6ー10
上を見れば、雲一つ無い青空。
地を見れば、コンクリートで出来ていて、所々に年季を感じる汚れが見える。周りには、人や物が落ちない様に俺の背丈以上に高い薄緑色のフェンスで囲まれていた。
学校で上を見れば、空が見える所と言えば、屋上しかない。なら、何故俺がそこにいるかと言えば……今日、転校してきた女子に話をしようと言われ、ここに来たのだ。
「それで、話とは一体なんでしょうか?」
「……ここには私と会長だけしかいないので、いつも通りで構いません」
「はい?」
ん?確かに、ここには俺と君しか居ないが……いつも通り?会長?どう言う事?
花川さんは、「ふぅ……」とため息をつき、教室でいた時の様な口調では無く、少しキツメの何処かで聞いた事があるような口調だった。
かと言って、今日転校してきたばかりの花川さんとは初対面だ。いつも通りと言う言葉に疑問を持ち、分からなかった。
「ですから……ここには、私と会長だけしかいないのですか」
「……え?いや、いつも通りって、俺と花川さんって今日初めてお会いしましたよね?」
「その花川って名前も……私が適当に付けた名前なんで、いつも通りの狐で良いです」
どうやら、花川と言う名前は自分で作ったらしい。と言うか、話の内容が良く理解出来ない。
さっきから言っている「会長」「狐」と言葉に俺は一応は、聞き覚えがあるが……。確証が持たないと言うか、信じられない。
本当に、諜報部の日ノ河に所属している『狐』だとしたら、顔を出す筈が無い。たが、狐の師匠である、あの"鴉"の仕業なら、やりかねない。
「えーと、一応聞くが……所属名は?」
「……?日ノ河です、けど……ご存知ですよね」
「……」
(あー、これはマジの奴だ)
目の前に『狐』がいる。
これは異常な事だ。
アスタロトグループ情報全管理職に就いているお抱えのハッカー『シャチ』が生み出した諜報部管理AIが全て管理している筈なのだ。
そもそも、諜報部の存在を現会長職に就いてある俺と秘書である海堂しか知らないのだ。しかし、管理をしているのはAIだ。
顔、年齢、経歴は現会長である俺ですら知らない。だから、俺はこの状況に心底驚き、どうするか悩んでいるのだ。本当に唐突過ぎる。こんな状況は予測をしてなかったぞ。てか、コイツは俺に明かしてどうすんだよ。お主は自分の存在を知られたらいけない筈なのに……。
そんな俺の心情を知らない少しおバカな"狐"は、いつもの素の口調や態度に戻っていた。
「いくつか質問したいのだが……なんで、ここにいるんだ?」
「それは……」
「ん?……あぁ、そうだったな。すまん、忘れてくれ」
(任務に関しても秘匿事項だったな。……あー、たくっ)
現会長、現秘書である俺や海堂でさえ、存在は知っているが、諜報部の内容までは知らない。勿論、任務内容も秘匿され、極秘に動いているのだ。
「じゃあ、もう一つ………なぁ〜んで、顔を晒してんだ?」
「そ、それは……師匠が『学校に任務として行くのですから、顔を隠すのは非常識でしょ?』……と、それと、『会長は鋭いから、すぐにバレるでしょうが、いけます』とも言われました」
「はぁ……やっぱり、か」
(あの鴉ぅ〜。余計な事をしよって〜)
はぁ〜〜、っと大きなため息をつきながら、目の前にいる花川ーーじゃないくて、狐を見た。
諜報部の者の顔を見るのは初めてだし、珍しいと言う好奇心が出て、ジッと見てしまうのだが、当本人の狐はそれに気付いていない。
転校してきた時から思っていたのだが、確かに『可憐』と言う言葉が似合う女子だ。しかし、裏を返せば、今の今までこんな可憐な女子に今の今まで守られていたのだ。
「男のプライドってやつがなぁ……。全く、面倒だ」
「……?」
「いや、気にしなくて良い。俺の独り言だから……ハハ」
(ま、今気にしても、遅いか……)
それよりも、ここに"狐"がここにいる理由をもう一度、考えるか……。
あの"鴉"の性格上、変な思惑で"狐"を送ってくるかも知れない。いや、本当にその考えで送ってきたんじゃないか?それだとしたら、説教もんだな。
………。ま、冗談はそこまでにしといて、本当で考えるか。当本人の"狐"は答える事は出来ないって、言ってるしな。
「ま、屋上に二人突っ立っても意味無いし、取り敢えず……昼飯食うか?」
「そう……ですね。今教室に帰ると、時間がなくなってしまいますね」
「……美味そうだな。自分で作ったのか?」
「あ……は、はい。自分で作りました。材料は、適当に用意されてたので……」
「……」
(まさか、あの"鴉"野郎。本当に邪な思惑で、送ってきたんじゃ……)
用意されていた……と言う事は、諜報部の奴等が手配したんだろう。うちの社の傘下には食品関係系列の会社が多くいるからな。
"鴉"さんよぉ……。俺は飯を釣られる程、惚れやすくねぇぞ?
「食べます?」
「…………いただきます」
(ま、考えるのは後でも良いや〜)
ーーー
ーその頃ー
私は、昼ご飯の弁当を持って達也に会いに、教室を出た。
朝から久しぶりに『達也と一緒に昼ご飯を食べたい〜』と思っていたので、すぐに行こうと思ったのだが、四限目は体育で移動や着替えに手間取り、昼休みが少し経った後に行った。
「……」
(達也……もう、食べてるのかな?)
昼休みになって少し経っているので、もう達也は一人で食べている……と言う、焦りに早歩きで達也の教室に向かって行った。
そこまで達也のいる教室と私の教室までの距離はそこまで無いのだが、『早く会いたい』『早く会いたい』と言う思いが強かったので、達也の教室に着いた時は『やっと』と思った。
しかし、教室を見ても達也はいなかった。
「あ、あれ……達也……は?」
(自分の席の所にも……いない。ど、どこに……いるの?)
やっとの事で辿り着いたのに、そこには目的の達也はおらず、何度も教室の中を見渡した。
けど、その教室には達也はおらず、焦りが大きくなり、積もり積もる不安感が私の心を覆い隠した。
教室を見渡している私に、最初から話しかけようか悩んでいたこの教室の女子生徒が話しかけてきた。
「あ、あの……結衣、さん?どうかしたんですか?」
「いや……達也は、見なかった?……ここには、いない……みたいだけど」
「黒崎君なら、今日、転校してきた女子と屋上?か、何処かに行った……みたいだけど」
「え……?」
(転校してきた子と……何処かに、行った?なんで……?)
目の前にいる生徒の口から言われた『転校生と一緒に何処かに行った』と言われた時、嘘だと思いたかった。
色々な感情や考えが頭の中で渦を巻くようになっていた。前の日からずっとそうだ。達也の事になると、変になり、心が苦しいと言うか……分からない。分かりないのかも分からない。
でも、女子と一緒に……と言う事だけで、心が締め付けられ、心が叩かれそうな辛いに痛い。
「だ、大丈夫……?」
「………」
(嫌だ……達也が、他の女子と……一緒なのが……嫌)
私は何も考えず、教室の扉の前から走るように去り、屋上へと向かって走った。
屋上へ向かう為、階段の方へ走っていくと、それと同時に何処からか『ジリリリッ!』と言う音が鳴った。
急になった音に、私は驚き、その場に立ち止まってしまった。
「な、なに……?何が、あったの……?」
「おい!お前ら、火事だ!落ち着いて、逃げろ!」
「……!」
(火事……!)
下の階から上がってきた教師が、廊下を走りながら、各教室にいる生徒達に向かって、外に逃げるように叫んだ。
教室にいる生徒達は、なんだ?なんだ?と思うだけで、行動には動かさなかったが、教室の窓の下から出てくる火事だと思った煙で、皆、我先へと走って教室から出て行き始めた。
「ほら、さっさと外に逃げろ!一階の職員室から火が出てるから、早く逃げろ!」
「達也……達也に合わないと……!知らせないと!」
「そこ!何をしているんだ!君も、早く逃げるぞ!」
教師から逃げろと言われた生徒達の群れに反する様に、上の階に向かう階段へと行こうとしたが、逃げろと叫ぶ教師が、私の腕を掴み、止めた。
「早く!君も、こっちだ!」
「離して、下さい……!達也の所に……行かないと……!」
私が叫ぶ様にそう言うと、腕を掴んだ教師は一瞬、掴む手の力を弱めたが、すぐに力を強め、掴む手の逆の手に何か持っていた。
「お前がターゲットの白崎 結衣か。探すのに、苦労したぞ」
「え……?」
(何……何か、怖い。本当に……教師?)
私の名前を言うと、腕を掴んだ教師は、ニヤリと不敵に笑い、掴んでいる手の逆の手に持っているバチバチッと鳴らしているスタンガンを、私の首に突き付けてきた。
突然とやって来たので、私は何も抵抗出来なかった。
「……!」
(この人……教師、じゃない)
「眠りついてな。……此方、ターゲットの確保に成功。集合地点に戻ります」
意識が朦朧とする中、私は達也の事ばかり考えていた。「会いたい……会いたい……」それを思っていても、私の意識は段々と薄く、消えた。
ーーー
誤字、脱字などが有ればコメントしてください。
昨日、投稿するつもりだったのですが、純粋に予約設定を間違えてました。
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