6ー11
結衣が先生に扮した男に気絶され、連れて行かれる一方、達也と"狐"は、屋上で響く警報音に驚き、昼食を食べている手を止め、その場から立ち上がった。
「この音は……火災報知器か?」
「その様ですね……。あ、会長。フェンスの向こうから、煙が」
"狐"が屋上にあるフェンスの向こうから上がっている煙の方向に指を差し、俺に知らした。
俺もその方向へ向くと、フェンスの向こうから黒い煙が空へと上がっていた。どこから、煙が来ているのか気になり、フェンスの所へ行き、屋上から下へと目線を下げた。
煙の出所は、一階にある複数の教室の外窓から出ており、下駄箱からは学年問わず、叫びながら運動場へと出て行っている生徒達がいた。
「この真下の一階は、使ってない教室に、化学室か……。何かに引火したのか、ね?」
「会長。階段の方からも薄く煙で出ています。早く、お逃げ下さい」
「あぁ、それもそうだが……。寄るところがあるからお前だけでも先に逃げろ」
俺は俺で結衣や友達の荒木、竹本の安全を確認する為に、屋上から出ようとしたが、目の前に"狐"が立ち塞がった。
「会長。今は、非常自体です。安全が確保されるまで、御身の安全を最優先して下さい」
「……退け、と言ったら?」
(そう言えば、こいつは俺の護衛だったな……)
「例え、会長の命令だったとしても、私は会長の"護衛"を任されている者です。その命令には、従えません」
退け、と言う命令に従わず、『自分は命令で動き、任務で会長を守っているのだと』真剣の両目をして、ハッキリと俺に告げた。
アスタロトグループ社の"諜報部"の隊員数、個人情報、命令・任務内容は、会長の座にいる俺でさえも知らない。"諜報部"はあくまで"独立し、所属する組織"であり、【アスタロトグループの影】である為、会長の俺にも命令権はあるのだが、命令優先度は、"諜報部"である。
その命令に従う忠誠心には、今更ながらでも驚きに値する。どうして、そこまで亡くなった親父の後の俺に忠誠や命令に従うのかが、不思議だ。
「はぁ……」
(こりゃあ、面倒くさいな)
「……他の諜報員にも会長の安全を守る為、応援を呼びましたので、早くお逃げ下さい」
この迎え合っている状態で他の諜報部の隊員に連絡を送ったのかは分からないが、そこはどうでも良い。こうしている間にも、火事の煙は大きく、強くなっている。
(仕方がない、か)と思いつつ、ため息を吐き、"狐"の提案を……。
「分かったよ。それじゃあ……な!」
「なっ!会長、何処に!」
受け入れる事なく、大人しく出て行こうとした屋上の扉に向かおうとした、その時、"狐"の横脇をスッと走って学校の中に入った。
「護衛らしく俺を護りたいなら、後ろから着いてきな。……じゃ、お先に失礼!」
「……分かりました。分かりましたから!先に行かないで下さいッ!」
僅かの不安を抱いた俺は屋上から出た後、その後を急いで狐が追いかけて行った。
(頼むから、無事でいてくれ。結衣)
ーーー
高層ビルの最上階にある一室の会議室に、高そうな服を着ている六人の老人と大雑把にスーツをきた野崎が各椅子に座っていた。
「細かい詳細は、さっきの話し合いで良しとして……まとめると、アスタロトグループの会長である黒崎 達也に復讐する為に、今まで通りでこのままの関係で良いよな?」
「うむ。お前が今まで通りに今いる地位を生かして情報を共有し……」
「作戦を練り……」
「アスタロトグループの達也に復讐をする……だが?」
ここにいる者達は、お互いの利害を一致している。俺がここにいるのも、ここにいる奴らと同じ利害関係だからだ。
「……」
(まー、特に俺は嫌われてるんですけどねー)
この話し合いに入る為に、【近衛】と部下達を連れて無理矢理入った時に、特に嫌われてやつもそうなのだが、ここにいる5人の内、何人から嫌われてるだろうと自覚はしてある。
かと言って、嫌いという感情だけで、この利害関係を破綻させる様な事をする輩はいないだろうとも思っている。
「貴様との関係は、"復讐"だ。これさえクリアすれば、お前とは敵になる。この言葉の意味が分かるか?」
「なんですの?まぁ〜だ、あの事を引きずってますの?心の狭い旦那やな〜」
「クッ、その態度が腹立たしい……」
ま、俺もアンタとは生理的にも論理的にも仲良く出来そうに無いし、どーせ、あの小僧に復讐したら、その矢の先が俺に来そうだな。
面倒事が嫌いな野崎は、大きな欠伸を片手で軽く抑えながら、椅子から立ち上がった。
「そんじゃ、俺はここで失礼しますよっと」
「あぁ、今回は我らの話し合いに来てくれて礼を言うよ。同じ志を持つ同志として」
「……律儀だねぇ」
(流石、皆んなのリーダー。頼りになるけど……面倒なんだよねぇ。相手をするのは)
立ち上がっている俺に対して、リーダー格はニコニコ笑顔で、何を考えているのかが分からなかった。
しかし、俺の事を嫌っているそこのおっさんより対応の扱いが難しく、敵にすると、面倒くさいと思った。
「君とはこの関係が終わっても仲良くしたいと思っているからね。今は、利害の関係だが、この関係が終わった後は、同じ仲間として、君を迎えたいと思っているよ」
「おお、かの有名な自動車会社の役員様からの勧誘は有り難いのですが……自分の身には
重過ぎるので遠慮しておきますわ」
「……フフッ、君が今いるアスタロトグループ社、現副会長の座と比べれば軽いものだと思うが?」
確かに、俺はアスタロトグループ社の副会長の座にいるが、主な執務や雑務は部下に任してあったし、それで良いと現会長も容認していた。
だから、俺が副会長の座にいた理由だ。
金を稼ぎたい!昇進したい!などといった思いは無い。俺が今あるのは……潰すという思いだけだ。
「俺が副会長なのは、お飾りみたいなものですよ。大層なものでも、意味あるものでもございませんので……ここら辺で、失礼」
「惜しい。実に惜しい。だが……まだ、我々には時間がある。これからも勧誘させてもらうよ」
最後にリーダーの言葉を聞いた後、俺は静かにその部屋から出た。今まで話し合っていた会議室から出ると、俺の【近衛】の一人がレッドカーペットの上で立っていた。
「お疲れ様です。野崎さん」
「お、悠君。やっぱり君が一番だったか、それで結果は?」
「黒龍会の下部組織や組にこちら側に勧誘した結果、全て、拒絶されました」
そう言った野崎の部下は、大きなため息を吐き、いかにも疲れましたと言わんばかりの態度だった。
その姿を見た野崎は、予想通りだったのと、悠君の疲れている姿を見て、苦笑を溢した。
「ま、アスタロトファミリーの会長好感度は高いのは知っていたが……ここまでとわねぇ。幹部達も一癖二癖あるから、無理もないか」
「はい。自分が担当していた幹部の説得に行った時は、『あぁ!?ぶっ殺すぞ!』なんて言われましてからね。さっさと逃げて来ましたよ」
「ハッハッハッ!そりゃーお疲れさん!なら、他の奴らもアジトで待つとしますかね。運転は頼んだぞ」
「それは勿論……お任せ下さい」
そして、野崎はレッドカーペットの上を歩き、その後ろに近衛を連れ、来るであろう戦いに備える為に……帰るのであった。
「クックック……」
(小僧、楽しみにしとけよ。……絶対に面白くなるからな)
ーーー
誤字、脱字などがあればコメントしてください。
作者☆
お久しぶりの更新でございます。
これからも宜しく。
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