50 不穏な空気

『拝啓お父様へ いかがお過ごしでしょうか。タルロッサは今頃、ワイバーンの群れが現れてお祭り状態だと思いますが、こちらは何事もなく平穏な毎日を過ごしています。強いて言うのならば、昨今噂になっていた新人Bランク冒険者、そしてかの海龍帝王リヴァイアサンがオクタグラムに編入してきました。リヴァイアサンは話に聞いていた通り、恐ろしいほどの魔力と魔法術式を持っていました。この目に収めることができて非常に貴重な体験でした。Bランクの方ですが、彼女は悪魔を従えているようで非常に高い戦闘能力を備えておりました。いまだに次席の位置にいますが、いずれロイ=フランターをも越して主席の座につくべく精進してまいります。』


「なに書いてるんですかフェイさん?」

「親への手紙だ。勝手に覗くな。」

「へへ、さーせんさーせん。」

フェイは自分の寮の部屋で親に向けて手紙をかいていた。それを覗き見していたのは、同じ部屋に住むアイン級テノカ=シャンタラである。フェイの唯一の友人と言ってもいいほどで、序列の高いフェイはオクタグラムではあこがれの存在であるので、部屋が一緒などといった理由がない限り気安く話しかけることができないのである。そのためテノカのみがフェイとまともに話せる友人といえる。

「どうです?なんだかいいことあったって顔してますよ。」

フェイは少し顔を赤らめ、イミナのことを頭に思い浮かべるが、すぐに頭を振って何事もなかったかのようにふるまった。

「なんでもない。」

「おやぁ?まさかイミナさんのことで喜んでらっしゃいます…?まさか?」

追及され、さらに顔が赤くなる。

「そんなんじゃない!」

決してそんなわけではない。フェイは強く否定した。

「あららムキになっちゃって、これはますます怪しいですね…?」

フェイはテノカの言及から逃れるように布団の中に入った。

「もう寝る!早く電気を消せ!」

「はいはい。」



光が消えた寮。静かな夜がオクタグラムを覆っていたが、その中を歩く1人の男がいた。

「どうやら噂の白の悪魔がオクタグラムに来たようです。」

寮の庭でテノカが何もない空中に向かって話しかける。

すると、そこに魔方陣が突如として現れて、白髪の髪をした男が魔方陣の中から現れた。

「ふむ、まぁ別にいいでしょう。やはりこの都市はいいですね。魔力であふれているせいか、魔族が潜伏してもばれにくい。もう何人もの魔族が各地に配属しています。テノカ、--日後に魔族の襲撃を行います。その際に魔力の高い教師陣を誘導し一か所に集めてください。そこをたたけば、オクタグラムは陥落したも同然です。」

「かしこまりました。分散してしまった場合は、場所を変更する場合がございますのでその際連絡させて頂きます。」

「はい、わかりました。テノカさん、同じ人族として私はあなたを信用しています。どうか、人間側に戻る、なんてことはありませんように。」

「もちろんですウルー様。愚かな人間どもを殲滅するために。我らが魔王軍のために。」

「それが聞けて安心です。それでは。」

白髪の男ウルーは再び魔方陣を指で描き、その中へと入って魔方陣と共に消えていった。その場でテノカは大きなため息を一つついた。


たん たん

テノカの足音だけが寮に響く。早く帰らないと誰かに見つかってしまう、そんな焦りが彼の足音を少しだけ早くする。

ギィィ

ドアをそっと開ける。寝ているフェイを起こさないように。

…。

どうやら彼は寝ているようだった。テノカは忍び足で自分のベッドまでいき、布団の中に潜ったのだった。


「テノカ。」

フェイの声に、テノカの声はびくっと反応する。

「どこ行ってた?」

「用を足しに行ってたんですよ。はは、寝てると思ってそーっと行ったんですよ。まだ起きてたんですね。」

「あぁ…まぁな。なんか寝付けなくて。」

「そうですか。じゃあ僕は寝ますね…。」




フェイは、その瞳で布団に入ったテノカをじーっとしばらく見つめていた。

不穏な空気が、フェイとテノカの部屋に充満した。

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