第四章
4ー1
「結衣様、ここを教えてはくれませんでしょうか」
「……うむ」
この件、前にもやった事があるような無いような。
俺は今、結衣の家で夏休みの課題、そして俺の宿敵でもある『数学』と格闘しているのだ!……簡単に言えば、結衣に教えて貰えながらやってますと言う事です。はい。
どうして結衣の家でお勉強をしているかと言うと、図書館が閉まっていたのだ。
なんだか定休日なのかは分からないが、珍しく閉まっていたのでどうしようかと悩んでいると結衣が『……来る?』と言ってきたので甘えて来ました。
結衣の家に来るのは二度目だ。最初は結衣が性悪3人組に万引きの罪をなすり付けられそうになっているのを助けた日以来だ。
「うぅ〜ん、解けたぁ〜」
「……解けた?じゃあ……次はこれ」
「地獄だぁぁぁあああ」
「……ファイト」
「頑張りますぅぅううう」
一つの問題が解けても新たな問題が露わになる。これが生き地獄ってやつだぜ。知らんがな。
俺は数学の宿題をしており、結衣は読書をしていた。相変わらず難しそうな本を読んでおり題名は全て英語だった。
特に話す事も無く、せっかく分からない問題が有れば教えてくれるのだから読書の邪魔はしないでおこうと思った。
しかし、無表情で静かに本を読んでいる結衣の姿は一種の芸術だとも思ってしまった。
(ま、こんな事を本人に言っても馬鹿じゃ無いの?って思われそうだからやめとこ)
馬鹿以外にも変態だとも思われるのは個人的にも嫌なので心の中で留めていると、目の前にいる結衣はこっちの方を見ていた。
「ん?どうした?」
「……いや……達也が、さっきから……見てくると……思って」
「あぁ、気を悪くしたらすまない。つい、見惚れてしまったと言うか、何というか、そんな感じだ」
「……っ!そ、そぅ……なら良い……よ」
そう言うと、待っている本に顔をスッと隠れてしまった。これで何か言っても答えてくれなさそうなので宿題に専念する事にした。
何時間したのかは分からないが、宿題の進みぐらいを見てみると、だいぶ終わったので満足いく結果になった。
スマホの電源を入れて、何時か確認してみると『一時』と表示されていた。
(一時過ぎか……小腹も空いて来たし何か食べに行くか)
目の前にはまだ静かに読書をしている結衣を見ると声が掛けずらくなったが昼過ぎな事を教えないといけないので声を掛けた。
「結衣、もう昼過ぎだからご飯食べに行くか?」
「……え?あ、本当だ……」
壁に掛けかけている針時計を見ると短針が1の数字に向けているのを確認した結衣は、俺が言っていた通り昼過ぎだと分かった。
「……食べに行くの?」
「おう、教えて貰ったお礼に昼飯奢らせてくれ」
「……ありがとう……じゃあ……ファミレスでも行く?」
「ファミレスなら色んな種類もあるし、お財布の経済的にも優しい……良し!行くか!」
「……うん……お腹空いた」
ファミレスなら極端に高い物は無く、五千円でも持っていたら充分に満足する素晴らしい店だ。
俺のお財布の事も考えてくれた結衣には心から感謝し、食べに行く事にした。
ずっと家で籠もっていたから歩きで行く事になったが、季節は夏。太陽の日差しが鋭く、暑かった。
「今日も相変わらず、あちぃーな」
「……うん……でも、季節を味わうのも……良い」
「日傘をさしているお前は味わえているか?」
「……暑いと……感じるだけで……充分。女にとって……紫外線は……宿敵!」
男の俺からにしたら雨も降って無いのに傘をさしているのが不思議でしょうがなかった。でも、女性がさす理由を知ったら納得した。
「俺はあんまし紫外線とか気にしないからなぁ……」
「……お肌に悪い……それに……病気になるかも」
「マジか?」
「……舐めてると……痛い目に合う。だから……痛い目に会う前に……それなりの対処をする」
隣に並んで歩いている結衣は日傘の中から見上げてくる目は至って真剣で真面目に言っているようだった。
そんな真剣になっている結衣に対して俺は少しだけ笑ってしまった。俺が笑ったのを見て結衣は信じて貰えてないと思ったのか不機嫌になった。
「……むう……信じてない」
「信じてる、信じてるよ」
「……本当〜?」
「本当だって……結衣の事は信用しているし、信頼もしてんだから」
信用や信頼をしていると言うのは本当の事だ。初めて出会った時は怪我の手当てをしてくれたり、弁当を作ってくれたり、数学の分からない問題を教えてくれたり……ん?俺ってして貰った事しかないじゃん!
「……な、なら……良い」
「信じてくれたか?」
「……ぅん」
さっきは不機嫌そうにしていたのに、急に小声になった結衣を見ても日傘で隠れてて見えなかったが、機嫌は直してくれたのかは分かった。
「……いつでも……頼っても……良いよ」
「おう、でも、頼り過ぎるといけないから自分でやれる事は自分でやるよ」
「……うん……私も……頼られると……」
「と?」
隣にいる結衣に横目で見てみると結衣が傘の隙間からチラリと見ていた。彼女なら頬は薄く紅色に染まっていたのも見えてしまった。
「……嬉しいから……もっと……頼っても良いよ?」
………………ハッ!!!
いかん!俺の魂が結衣の浄化言語によって天に召されてしまうところだった!なんだよ!もっと頼ってとか……あぁ、心が痛い。
結衣のその言葉を聞いた瞬間、目を背けて、顔を見せないようにした。何故ならやばい程ニヤケているのか恥ずかしくて真っ赤になっているからだ。
「……た、達也?」
「見るな。お前が今、俺を見たら俺はお前の事を一生見れなくなる」
「……そ、それなら……見ない」
「あぁ、頼む。これ以上、俺を……」
「……え?……これ以上……何?」
「お前は知らなくて良い、いや、知ったとしてどうにか出来るものでは無いから」
「……な、なるほど?」
結衣は心配そうに見て来たが、俺はどうにか照れて見せれない事がバレてないのに一息つき、ファミレスに着く前にはニヤケ顔を直そうと決めた。
(はぁ……本当にこう言う時の結衣はずるいと思うわ)
ひとまず、理性君と下心君はとても苦労したと言っておこう。
ーーー
誤字、脱字などが有ればコメントしてください。
海男です。はい。
臨時休業が延長し、新たな課題が出てきた事で俺は大変、まいってます。
皆様も、コロナが段々と収まっているからと言っても、用心し、予防しましょう。
終わり
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