1000回目の魔王様~どう考えても俺より強いんですが、~

落ち武者でありたい

プロローグ

『始まり』

「ここは、どこだ?」


 そんな言葉を呟きながら-----は、何も無い白い世界に立ち尽くしていた。


「俺、だよな。確か、瓦礫に押し潰されて……」


 そう、俺は死んだはずなのだ。

家族と買い物にデパートに行って、その時すごい強い地震が起きて瓦礫に押し潰された筈だ。


 だって確実に体が半分にされてたのだから……。


 あれ?

でも今、普通だな。

何度見ても下半身がある。

どういうことだ???


「そうだ!みんなは何処だ!?」


 こんな所で考えている場合ではない。

俺が無事なら、妻と子供も無事なはずだ。


 そう思い辺りを見回すが、かすかに地平線のようなものが見えるだけであった。


「大丈夫だ。まだ慌てる時間じゃない」


 人間の目で見える地平線までの距離は約4.5㎞ぐらいだって、テレビで言ってたし。

 それぐらいなら、歩いて移動出来るし。まだダメって決まった訳ではない。


「待ってろよ、絶対探し出してやるからな!」


・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・


「そろそろ3時間ぐらい経ったかもな」


 そもそも時間というものがあるのかも疑問だな。

これだけ歩いて疲れも無いし、腹も空かない。

他に混じりけの無い白一色の世界。


 というか…………、誰も居ない。


 人どころか、他の生物が全く見当たらない。肉体的には疲れないが、精神的に滅入ってくる。

 絶対に探し出してやるとは言ったが、30過ぎのおじさんにこの環境はきつい。


「おーい……誰か居てくれよぉ、一人は大丈夫でも独りは嫌なんだよぉ…………」


 そんな独りごとを呟いても、当然返事が帰ってくる事はない。


 仕方ないと思いながら、俺は歩き続けた。


「んぁ?あ、あれは!!」


 更に1時間くらい歩いた頃、俺はかすかに見える地平線に何か点のようなものがある事に気付いた。普段なら絶対に見えないだろうが、この世界では何故か、視えたのだ。人の形が!

そう分かった瞬間、自然と体は走り出していた。


 そこで分かったのだがこの体、疲労どころか、限界も無いらしい。風の感じからして、時速100㎞は越えてるな。そのお陰で、目的の場所まですぐに辿り着けそうだ。


「おぉぉぉぉい!!そこの人ぉぉぉ!!!」


「え、何でここに人間が!?って来ないでぇぇ!!」


「おげぇらぁ!」


 なんという力、物凄い速さで走っていたのだが、10メートルは殴り飛ばされてしまった。


 て言うか、骨が折れていないのが不思議な程痛い!痛すぎる!!


 俺が悶えていると、心配そうに声がかかった。


「すいません。あの、大丈夫ですか?急に近づいてきたので殴ってしまったのですが…」


 走っていた間は気付かなかったが、この声からして、視えていた人影は女の子だったようだ。


「あぁ、大丈夫だ。いい威力だったよ…………。それに、こちらこそごめんな。寂し過ぎて気が変になっていたみたいだ。ほら、ここ、何も居ないからさ」


 どんなに取り繕っても、小さな女の子に物凄い速度で近づいてくるおじさんって変質者なのだが、一応言い訳を言っておく。


「は、はぁ。一応事情は把握しました。それとあの、どうやってここへ来たんですか?返答によって対処が変わってくるのですが…」


 女の子は困った顔をしながら尋ねてきた。


「うーん、どうやってって言われてもな…死んだと思ったらここに居たとしか言えないんだが……」


「そうですか、じゃあ多分転生ですね!待っててください。今から転生先を調べるので!」


 そう言うと女の子は、光と共に本を出現させ、ページをめくり始めた。


 そうか、やっぱり俺は死んでたのか……。


「でも、なんで俺だけなんだ?転生なら他のみんなも居るんじゃないのか?」


「はい、他の皆さんも転生しますが、最低でもあと1万年は先でしょう」


 1万年!?長すぎだろ!


「貴方はおそらく勇者と呼ばれる者だったのです。死んだ瞬間に別の世界に転生する事が出来るので、他の皆さんのように、転生を待つことがありません」


 はぁ、なるほど。死んだ瞬間にね……。


「なぁ、俺の家族は生きてるのかな?」


 もしかしたら、死んだのは俺だけかもと、みんなが生きている事に期待する。


 だがそんな期待は、簡単に否定される。


「いえ、貴方と同じように瓦礫の下敷きになって死んだようです。ただ、貴方とは違って即死だったみたいなので、最後は辛くなかったはずですよ」


「そうか……そうなのかぁ……」


 じゃあ、瀕死だったあの時に辛うじて掴んだ赤ん坊の手はやっぱり、俺の子供の……………。



 なら、覚悟は決まった。



「なぁ君、もしかしなくてもって存在なんだよな。それなら…」


「すいません。その願いを叶える事は出来ません。いくら女神であっても、確定してしまった死を覆す事は出来ませんので…」


 家族を蘇らせてくれ、そう言い切る前に断られてしまった。

こんな申し訳なさそうに断られたら、もう願うのは無理だろう。


 だが、諦めるなんて御免だ。どうにかして……


「でも、私の言う代償を払うのであれば、その願いを叶えるをしてもいいですよ」


 そう言う女神様は、子供の姿に合わない不気味な顔で笑っていた。明らかに、何か思惑があるのだろう。しかし、だからなんだとい言うんだ。


「あぁ、いいよ。俺の家族が生きてくれるのなら、どんな代償だって払う」


「即決ですか。分かりました。貴方の家族は、必ず蘇らせると約束します。それで、代償なんですが……」


 一瞬間が空き、女神様は不気味な笑みを浮かべながら言った。


「貴方に1000回、魔王をやって欲しいのです」


 この時、俺は勇者から魔王になった。

 でも、それでいい。


 家族がまた、生きてくれるのなら。

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