6ー5






  ーー朝7時ーー







 俺は家政婦さんに起こされ、二度寝と言う欲求に仕方なく抗い、ため息を一息ついてベッドから立ち上がった。



 もう、結衣やお祖母さんは起きているらしく、朝ごはんを食べているらしい。俺もさっさと学校の制服やら鞄やらの用意をして、自室から出た。




「はぁ〜……」

(あー……昨日は、オッサンが来て、帰るのが遅くなっちまったな)




 バカンスから帰ってきたアスタロトグループ社、現副会長の野崎のざき 健太けんた。副会長と言っても、殆ど業務をしておらず、側近達とバカンスを楽しんでいるらしい。


 もうすぐで、俺の父親と母親の命日だからお墓参りに帰って来たのだ。




「どうせ、今頃はどっかの居酒屋で飲んでんだろうなぁ」




 そう思いながら、襖の戸を開いた。



 中に入ると、結衣とお祖母さんは朝ご飯を静かに食べていたが……どこかしら、ドンヨリと言うか、重い雰囲気が出来ていた。



 その空間に肌から感じた俺はその場に少し固まってしまった。その場で固まった俺に気づいた結衣は、少し微笑んだ後、挨拶をした。




「おはよう、達也」


「おう。……と言うよりも、何、この空気?」


「う、うぅ〜ん………まぁ、食べよ?」


「……」

(俺が居ない間、お祖母さんと何かあったな?)




 俺が仕事と香坂と焼肉屋に行っている間にお祖母さんと何かあったなと思った。かと言って、確証も無いし、情報も少ないから断定は出来ないが……まぁ、飯食うか。



 お祖母さんの方を見ても、「知らん知らん。私ゃ知らん」と言う顔をしていた。




「いただきまーす。お、今日はシャケか。それに……これは、肉じゃが、か?」


「達也様……その肉じゃが、結衣様が作ったんですよ」


「へぇ〜……」




 どうやら、結衣は少し早起きして肉じゃがを作ったらしい。コソコソ声で俺だけ聞こえるように家政婦さんが教えてくれた。



 一品でも、久しぶりの結衣の手作りの料理に少しの喜びを結衣に気づかないように押し殺した後、一口二口と口に入れた。




「ど、どう……?肉じゃが、初めて……作ったから……」


「……」


「達也……?」


「え、あ、いや〜……なんか、久しぶりに食べたと言うか……どっかで食った事があると言うか」




 俺は結衣の作った肉じゃがの味を、何処かで食べた事があると思った。けど、肉じゃがなんて、いつ食べたか忘れたし、食べたとしても、こんな……思いをした事は無かった。



 俺は左手にある肉じゃがを見つめ、俺の中にある記憶の渦という渦の中に潜り、探したが、あと一歩の所で、行き詰まった。




「なぁ、結衣」


「……何?……どこか、不味かった?」


「いや……そうじゃ無いんだが、これ、何か見て作ったのか?」




 記憶を辿っても、このモヤモヤとした気持ちを解決する記憶は出てこなかった。だから、この料理を作った結衣に問い出した。


 


「……この、肉じゃがは……これを見て、作ったよ」


「これって、本?ノート?しかも、汚れてるし……どうしたのこれ?」




 

 結衣から渡されたのは、一冊の本だった。



 適当にペラペラとめくってみたら、所々汚れている箇所もあり、一部は破れている箇所もあった。本の題名を見ると、『料理日記』と書いてあった。


 しかも、その題名は手書きで、俺の生みの親である……母親の手書きだった。それに俺は気づくと、少し目を開き、驚いた。




「何処に……この本が」


「……泊まらしてくれた……部屋の棚に、本と本が、重なって……あった」


「……そう、か」

(夜だったから気づかなかったが、結衣が泊まった部屋は俺の母さんの部屋だったのか)

 



 アリスの公演館から帰ってきた時は、夜だった為、しかも急だった事もあり、家政婦さんに「空いている部屋に寝かしつけておいて」と言い、結衣を任したので、結衣が俺の母親の部屋に泊まっていた事は知らなかった。




「それに、どうして、肉じゃがを作ったんだ?他にも、料理は書かれてるのに……」


「……このページに……肉じゃがの事と……達也の事が、書いてあった」


「え……?俺の、事?」




 結衣に言われたページを開くと、そこには、母さんが自分で作った肉じゃがの写真、作る工程などが手書きで書かれており、それだけを見ると、他のページとは変わらなかった。しかし、その下には母さんの言葉が書かれてあった。


 俺は黙読して読むと、驚きのあまり、少し手が震えてしまった。結衣は俺から料理日記を取り、読み始めた。




「……『今日も、私が作ってくれた肉じゃがを食べて喜んでくれた!やっぱり、隠し味が効いてたのかなぁ〜。夫も喜んでガツガツ食べてたし、親子は似るのね〜』


「……母さん」




 母さんは、元気で明るい人だった。



 小さい頃から明るくて、元気で一緒に過ごしている時間は、本当に幸せだった。親父も「自慢の妻」と言っていたし、俺も太陽みたいな母親で、良かったと思っていた。



 けど、今はいない。



 親父と母さんが車の衝突事故で亡くなったと聞いた時は、ショックだった。まだ、俺は小学生で、もう少しで中学生になろうとしていた時だ。




「……『夫も夫で、特殊な仕事をしてるからねぇ……だから、私が達也や真波の世話を見て、美味しいご飯を作らないとね!』」



 

 親父が、表は様々な業界に手を出し、大企業として知られているアスタロトグループの『会長』。そして、裏では、荒くれ者達や訳あり者達が集い、親父に従っている黒龍会の『組長』であった。


 母さんは凄いと思う。親父が元々極道であった事は知っていたはず、なのに親父と結婚し、子を産んだ……。相当な覚悟があったのか、それぐらい親父にホレていたぐらいしか理由が思いつかない。



 そんな思いに浸っていると、いつの間にか読み終わった結衣が、珍しく微笑んでいた。




「……愛されて……たんだね」


「……あぁ、幸せだったよ。バカみたいな事をしたら、バカみたいに怒られてさ」


「……うん」


「それでも優しくて、さ……太陽、みたいな人だったんだ」


「……この、日記を読んで……分かった。達也のお母さんは……優しくて、良い人だって」


「結衣……」




 結衣の顔を見ると、目を丸くした。今、結衣がしている表情は、少しだけしか過ごしていないけど、その中で見た事の暖かい笑顔をしていた。


 

 結衣の笑顔と、俺の母さんの笑顔が重なって見えた。





「か、あさん……?」


「……ううん、私はお母さんじゃないよ。達也」


「あぁ……ごめん。結衣が少し、母さんに似てたから」


「そう……、じゃあ、今日は、達也のお母さんになってあげる」




 結衣は両手を広げ、自分の太ももをポンポンッと叩き、「ここにおいで」と言っている様だった。




「い、良いのか……?」


「……うん、少し……恥ずかしいけど、膝枕ぐらいは……ね?」


「じゃあ……お言葉に甘えて」




 女の子に膝枕をしてもらうのも始めてだが、それが結衣相手になるともっとドキドキしてきた。


 そろり、そろり、と、結衣と俺との距離の差も縮まり、近くなるたびに、結衣の顔が薄く紅色に染まってみえた。




「……結衣」


「……達也」




 目の鼻の先の距離ーーという所で、「ゴホンッ!!!」と言う音が聞こえた。その音に驚いた俺と結衣は、音が鳴った方を見ると………。




「アンタら……朝っぱから、イチャコラしよって、場所と時間を弁えてからせぇい!」


「「す、すみません……!」」


「家政婦さんも赤くなっとらんで……出かける準備をしてな」


「えぇ!?はい。分かりました!」




 俺と結衣のさっきの件を全て聞いていた俺の祖母は、先にご飯を食べ終わっていた。と言うよりも、さっきまでの話を聞いていた事に気づいた俺と結衣は、恥ずかしさのあまり、頭を真っ赤にした。



 家政婦さんもちゃっかりと俺達の話を聞いており、顔を真っ赤にしていた……。うん、恥ずいわ。




「達也」


「あ、はい!」




 急に立ち上がった祖母に驚きながらも返事を返すと、祖母はさっきまで怒っていた顔から、薄らと不敵に笑い、言った。




「このご時世にこんなに良い子は、他にそうそういない。だから、しっかりと捕まえなよ!」


「えぇ!?わ、分かりました〜!?」


「アンタもや」


「わ、私も……ですか」




 すまん結衣、飛び火した。




「昨日も話したが、アンタが背負ってる物は、この馬鹿に任したら良い。面倒くやがりで、ダメダメなこの子でも、やる時はトコトンやる男なんだよ」


「それ……貶してるやん」


「……はい。いつか……話せる様に、頑張ります」


「……なんか、ええ雰囲気やな」

(てか、俺が居ない間に、何があったんだよぉ〜!!!)




 祖母と結衣の目線が重なり、少し見つめ合った後、結衣は少し頷き、祖母も「良し!」と言って、満足そうに出て行った。







「何が、良しなの?」










  ーー墓地ーー






 人が亡くなった時に作られる墓跡が集められた場所は、少し寂しくもあり、そこだけ別世界で、怖くもあった。



 そんな場所に向かっているのは、寒さ暑さ関係なく帽子を深く被り、タバコを咥えいる一人の男が片手に酒瓶と花の束を持って、坂を登っていた。




「ヒュー……久しぶりだねぇ、ここは。なーんも、変わってねぇや」




 歩いては周りを見て、歩いては周りを見てを繰り返し、久しぶりに来た所を見ながら満喫していた。


 やっとの事で着いた所は、山の頂上で、入り口にはフェンスで閉ざされていた。ここの山は、達也の親父と母親の墓を荒らされてほしくないから、買収し、二人だけの墓を作らせた所だった。




「まったく……墓荒らしを防ぐ為に、山を買収するだけじゃなくて、監視カメラも設置してるとはねぇ……流石、元会長の息子って、訳か」


 



 フェンスの上や道路を挟んでいる木に、複数の監視カメラもあり、二十四時間、二時間毎に警備員が確認しに来る……その徹底ぶりに改めて野崎は、現会長のやり方に



 このご時世、墓荒らしをする奴は目立ちたいバカな奴か、視聴率を稼ぎたくてアホな事をする奴しかいない……。なのに、こんな事をしている理由は……、表に出たらヤベェ物をこの山に隠してるか、ただの親想いなだけか、予想だけど。



 元会長の墓参りをするーーと事前に伝えていたので、フェンスの扉を開く為の鍵は渡されているので、鍵穴に差し込み、扉を開き、先に進んだ。



 少し進んだ先には、達也の産み親でもあり、育て親である。達也の親の二人の名前が彫ってある墓跡があった。




「ひっさしぶりだなぁ〜。元会長。俺の詰まりに詰まったバカンスの思い出をトコトン!語ってやるぜぇ」




 二人と久しぶりに出会った野崎は、歳関係無く、バカンスであったバカみたいな事を何も返事をしない墓跡に時間を忘れて、伝えた。




「あ、そうだ。アンタの息子が会長の座についてから、3、4年ちょっと経つが……もう、他の幹部からも頼られるようになってやがるぜ」




 墓の前に持ってきた酒瓶と花束を起き、自然の草の絨毯にオッサン座りし、話を続けた。




「顔付きも良くなってな。やっぱり、アンタの子だなぁ〜って思ったよ。久しぶりに海堂にも会ったが……やっぱ、仲は悪りぃや。すまねぇ」




 達也の親父が現役の頃から、俺と海堂とは仲が悪かった。でも、会長の『右腕』と『左腕』としては、協力をしないといけないのだが、どうも性が合わねぇ。


 だから、今の今まで仲は良く無く、バカンスに飛んで行っちまった……って、訳さ。




「会長。もう一つ謝らないといけねぇ事があるんだ。俺、するわ。俺が帰ってきた理由もそうだし、近衛の奴らも了承済みだ。……やっぱり、あの坊主にアンタが築き上げた社や組は任せれねぇ。命までは取らねぇが……それぐらいに近い事をやるかもしれん。本当にすまん」




 そう言った野崎は立ち上がり、これから的になるだろう達也の親である墓に一礼した後、その場から出て行った。


 様々な思いを抱きながら、これから起こる事に恐怖と決意を持って、一人の男として、反乱する。












 【第六章・達也と結衣の行く末】








ーーー

誤字、脱字などが有ればコメントしてください。



作者



えー……と、言いたい事がございます。


また、また、なのですが、来週の月曜日から期末テストがございまして、更新出来るかは未定でいかせて貰います。


度々、この様な事があり、申し訳ございません。



補足


期末テスト、マジで良い点数取ってやんよ!








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