閑話 元・天才

天才と呼ばれた少年がいた。幼いころから中位魔法を扱うことができ、親も街の人々も彼のことを天才と呼んだ。災害が起きたときも、彼はその勇敢さから得意の魔法を作って人々を助けた。強い魔物が現れても退治した。自分に敵うものなど何もない。この世界で、自分が一番強い魔術師なんだ。Aランク冒険者も夢じゃない。そんな風に思っていた。とある日、親からオクタグラムの受験を勧められていた。少年は、すぐに冒険者となって有名になりたかった。すでにレベル57の彼はすぐにDランクに上がり、そのままCランクになれる。いずれはBランク、そしてAランクにも…。冒険者は、非常に危険性の高い職業ではなあるが頑張り次第では相当稼げるため、少年は冒険者となって親孝行をしたかった。オクタグラムに入るにはある程度お金がかかる。アイン級に入れば相当安くて済むのだが、それでも移動費や寮、多少の授業料など平民の家にとっては高額のものである。少年は最初断った。しかし、両親はオクタグラム入学を強く勧めた。

「あなたはもっと、世界を知るべきよ。」

そう強く言われた少年は、世界最高峰の魔法学園オクタグラムに受験することとなった。



故郷の街を出て十数日がたった。馬車に揺られるのにも慣れたころ、少年は魔法学園都市オクタグラムに到着したのだった。城壁に囲まれ、中心には大きな校舎がそびえたっている。

「ふぅ、俺の英雄譚の第一歩だ。」

少年は大きな一歩を踏み出した。

魔力量検査、合格。

筆記試験、合格。

そして…残すは魔法の強さである。戦闘系に特化していた俺は、戦闘能力部門という魔法の試験を選んだ。

そこで味わった初めての敗北。

金髪のいけ好かない男。表情一つ崩さず、赤子の手をひねるかのように俺の手を地につかせた。




俺は無事、オクタグラムの最高ランクであるアイン級に入学することができた。

それは勝利ではない。初めての敗北だったのだ。小さな街で英雄気取りだった俺のプライドは、跡形もなく消し飛んでしまった。やつの名はフェイ=ルマンドノート。アイン級序列二位、タルタロッサ帝国の貴族の出であり、高い魔力と高い魔法の技術を備えた、本物の天才である。

俺が見ていた世界は狭かった。俺はあっさり負けた、しかしそんな彼でも二位。

一位はいったいどんな化け物なんだ?

彼は、自分が街で天才と言われてきたことを恥じた。

何が天才だ。何がSランクだ。

少年は決意した。いずれ世界の頂点へと昇り詰めるために。



トール=テンタラ アイン級序列8位 属性:雷

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