6ー6








 朝の7時となれば、もう学校に来ている生徒達がいる。部活で来る者やたまたま早く来てしまった者達や仕事で来ている先生達もだ。



 そんな者達と同じく私も私の都合で、現会長が通っている学校の前にいる。




「はぁ……どうして、私が……」




 とある理由で私はこの学校に来たが、来る道中でも、憂鬱な気分や思いで来て、今は校門の前で止まっている。



 本当なら、会長が家から出たと同時に私自身の任務である護衛をしなければならないのだが、今は他の者がしている。




「仮面も無いし、暗器も必要最低限しか持っていない……」




 自身の顔に手を当てると、いつもなら耐久性に優れた物質で作られた冷たい狐の仮面があるのだが、それが無く、自分の頬に手が当たった。



 服装もいつもの黒装束では無く、現会長が通っている学校の制服で、教科書や筆箱が入っている学校指定のバックを持っている。




「はぁ……まさか、師匠や上から護衛を強化する為に事になるなんて……」




 



 



 



 会長護衛の"狐"が制服姿で校門の前にいる所を、高い建物の屋上から黒のスーツ姿で仮面を被っている"鴉"と諜報偵察ドローン『黒蝶』を通して、シャチが見ていた。




「いやぁ〜。私が生きている内に制服姿が見れるとは……感激ですな」


の関係で、"狐"は学生にはなれなかったからねぇ……。ま、私も達也の通う学校の生徒になりたぁ〜い!』


「いやいや。お歳的にも手遅れですし、容姿的にも……幼児に近い体型ですから、無理でしょ」


『うるさぁ〜い!そんなの分かってるもぉ〜ん!』




 横にいたドローンが持ち主の声に答えるかの様に、私の周りをグルグルと回り始めた。



 はぁ……とため息をつき、目線を狐に戻した。何度も葛藤した結果、やっと決意したらしく、重い一歩を踏み出して、中へと入って行った。




「シャチ様、一つお聞きしたい事があるのですが……」


『うーん……なに?』


「どうして狐を正体を明かす様なマネをして、会長の護衛につかせたのですか?今まで通りに、裏から護衛……では、ダメなのですか?」


『まーね。達也の護衛は裏からでも良かったんだけど、アリスの襲撃の件もあって、念の為って言うのもあるね。一人捕まえれても、他の工作員は捕まってないし』


「それなら、他の諜報員を増やせばよろしいのでは?足りないのなら、内から出しますけど」


『それでも良いけどぉ〜。ちょっと……ねぇ。不安要素の人物が帰って来た、からかな』


「不安要素の人物が……」




 自分の上司でもあるシャチから、不安要素の人物と言う言葉に少し気になった。


 帰って来たと言う事は、身内の誰かだと言うのは分かるが、最近帰って来たのは、現アスタロトグループ副会長の野崎様ぐらいだ。


 野崎様が現会長の達也の父親が亡くなった代わりに会長代理として、職務をしていたが、達也が会長の座に就いた途端、「バカンスに行く」と言い、会社から姿を消したのだ。


 達也が会長に就いてから、シャチ様が来た事は知っていたので、シャチ様が不安に思っているのは、『ただただ面識が無いだかなのでは?』と思った。




『私はあのオッサンとは面識が無いから、色々と調べたんだけど……なぁ〜んか、怪しいんだよねぇ』


「怪しい……とは?」


『勘と言えば、何の証拠も確証も無いんだけど。あのオッサンの『近衛』って言うんだっけ?その近衛達が他の組と接触してるんだよ。それも何回も』




 流石、諜報部管理AIの産み親にして、アスタロトグループ情報全管理者の職務を現会長から直々に任されただけの方はある。


 我がアスタロトグループ社の裏にある黒龍会には、味方と敵……どちらが多いかと言えば、敵の方が多い。裏切られる事も多々あり。




「ほぉ。そんな事がありましたか……」


『念の念のねーんの為に、調べておきましょーか。会長の達也に危害が及ぶ事は、一つでも除外させておきたいからね』


「分かりました。此方の"暗ノ道"の方でも外国から帰って来た野崎様、そして近衛達を調べておきます。では、これで……」


『うん、頼んだよ』




 本来の目的であった会長と通う娘の姿を見た"鴉"は、新たに言い渡された任務を遂行する為に、その場から消えた。



 その場は、シャチが操作しているドローンだけとなり、四つの小さなプロペラが回る振動の音だけが、響いていた。




『さーてと、達也に散々風呂に入れーって言われてたから、風呂に入りますかね』












 都心の中にあるアスタロトグループ社の支社である高層ビルの最上階の支部長室には、不穏な雰囲気が漂っていた。



 ある一人は、対面のソファーに座っている男に対して、先の話の内容で睨みつける様に見ており、怖面の大人の女性が座っていた。


 対面の男は、ふざける様に足を組んで、話をしている途中なのにも関わらず、スマホをいじっていた。




「おいお〜い。そんなに睨みつけるなって、そんな目で見たら、綺麗なお顔が台無しになるぜ?」


「なら、その口を閉じてくれない?腹が立ちすぎて、殺しかねないんだけど」


「し、辛辣だねぇ〜?そんなに怒るぅ?」




 対面に座っていた男は……野崎だ。彼はわざとなのか、本気なのかイラつかせる様な仕草や態度をしてくる。


 それに、さっきの話で私の怒りのゲージを一気にレッドゲージまで行くような事をして来たのだ。この様な態度を取ったのは当たり前だろう。




「まぁ、意味はねぇと思うが、もう一度聞くけど……………?」


「ないわね。はっきり言って」




 元会長の息子でもあり、現会長を幹部である私が裏切ると言う行為は、元会長を裏切るのと同義。元会長に仕えていた私はそんな事をする筈がない。下らない言葉を口から吐いてんじゃねぇよ。と言わんばかりに即答した。



 それに対して、野崎は未だに薄っぺらい笑みを浮かべていたが、何度も聞かれても協力しない私に、諦めたのか両手を上げ、降参のポーズをした。




「そうかい。なら、俺がここにいる理由は無くなったし、帰るわ。悪かったな。変な事聞いてよ」


「えぇ、迷惑だわ。って言うのは、他でやって頂戴」


「へいへーい。わるーござんした」




 野崎は、悪いとも思っていない表情をしながら、ソファーから立ち、部屋の出入り口へと向かって行った。



 野崎がドアノブに手を掛けた時、私は一応忠告をした。




「一つ言っておくけど……あんた、死ぬわよ」


「おぉ、それは怖いねぇ。でも、俺ちゃんって、結構死ににくいから、大丈夫だよ。大丈〜大!」


「はぁ……私の他の黒龍会の側近達にも、この話をしたのなら、直に会長の耳に入るわよ。アンタのやろうとしている事を」


「フッ、そん時はそん時だ」










 ーー正面からぶっ飛ばしてやるよ。









 薄く笑いながら言い、部屋から出て行った。





 それを見届けた私は、自分の執務机にある固定電話を手に取り、会長にこの事を言わないといけない、と思った。




「会長に今から言う事をすぐに伝えてちょうだい。手遅れになる前に……」
















ーーー

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