ほ~れほれ褒めてやるぞー
「紗由花ほんと料理うまいな」
「ありがとっ」
ふむ。
「裁縫もうまい」
「ありがとー」
ふむふむ。
「弁当食べるときのお茶の繰り出し方鮮やか」
「ありがと?」
ふむふむふむ。
「賢いのすごい」
「ありがと。なに、どうしたの?」
ほう。
「それでいて運動神経いいとかまじ完璧じゃね?」
「あ、ありがと。急にどうしたの?」
ほうほう。
「服おしゃれ」
「それはてきとーでしょ」
「さーせん」
やっぱり笑う紗由花。
「おだててもなにも出ませんよー」
「ちぇー。まぁ思ったこと並べただけだし。今日もすてきです紗由花様」
……あるぇ、そこは同じリズムで来ると思ったのに。
「……ありがとっ」
ちらっと横目で見てポタージュを飲む紗由花。で、ゆっくりマグカップを置いた。左手もこたつ内へ。
「……雪松も。かっこいいよ?」
「当然だな」
こう返せば笑ってくれることを知っているぜ。
「スポーツとかゲームとか、一瞬見せてくれる真剣な表情は、やっぱり男の子だなーって思うよ」
「そりゃ
これもちょこっと笑ってくれた。
「大会に出てる雪松とか、もっとかっこいい」
「当然だな」
あれ、この返しは間違いないはずなんだが。まぁちょっと笑ってくれてるし。
「こうやってのんびりしてるときの雪松はそれはそれでちょっとかわいいし」
「訂正しろ。かっこいいと」
「やーだっ」
ちっ。まぁそのくらいは譲ってやらぁ。
「なんかさ。一緒にいてて楽しいのに、たまーにかっこいいところ見せてきてさ。でもやっぱり雪松は雪松らしく私と楽しんでくれてて……なんだろうね、これ」
「いや、なんなんスか」
いきなりなんだろうとか言われましても、ねぇ?
「……ふふん。なんかね。一緒にいられるって、こんなにもいいことなんだーって、最近思うんだ」
「はぁ。だから高校も一緒に行こうぜって誘ってきたんだよな?」
「うん。うれしいな。また三年間仲良くしてね」
ん? 顔はこっち向けながら、俺の左手を突然両手で握ってきたぞ。こたつ内に連れ込まれた俺の左手。
「おうよ。さらにパワーアップした俺様の力を見せつけてやるぜ!」
お決まりなセリフをとりあえず飛ばす。実際のところは高校ってまだよくわかってないんだが。
「うんうん。私にできることあったら言ってね」
「でも縫ってくれって言ったらぶーぶー言ってくんじゃねーか」
「それはぁっ。で、でもちゃんと縫ってあげてるじゃん」
「よろしくお願いします」
「ふふっ。こちらこそ」
で、この手はなんだ? これっだけたくさん一緒にいてりゃ手が当たる機会くらいいくらでもあったが、こんなに長いこと手を握ってたことってあったか?
(……まさか……)
こうして俺賢くなるエナジーでも飛ばしてるとか?! さすがにそこまで頭悪くはない(と思う)ぞ!?
「てか紗由花は俺と一緒に一緒にってのはよく言ってるが、紗由花こそ俺に手伝ってほしいこととかなんかないのか?」
「あったらちゃんと言ってるよぅ?」
「せやな」
電球の取り替えとかそれこそこのこたつの設置・撤去とかそういうのよく頼まれる。
「手伝ってくれる雪松やっぱりかっこいい」
「当然だな」
そりゃ俺から紗由花をよいしょしてみたものの、そんなにカウンターよいしょしてくるなんて……?
「……ほ、ほら。私雪松のこといっぱい褒めたから、私のことも褒めて褒めてっ」
ちょこっと握られている手の力が強まった。そんなに褒めてほしいんかいっ。さっきのに味を占めたってか?
「紗由花もかっこいいぞ」
ぇ、そこツボ?
「ぷっ、ありがとっ」
まあ、うん。とりあえず選んだ言葉は間違いじゃなかったようだ。
「もっとほらほらっ。日ごろの感謝を述べよ」
なんじゃいその得意げな表情はっ。
「感謝を強要とかなんてやつだ」
「へへーん。ほらほら」
さらに強まった。ったくこうなると紗由花ペースなんだよなぁ。一度露骨なため息を披露してやる。はぁ~っ。で、改めて深呼吸。
「……紗由花。ありがとな」
はいはいいつものリズムで……ん?
(いや、感謝述べんかいワレって言うから述べたというのに?)
ちょっと視線が落ちる紗由花。
(あぁ感謝量足んねーよってこと?)
ったくどこまでも紗由花ペースだぜったくよぅ。
「紗由花はなんでも俺のこと助けてくれてさ。一緒にしようって誘ったらなんでも一緒にしてくれて。これまでたくさん紗由花と一緒に過ごしてきたが、やっぱ紗由花と遊ぶのがいちばんだよなー」
あ、すまん脚当たった。特にツッコミはなかった。
「困ったときに頼りになる紗由花。でも一緒に遊ぶといちばん楽しい紗由花。ほんとそんな紗由花が俺とこんなに仲良くしてくれてよかったと思ってるわー」
ほらどうだこれでよぅ。
(え、なんで手震えてんだよっ)
とりあえずー……もう一押ししてみるか?
「だから紗由花が俺と一緒にいたいって言ってくれるのうれしいし、むしろこっちからも一緒にいさせてくれって感じだ。俺は紗由花と違い料理も裁縫もテストも弱いが……ってあれ、こんな俺に構ってていいんだろうか?」
お、ここは笑ってうなずいてる。
「じゃあ……俺とこれからも、ずっと一緒にいてくれよな」
どうだ? だいぶと褒めちぎったと思うんだが?
「…………ふへへっ」
「ぶっ、なんだそれっ」
紗由花がちょっと笑ったと思ったら変な笑い声聞こえたぞ?
「あはっ、ふふっ、ふへへ……」
「おいおいポタージュに変なの入ってたか?」
そこは首横に振るんだな。
「ね、ねぇ雪松」
「ん?」
まだ視線下がったまま。
「……もうちょっと、くっついて……いい?」
「はあ?」
くっつくって……どういう意味だ? 一緒にいるって意味か?
「んーまぁ、紗由花がそうしたいんなら」
「……ありがとー。ふふん」
「ちょおっ」
なんと紗由花が握っていた俺の左手を引っ張ってきた。しかしすぐに手が久々に離れたと思ったら今度は俺の左腕を抱えられる体勢になった! おまけに紗由花の頭が俺の左肩に着陸してるし!
離れた俺の手はどうしておこうか。とりあえずテーブルの裏でも握……微妙に熱いがな。反射的に手を下ろしたらちょうど紗由花の右手とぶつかった。結局また紗由花が手を握ってくるし。しかも今度は指の間を通してきてがっつり。
これまた反射的に俺も紗由花の手を握ることになってしまった。その瞬間左肩着陸紗由花頭がちょこっと動いた。すりすり?
これはなんじゃいって聞こうとしたけど、さっき紗由花がこれしたいって言ってきたのを了承したばっかりで。まぁ紗由花がこうしてたいんならこうさせておいてやろう。
俺も別に悪い気はしないしな。多少胸の奥が変なことになっているくらいで。
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