。
◇◇◇◇
興神暦五百三十二年、五月―――
ファルファラ公国、王都アヘブ。
春の花が淡く色づくその日、王宮に二つの産声が谺した。
『うわぁん…うわぁん…』
『あぁん……うわぁん…』
双子の王女の誕生であった。
一際豪奢に彩られた部屋に、付きの侍女が壁に並び立ち、女医と看護士の女性とが忙しなく手を動かしていた。
臍の尾を切り、切り口を消毒し体を洗い、産後の状態を確認し、おくるみに包む。
その作業を二人分こなす必要が有るのだが、近頃は王家に落とされる国の予算が減らされた為、二人の赤子が産まれると先んじて知り得ていたにも関わらず回された人員は通常通りだった。
「姫君方は健康そのものです。それでは、王妃様、姫君方を星見堂へお連れしますね」
ファルファラ公国では、誕生した王族は産まれて直ぐ星見堂で特別な占星術を受けることになっている。
その赤子がどの様な星の元に産まれ、どの様な祝福或いは使命、役割を担っているのかを占うのだ。
それが、その赤子のその後の育成方針・指針として定められる。
***
王宮、南東にあるドーム状の屋根を持つ建築物。内部中央には円状の白い台座が有り、ふかふかと柔らかそうな深緑の四角いクッションが置かれていた。そこに双子の赤子は置かれる。
天井には、煌めく夜空を写したかの様な紺碧と淡く儚く瞬く星々が輝いていた。
紫のフードを目深に被った女と、神官服の男達がその台座を取り囲み何やら唱え出す。
「煌めく星の神々よ、産まれ来た王女の定めを応えよ……」
紫のフードの女が唱えると、天井の星が動きだし、そして幾つかはチラチラ消えていく。
動きは加速し、星々が流れ出す。
一つに集約したかと思えば二つに割れ、そして片方が脆く崩れ去っていった。
「これは……!!」
女が『信じられない!』と、声をあげる。
神官達にも、女の様子に動揺が走り室内は緊張が走る。
「……どうだったのです?良くない結果だったのでしょうか?」
神官の問に女は首を横に振り、「判断を下すのに、少し有余を下さい」と、答えた。
神官達が去った後、女は一人ごちる。
「何て事……またなの!?」
しかも、今回は二人……。どちらが本物かも読み辛い事に、二者の気配や命の配分は極めて近いもの。
「何なの?何で二人も産まれるのよ……!?」
最上位神界ヴァストピア。そこに生まれた女神ヴィシュヌ。
終焉と断罪。それに豊穣と祝福の女神でも有る。
女にとって、ヴィシュヌは歳の離れた異母妹でもあった。しかし同時に邪魔で目障りで仕方の無い存在の生まれ変わりの女神でもある。
罠にかけ、殺した筈だと言うのに、またぞろこの世界に転生したのか……しぶといこと!!
「また、殺されるために生まれたのね?それも、二つも器を用意して……。良いわ、今度はどうやって貴女を追い詰めて、殺してあげましょうか?うふふっ……うふふふふっ…………」
その後、直ぐに双子の姫は『災い』と『破滅』をもたらす者。直ぐ様神の身許に送り返すのが妥当と評された。
◇◇◇
「王妃様~、姫様達、只今戻りました~♪」
侍女の二人が連れ出された姫達を連れ部屋に戻ってきた。
二人の赤子を産み落としたのに、当の王妃が赤子と対面するのはこの時が初めてだった。
金色でふわりとカールする髪と翠の瞳。同じく金色で緩やかな曲線を描く碧の瞳の王女だった。
二人とも双子だけあって、少々小さく感じるけど、プックリ膨らむ白い頬が淡く桃色に色づいた様は、何とも言えぬ愛らしさがある。
双子の授乳を終え、一心地付いたところで扉の外が慌ただしくなりはじめた。
『駄目です!この先は王妃様の寝所…喩え神兵であっても、お通しできません』
『我々も賢者様からの命令で動いたいるのです!』
神官が来てこの大騒ぎ、これは『なにか有る』。
王妃はそっと王女を抱え窓辺へと移動した。
産後間もない。初産故に悪盧が多く貧血が襲う。
『バンッ』
ドアが開かれ、神兵と神官が王妃の部屋へと乱入する。
ファルファラ公国の歪み。
一国の国主たる王よりも、神官の方が実質的な権力を有し、王は只の飾りと成れ果ててること。
故に、その妃たる者の部屋にもこんな風に平気で乱入をすることも許されている。
「これは、何の騒ぎですか!?」
王妃の問に、神官は答えた。
「姫君が悪いのです…。神の呪いを抱えて産まれ来た……姫君のどちらかが破滅をもたらす呪いのを抱えた存在なのです。故に、二人の姫の何れか…或いは二人とも神の身許へ還さねば成りません」
「何を馬鹿な事を!産まれたばかりの赤子に何をする気です!?」
「ははっ…王妃様。まだこの国を理解なされていないのですね?赤子は、最悪お二人共に神の身許へ還さねば成りません。」
神官の言葉を受け、神兵達は双子の赤子を奪いに来ようとする。
侍女達と騒ぎを聞き付けた王妃付きの護衛騎士達が、その行く手を阻もうと必死だ。
王妃は急ぎ中庭へ出て、禁忌とされる秘術を行使する。
世界に干渉し、狭間の番人とも言われる『神』の助力を乞うのだ。
「界の番人ヘザーテよ、異界の扉を開き我が願いを叶えよ…………」
術陣を宙に組み敷き、その技を行使する。
宙に描かれた術陣から光が溢れ、薄紫の肌と同色の光沢の有る髪を束ねた女神が舞い降りる。
『我を呼び出したるは汝か……。愚かな人間よ、何用だ……?』
「お願い、します!私の…私の子供達を助けて!!」
王妃の必死の願いをヘザーテ聞き届けるのか?
『願いの対価は?』
「私の……命を持って……。だから、お願いします。私の赤子を……姫達を救ってください!!」
王妃の目に迷いは無く、只子供達の無事の成長を願うのみだった。
『良かろう、汝が命を持って、この赤子達をこの場から救ってやろう……』
王妃は、赤子をヘザーテに差し出し、双子の赤子達は宙に浮き、ヘザーテの側に今は宙を浮かんでいる。
ヘザーテが、王妃に掌を向け、握る動作をすれば、「ううっ……」と、呻き声を上げ王妃はその場に崩れ落ちて行った。
王妃から抜け出た白金の淡い光はヘザーテの手中へと治まった。
天高く、黄金色に輝く異界への扉。
その先に、二人の赤子は送り出されこの世界から失われたのであった。
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