第119話 ここにも発見、謎のほこら
レースに決着がつき、しばらく海上でのヒエラルキーは、マリエルがトップと言うことになった。
レヴィアが帰ってきて、悔しそうにしている。
「
蒸気船に頭から突っ込んで、外壁を壊した割にはピンピンしてるな。
この人、俺同様にどんどん頑丈になって行ってないか。
「まあまあ。レヴィア様が無事で良かったですよ。で、アナベルは?」
「ああ、腰が抜けてしまったようだ。今は船で休養を取っている」
「うちの非常識な連中に巻き込まれたのか。可愛そうにな……」
ゼインが神妙な顔をして呟いた。
クリストファはやり遂げた顔をして、ニコニコ笑いながらボードを磨いているし、マリエルは久々の全力水泳のお陰か、お肌がツヤツヤ。
アナベルを除くと、うちのパーティは大体満足した結果に終わった気がする。
「おい! 俺は!? デートを邪魔されたんだけど!」
「あっ、叔父さんを忘れてたぞ! だけど叔父さんも、よくあのレースに巻き込まれて無事だったなあ」
「俺も鍛えてるからな。というか、お前らと付き合うようになって、間違いなく頑丈になったわ」
「叔父さんもかー。……あれ? そう言えば一人足りないような」
今、俺たちは砂浜の上である。
ハブーの住人が屋台など立てているので、そこで買ってきた、蜂蜜入りの冷茶など飲みつつ、まったりしている。
「フャン」
頭に椰子の葉っぱを被ったボンゴレが駆けて来た。
俺の膝の上に乗ると、冷茶を前足でぺしぺし叩き始める。
「アーッ! ボンゴレいかん、冷茶がこぼれる! あれ? お前一人だけ? ってことは……ボンゴレは水が苦手だから、メリッサは海に?」
「フャン」
ボンゴレが、後足で立ち上がってふにゃふにゃと前足を動かした。
何か表現しようとしているな。
丸いもの?
「ああ、パンジャか! メリッサ、あれに乗って行ったの?」
「フャンフャン」
「チョキもいないじゃないか」
「フャン」
今度は、前足で何かを掻くような動作。
ああ、水を掻いているのか!
「チョキは泳いでついていったのかー。あいつ脂肪が多いから浮きそうだもんなあ」
「フャン」
「どうしたんだ、ウェスカー。メリッサの姿が見えないようだが」
俺がボンゴレとジェスチャーで会話をしていると、レヴィアが首を突っ込んできた。
もう冷茶は飲み干して、手持ち無沙汰になったようだ。
「メリッサなんですけど、俺たちがレースしている間に海に出たみたいですね。あっちの方向に行ったらしい」
ボンゴレが見つめる先を、俺は指差す。
そこにあるのは、三日月島のお隣、岩壁の島である。
仮に岩壁島と呼ぼう。
「ふむ、心配だな。メリッサも最近はかなり頑丈になって来てはいるが」
「大体、うちのメンバーは全員頑丈になってますよね。我ながらむちゃくちゃな旅をして来たが、みんなピンピンしてる」
「それはもう、私とウェスカーが見込んだ仲間たちだからな!」
「ですなあ。……で、行きます?」
「無論だ!」
レース直後だというのに、完全に体力が回復したらしきレヴィア、勢いよく立ち上がる。
「また海に出るのですね? ではわたくしがいかなければ始まりませんね」
マリエルもついてきた。
ということで、小舟を借りてこの三人でメリッサを追うのである。
のんびりのんびりと海を漕いで行く。
レヴィアは
「もっと早く行かなくていいのかウェスカー!」
「それ、メリッサを心配してるんじゃなくてスピード上げたいだけですよね」
「そうだが、まあメリッサも心配でないわけじゃない」
「メリッサもまだ十二歳でしたっけ。でも異常に頑丈になってきてるから大丈夫じゃないですかね」
俺たちのやり取りを見て、横を泳いでいたマリエルがポン、と手を打った。
「なるほど、ではわたくしが、先に行ってメリッサさんを見に行きますね。お二人はごゆっくりー」
そう告げるなり、ざぶんと潜り、猛烈な速度で泳いで行ってしまった。
「ごゆっくりだと」
レヴィアが難しい顔をした。
彼女としては、スピーディに船を進め、マリエルに追い着くくらいが好みなのだろう。
「まあいいじゃないですか、レヴィア様。たまにはこうしてのんびりしないと。俺はのんびりするのも好きだってこと、ずーっと忘れてましたよ。最近忙しすぎませんかね」
「むっ、言われてみると、半年ほどで魔将を六回くらい倒したような……」
「月一で魔将討伐ですからなー。うち二人は生き返ったり替え玉だったりですけど、まあ、ここでちょっと一息入れて、英気を養うのもいいんではないかなーと」
「ウェスカーは年寄りのようなことを言うのだな! 私とそう年が違わないだろうに!」
「こう見えて二十二ですからね」
「な、なにっ!? 三つも年上だったのか……!!」
レヴィア様、まだギリギリ十代だったのか。
これまで正確な年齢を知らんかった。
下手をすれば年上かもくらい思っていたぞ。
「しかし、二十二にもなってウェスカーは村で遊んで暮らしていたのか?」
「はあ。なんか、今思うと親父が甘やかしてくれてたような気がしないでもないですな。その分、しっぺ返しで生き急ぐように魔王軍と連戦してますが」
「それは天命だったのだ! 私もウェスカーも、こうして出会い、魔王軍と戦う運命だったからこそ、前半生は何もせずに過ごしていたのだと思うぞ」
「あー、それはありそうですよね。絶対そうだ」
誰もいないし、何もない海の上に二人きりなので、よもやま話に花が咲く。
「いたな人間、大人しく我の餌に」
「エナジーボルトー」
「ウグワーッ!!」
空気を読まずに魔物の残党みたいなのが出てきたので、魔法で薙ぎ払っておく。
そんな、何もない一時間ほどの船旅である。
ゆるゆると岸壁島が近づいてきた。
砂浜から見たら近く感じたのだが、それなりに距離があるな。それに近づくと、とても大きい。
「さて、マリエルを探さねばな。メリッサともども、どこにいるのか。見渡す限り岩の壁で、これをよじ登るしかないではないか。この壁を登るとなると、少々時間がかかるぞ」
「飛びましょうか」
「それだ! 私がウェスカーに掴まってだな……」
そう言いながら、レヴィアはいつもの俺に乗って飛ぶ姿勢を思い浮かべたらしい。
続いて、自分の水着を見下ろす。
「いや、きょ、今日はやめておこう。こんなのは裸で抱きつくようなものではないか、むにゃむにゃ」
最後はむにゃむにゃ小さい声で言い訳をしている。
俺としては、裸みたいな格好で抱きつかれるのは、もう堪らんわけだが。
「いや、再考してくださいレヴィア様。裸で抱きつくなんて最高ではありませんか。むしろその赤い布が邪魔……いやいやなんでもないですその拳を下ろしてください」
俺たちがそんなやり取りをしていると、向こうからふわふわと浮いてくるものがいる。
「あ、やっぱりウェスカーさんとレヴィア様! おーい、あっちに洞窟があるのー」
パンジャに掴まって空を飛ぶ、メリッサであった。
連れて来られたのは、岸壁島の横っ腹に口をあけた洞窟。
半ばが水没しているから、小舟で入っていくことができる。
「ごゆっくりでしたねえ。さあ、こちらです」
先に中を調べてきたらしき、マリエルが先導する。
洞窟の中はひんやりとして、耳鳴りのような音が響いている。
「これは……大したものだな」
上を見上げて、レヴィアが呟いた。
俺も一緒に洞窟の天井を見る。
なるほど、尖った石が幾つも下に向かって伸びており、あちこちが星空のようにきらきらと光っている。
「あの光ってるのね、虫とコウモリだったよ」
「メリッサの解説で、一気にロマンチックではなくなったな」
「女はリアリストなんだよ、ウェスカーさん」
そんなことを言う十二歳。
ちなみに、天井からぶら下がっているのは、鍾乳石と言うのだとマリエルが解説してくれた。
虫とコウモリの目が光源だろうが、綺麗なものは綺麗である。
まったり天井を眺めながら、船はマリエルの先導に任せた。
十分くらい進んだだろうか。
「ここが終着点です。いえ、ここが入り口かもしれませんね」
マリエルが告げる。
それは、洞窟の最奥に建てられた、ほこらだったのだ。
よくよく見れば、ほこらは周囲の岩を削って作られていることが分かる。
さらに、ほこらの上には階段がどこまでも伸びていて、そこだけ天井が高くなっている。
「少しだけ、この辺りは明るいでしょう? ちょっと待っていてくださいね。……ほら、来ました」
洞窟の中のほこらが、ゆっくりと光りだす。
いや、ほこらの天井が明るくなっていっているのだ。
これは、つまり……。
「ほこらの上が空いているんです。日の光が、定期的に差し込むみたいですね」
そして、光に照らし出されたほこらの壁には、何かが描かれている。
「これは……」
俺は声を上げていた。
そこにあったのは、牛と蛇と鳥を合わせたような見たこともない怪物と、それに立ち向かう人間たちの絵だったのである。
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