5 補正形態

この物語は基本的にリミド視点です。


「人の通る道に出たら安全なんだが…方角はわかるか?」

俺はイミナにこの森を出る意向を伝える。まずは人のいるところへと行かなければいけない。

「この森はとても大きいのですぐに森を抜けるのは厳しいかと。」

「じゃあ当面はこの森での生活か、あんなやつらがうじゃうじゃいるが…。そうだ、イミナは魔法が使えないんだよな?」

俺はイミナの呪いのスキル欄を見ている。

「はい…魔法が使えればある程度の回避とか防御はできるんですけど…それも使えないのでひたすらこの足で逃げるしかなくて…。」

俺は怒りをおぼえる。こんな少女に呪いをかけてまで森に捨てるものなのか。たかがといっちゃあなんだが髪の色で…。だが、復讐とかそういうのはイミナがしようとはしない限りしないようにしようと思った。白髪の迫害が世界中で当たり前のことじゃあないことを願う。しかし…魔法が使えないのか。ここまで大きい森でしかもあんなへんてこな怪物だっている森だ。だいぶハードコアだな。

ここにいるのは魔法の使えない非力な少女、転生したてでこの世界のことを全く知らない謎の生命体(?)の二人。

「まずはそうだな…俺の存在を確かめたいんだ。正直、種族からスキルやらなんやら全部意味がわからない。イミナのスキルで解析してくれないか。」

「で、でも…あなたを吸収しないと…あっ!」

そう、イミナも気づいたのだろう。俺はイミナの心臓だ。つまり?吸収しても自分にかえってくるだけ。つまり?デメリットなしで俺のことを解析できるんじゃないだろうか、という俺の予測だ。あくまで可能性だが、確率としては高い気がする。

「さぁ、ものは試しだやってくれ!」

「わ、わかりました!《吸収解析》!」

俺とイミナの前には大きなステータスプレートが現れる。

様々なウィンドウが表示され、そのすべてにずらっと文字が並んでいる。

「リミドさん、大丈夫!?」

「なんともないから成功だな。おそらくこのスキルは自己の解析ならノーリスクっぽいな。さぁさてさっそく見てみようぜ。」


名前:リミド ("%&($#%)

種族:魔流性仮部位欠損補給型粘体(リミッドパーツ) (新種族:オリジナル)

レベル:13

状態:部位欠損、弱体化、意識不明

ステータス

HP:0

AT:0

DF:0

SP:0

MT:0

MP:0

称号:運命に託されたもの

スキル

・落下体制

・自由補助粘体_アシストカスタム

  :《極装(ガイルドベント)》

  :補助形態(自由伸縮:効果なし)

・脈動

・再生(Lv1)




種族:魔流性仮部位欠損補給型粘体(リミッドパーツ)


生命体の欠損部位のうち、主なエネルギー供給部位、心臓あるいは核の部分の魔力の流れで補っている粘体を指す。

魔流性→魔力で動かしていることを指す

仮部位→生命体の部位

欠損→破損している部位を示す

補給型→エネルギー補給源、この場合は心臓を示す

粘体→その存在の位置づけ。この場合、個体名:リミドの形状を示すものである。



スキル:自由補助粘体(アシストカスタム)


個体名:リミドのスキル。オリジナルスキルにあたる。

能力は個体名:リミドの形態変化スキル、あるいは基本スキルの習得をポイントとして簡略化、習得することができるようになる。個体レベルが1上がるごとにポイントは100もらえる。また、特殊条件で追加でポイントをもらうことができる。

※特殊条件はこのスキル内には明記されていない。



スキル:《極装(ガイルドベント)》


個体名:リミドのスキル。オリジナルスキルにあたる。

所得条件:守護者、守護対象者両者が同時に生命の危機的状態に陥る。

自由補助粘体(アシストカスタム)の効果による生成スキルである。一時的に守護対象者の全権限を守護者に委託し、ステータス補正がかかった状態になる効果。守護者に対して意識レベル低下(Lv10)、暴走状態を付与する。スキルを意図的に停止させることはできない。守護者、守護対象者両者に精神的、肉体的ダメージを残す。




「こ、ここまで…詳しく知れるんだな。」

「デメリットがある分の補正らしいです。吸収解析で吸収解析を解析しました。」

俺とイミナは表示された説明文を一通り見た。



「なるほど…。」

「なるほどですね…。」

心地いい風がイミナの髪をなびかせる。異様なほど静かなフォールン大森林は俺たちが考えることを邪魔しないようにしているかのように見えてしまう。その静けさを打ち破るようにイミナが口を開く。

「つまり、ガイルドベントはあんまり使わない方がいいってことですか?」

確かに、デメリットが多そうなスキルだ。明らかに意識が飛ぶって言っているような説明だ。実際に俺もあの龍を吹っ飛ばしたことは理解しているが、肝心な吹っ飛ばした瞬間の意識はなかった。きっと本能的に発動して体が勝手に動いたのだろうと俺は考える。しかし、こう説明分ばかり見てもあまり実感がわかない。やはり実践あるのみなのだろうか。

「イミナ、怖いかもしれないがまずは実際に使ってみないといけないな。補助形態っていうのがどんなものかもわからないし…それにさっさとポイントも集めないといけないしな。」

「そうですね、レベルを上げてもっと強くなれば!」

「あ…いや、そうじゃなくて…これ。」


俺は自分のステータスプレート、自由補助粘体(アシストカスタム)のあるスキルを俺は顔かどうかわからない自分の体を動かして指し示す。



[所得可能形態]


・・・


防御形態(形状:服):800


・・・


「…。」

イミナはしばらく考える。そして理解が及んだのか、自分の胸と股を隠す。

怪物に襲われボロボロの服はもうすでに服としての機能をはたしていない。まるまるみえみえのすっぽんぽんである。

「た、たしか!リミドさんは前世男って!」

おっと、そんなことまで俺は話していたのかと俺は後悔する。前世は中性のスライムでしたとでも言っておけばよかった。いらぬ心配をイミナにかけてしまった。

「イミナ、俺はお前の心臓だ。自分の心臓に体見られて恥ずかしいか?俺は恥ずかしくない。ましてや俺は今や謎の生命体かすら怪しい存在だぞ。大丈夫だ。けどまぁ…やっぱその恰好で外に出るのはまずいよな。」

そして俺はこのとき同時に決意してしまったのだ。イミナを男という魔の手から必ず守ると。

なぜだろうか、父心というのが芽生えてきた。

「そ、そうですね!い、今の所持ポイントは600!あと2レベル上げるだけでとれますよ!」

「待ていイミナ!」

俺はなまった口調でイミナの話を中断させる。

「これは俺の考えなんだが…ポイントのスキルには所得条件というのがあっただろう。魔物を俺が喰えば追加でポイントをもらえる…ような気がするんだ。」

暴食系のスキルはこういうゲームだとよくある話だ。それに俺の体を見る限り口という部位は存在する。そしたらやることは一つ、魔物を食う。そしたらなんかが起こりそうな予感がしてきたのだ。

「な、なるほど!それが本当ならすぐにポイントがたまりますね!」

「そこで提案だ、俺らはまず生存確率を上げなければならない。死んだら何もかも終わりだからな。このスキルをとらないか?」


俺は自由補助粘体_アシストカスタムのある項目に指をさす。


補助形態(補正:体):100


これはイミナの体による直接攻撃のアシストをするというものだ《極装_ガイルドベント》ほどではないにしろ、とてつもない攻撃力をほこるのではないだろうか。

「どうだ!?」

「まぁ…そうですね…その方がいいですね…。でも服になるにはあともう1レベルあげないといけない…。お肌すーすーする…ぐすん。」

おっと、イミナが涙目になってしまった。さっさとポイントをためてやらないとな




『補助形態(補正:体)を取得しました。』





「補助形態!」


静かな森は騒然とし始めた。鳥の羽ばたく音、それが鳥なのかどうかは知らないが鳥と仮定しておく。魔物のうめき声、メキメキッとなぎ倒される木々の音。昼間、魔物たちの活動時間だ。

俺らの前には昨日の夜、イミナの心臓を破壊した忌々しい龍…おっと、感情は自制しないとな。そう、あの気持ち悪い龍がいた。森に少女の声が響く。

「おっしゃぁ!補助形態だぁ!」

俺はスキルの声に反応し自分の形態を変化させる。イミナの手には黒色のガントレットが装備される。それはまるで生きているようだ。というか俺だ、生きている。とてもかっこいい形をしている。自分ながらに。

「か、かっこいいですね!で、でもどうやって使えば!」

イミナが初めての補助形態使用に戸惑っている間に龍が俺らに向かってくる。大きな口を開けながら俺らを一呑みしようってわけだ。

「よけろ!」

俺はイミナに指示をする。

イミナは横に回避しようとするが、その可愛らしい細い足ではそこまでの移動ができない。

ふんぬっ!!

俺は補助形態の形状変化を意識する。すると俺が足の方へと移動し、イミナの移動距離を延ばす。

俺がイミナを補助し、俊敏性をアップさせて回避させたのだ。えっへん俺すごい。

「あ、ありがとうございます!」

「相手に隙が生まれた!全力で殴るぞ!」

俺らにもう突進したからか龍の体制がくずれる。羽を胴に巻き付けて防御しようとしている。

「えいっ!」

かすっ。




もう一度言おう。かすっ。

そんなオノマトペが聞こえてきそうなほどの綺麗な空振りだった。ほら、龍も驚いてるじゃないか。イミナは魔法以外の戦闘を経験していない、これはあとで格闘術を仕込まないと…なっ!!!!!!!

「おらぁ!!!補正二段攻撃じゃあああ!!!!!!!」

イミナの背中から俺は巨大な腕を出現させ、その巨腕を振るい龍を殴る。ごりっと。

ずどおおぉぉん

龍の羽はボロボロに破壊され、胴体からは内臓があふれ出ている。

そして気づいた。俺は戦闘形態になると口が悪くなるな。

「す、すごいです!」

「すごいですじゃない!」

俺はイミナの頭をぽかっとたたく。

「うぅ…。」

イミナは頭を押さえる。くっ、しぐさがいちいち可愛いんだよ。俺は一瞬たじろぐがまた顔をイミナに寄せる。

「俺の補正攻撃に頼っちゃだめだ!さっきの攻撃も俺の攻撃じゃなく、あくまでイミナの攻撃の補正攻撃なんだ。イミナが強くならなきゃ俺も強くならない、OK?」

「はい…ぐすん。」

「わかればよし!さてと。じゃあ早速試すか。」

イミナが魔物に近寄る。そして俺は自分の口を魔物に寄せてむしゃりと一口。

…味は、ない。というか味覚がない気がする。

「うん、よくわからんが…これは喰えるのか?」

「たぶん大丈夫だと思います。ちょっと吸収してみますね。」

イミナはぐちょぐちょの龍の体内に手を突っ込む。そこらへんイミナは躊躇がないな。死を一度経験している少女というのはここまで強いものなのかと感心する。

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