第四話『1000回目の異世界2』

「…冗談だよね…………」


「ボクもそう思いたいが……、残念ながら事実だ。これから君には、この世界を攻略してもらう」


「……………」


御主人様マスターはいつも情けないですが、今は更に情けない顔ですね」


 口が空きっぱなしになっていた俺を、ナビィはいつも通りに小馬鹿にしてきたが……。


「いや、だってよ……80兆だぜ……」


 世界総人口80兆人。


 これまで、一番多くて総人口1000億人の世界であり、ここまで大きい世界は初めてだ。


 だからその…、その目をやめてくれない?

ナビィさん、俺はゴミじゃないから!



「よし。転生する座標を決めるから。君は心の準備でもしててくれ」


 そう言うと女神さんは、俺に本のページが見えないようにしながら、俺が転生する場所を選び始めた。



「いや、この世界を攻略するとか……無理だろ………」


 この世界、攻略するどころか生き残ることすら難しいぞ……。


 まず、基本的に魔王には『レベル』がある。弱い順に1から10の十段階。


『レベル6』からは勇者よりも強くなるので、この世界も攻略出来るだろう。だが、最初は『レベル1』であり、鍛える必要がある。


 俺が全力で鍛えたとしても、レベル6以上になるために、だいたい150年は必要だ。


 さらに、今回の世界は超科学世界。

転生してから、そんなに猶予があるとは思えない。


「そんな事はボクも分かっている。だから今回は、君をそのまま転生させる。そうすればこの世界を攻略することも可能だろうからね」


 つまり、前回の世界で鍛えた今の状態のまま、転生出来るってことだ。


 俺にとっては嬉しい提案だが……、


「本当に良いのか?今の俺、最強の魔王だぞ」


 『レベルの無い魔王』それは、本来『レベル10』までしかない魔王から進化した存在である。その力は、現人神(あらひとがみ)の領域に至っている。


「な、そんなに強くなっているのか!しかし前回の世界はそんなに難しくは無かったはずだが…?」


「はい。世界攻略は簡単でしたが、御主人様マスターが失敗したせいで、無駄に時間を使いました。無能以外の何者でもありません」


 俺が答えるよりも先にナビィが、答えてしまった。


「ナビィさん?何言っちゃってるの?……、確かに失敗したけども………」


 そう、俺は失敗した。

 一回間違えて勇者を殺しちゃったせいで、次の勇者現れるまで100年近く待ったからな……。


 でもさっき、女神さんにお菓子を作れたのも、暇な時間を有効活用した結果だ。

 だから許してください………ナビィさん。あ、そっぽ向かれた……。


「はぁ、まぁ良い。多分問題ないだろう」


 女神さんは溜め息を吐き、仕方ないと了承する。


 同時に、俺とナビィさんの下に魔法陣のようなものが出現する。

 どうやら、転生の準備が整ったようだ。


「『魔王の魔法回路』は100%の状態で頼む。彼女が居れば、君の魔法が暴走することもないだろう」


「えぇ…、俺嫌いなんだよ。あの刺青みたいなの………」


 魔法回路は基本的に、魔力を流すと光を発しながら全身に浮き出る。

 これが『勇者の魔法回路』であれば蒼白く光るのだが、『魔王の魔法回路』は赤なのだ。俺の髪の毛も白いから、もうどう見てもそっち系の人にしか見えない。


「文句を言うな。性能だけ見れば、ボクとだって戦えるぐらい強いんだ。多少は我慢してくれ」


「分かってるよ……、ほれ。これで良いか?」


 俺の宣言と同時に、全身の回路が赤く発光する。


「あぁ、それと最後にアドバイスを一つだけ言っておく」


「何だ?」


「極大魔法の準備をしておたほうが良い。今回の世界の人々は、ボクの存在を間接的に認識出来る技術を持っている。転生場所はすぐにバレる。準備して、損はないよ」


 そう言うと、女神は不気味な笑顔を浮かべた。

女神さんが何かを企んでる時の笑顔は、とても不気味だ。今回もその一つだろう。しかし、この笑顔を浮かべた時は、必ずその方法でしか上手くいかない。


「分かった。ナビィさんもよろしくな」


「了解しています。私は既に、すべての魔法の展開が可能ですので」


 相変わらずの化け物発言だな。仲間だから頼もしいけど……。


「今回でボクが転生させるのは最後になることを、心から願っておくよ」


 女神さんの言葉に反応したのか、俺とナビィさんの下にあった魔法陣の様なものが、とてつもない光を発生させる。転生の合図だ。

 その光は、全身をパラパラと消していき、一瞬にして俺とナビィさんの転生は完了した。


・・・

・・


 転生したのだ、したのに何で!


「またに来たんだよ!!!」


 俺は目の前の白い世界を見ながら、全力で叫んだ。

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