53 笑顔の意味

閑話はひとまずおしまい。

本編どうぞ。

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暗闇の中でイミナが立っていた。

心臓には穴が開いていて、苦しそうな笑顔で俺のことを見ていた。

やめてくれ、そんな顔をしないでくれ。

イミナがどんどん俺から離れていく。

やめろ、やめろ、やめろ!!!!


「「…っは!」」

(あ、見知らぬ天井だ。)

一度は言ってみたいセリフだが、さすがに言わなかった。


「…あ、イミナちゃん起きた!」

「…お、無事か。」

俺とイミナが目を覚ますと、そこには心配そうな表情のロイとフェイがいた。

体の感覚を確かめる。あ、制服破れてる。

「イミナ、大丈夫か?」

「はいリミドさん。ちょっとだけ体は痛みますが…。」

俺は急いで服の姿に変形する。よし。これでおっけーだ。

その際に俺自身の感覚を確かめたが、どうやらイミナの予測通り、魔力暴走を起こして意識を失い、また俺は暴走状態になっていたようだ。イミナの体のダメージを見るに、どうやら極装(ガイルドベント)を使っていたようだ。

「あ、トゥルガーさんは、トゥルガーさんはどこですか!」

「ここなのだ。」

寝た体勢のままイミナは上を向く。リヴァイアサンの股にイミナの頭が挟まっている感じである。

「おぉよしよし。よく頑張ったのだイミナ。」

「やっぱり暴走してしまいましたね。被害の方は?」

「グラウンドが一つ使えなくなっただけなのだ。」

「えっとねー、すごい怒られたんだけど。海龍帝王様と学園長が何とかしてくれて一切処罰がなかったんだよ。安心してねイミナちゃん。」

フェイは大きなため息をつく。

「危うく経歴に傷がつくところだった。まぁ…海龍帝王と白の悪魔の貴重な戦闘を見ることができたよ。」

「すごかったねー。私と戦った時とは全然違う雰囲気だったよイミナちゃん。」

「やっぱり、極装(ガイルドベント)を使っていたんですね…。トゥルガーさん、お怪我はありませんか?」

「ははは!まさか我の心配をしておるというのか、イミナは優しいのう。眷族であるおぬしに我が負けるなんぞあるわけなかろう!ははは!」

「そうですか、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」

「なに、我にとっては赤子の手をひねるのと同然なのだよ!」

「えっとね、2人ともすごかったんだよ。イミナちゃん、私の闇魔法をパクっちゃったんだよ。びっくりしたよ?私の大事なアイデンティティ!」

「お前のアインティティなんてどうでもいい。問題は魔法を使ったところだ。お前が暴走しているときは、どうやら魔法は使えていたようだぞ。」

「どうなのだ?イミナ。魔法は使えるようになったのか?」

「えっと…今はどうやら魔力回路が疲弊しているようで。まったくの魔力切れです。」

「リミドから補充すればいいのではないか?魔力を共有しておるのだろう?」

「俺も魔力はすっからかんだ。」

この世界に来て初めてのことである。MPがゼロ。

今は浮遊も転翔も使えない。

「まぁ…じゃあ魔力が回復してからだね。」

「ちょっと待ってろ。魔力回復に効く食い物持ってくる。」

「あー私もついてく。」

「なんでお前までくるんだよ。」

「えーだってフェイ味音痴だから変なのしか選ばないじゃん…」



二人は言い争いながら部屋を出ていった。

それを確認して俺は口を開いた。

「ステータスを見る限り、魔力不可の呪いは消えていない。」

「魔力解放はどっちについたのだ。」

「俺の方についた。」

「…。魔法は、使えないんでしょうか?」

「たぶん、そうとも限らないと思う。極装(ガイルドベント)の時には魔法を使えていたんだよな?」

「あぁ。がっつり使っていたのだ。」

「えぇと…つまりどういうことですか?」

「俺の憶測だが…。おそらく極装(ガイルドベント)の時に魔法不可の呪いと魔力解放が打ち消しあって魔法が一時的に使える、みたいな状況だと思う。」

「えっと…じゃあなんで私は魔力暴走を起こしたのでしょうか?」

「俺のスキルもある程度はイミナに干渉する。そのせいで、しばらく使っていなかった魔力回路を魔力解放のスキルで強引に動かしたから暴走してしまったんだろう。」

「な、なるほど…。じゃあやっぱり、ガイルドベントの時しか魔法は使えないんですね。」

「なんなのだ、じゃあほとんど意味がないではないか。」

「まぁ…そういうことになるな。」

「そう…ですか…。」

イミナは激しく落ち込んだ。

「極装(ガイルドベント)の時だけ、魔法が使えるようになる。しかし、極装(ガイルドベント)はいわば暴走状態。制御ができない。余計厄介になったんじゃないか?」

「なぁに安心せい。おぬしがまた暴走したら我が鎮圧してくれよう。」





「イミナちゃん…どう?」

「どうだイミナ?」

「…。」

イミナは必死に魔力を込める。

魔法、魔法、魔法!

必死に頭の中で魔法術式を構築しようとする。

しかし、結果は目に見えていた。

「やっぱり、使えないようです。極装(ガイルドベント)の時しか魔法は使えないようです。でも安心してください、私は大丈夫です。魔法不可の呪いを解く、一歩になりました!この調子で頑張ります。」

イミナは笑った。

俺にはわかった。イミナはとても悲しんでいた。

その作った笑顔は、悲しい顔を隠すためのものなんだろ?


その夜。イミナは布団の中で泣いていた。



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イミナが魔力暴走を起こした原因について追加で明記しました。

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