第2話 ギルド
「ギルドに……行ってみるか」
俺は躊躇いつつも、麓にある小さな町のギルドへ足を運んだ。
「どこにでもありそうなギルドだな」
至って普通の中流ギルドといったところだろうか。
木造でその辺の宿となんら変わらない見た目だ。
――それなりのギルドに入りたかったが、仕方ない。どうせ自分しか回復できない回復士なんて必要とされていないだろう。
中に入ると、数人から視線を感じた。
称賛とか羨望の目だったらいいのだが、それは正に珍獣を見ているかのような嫌な目だ。
俺は見せ物じゃないぞ。
恐らく俺が毛皮を着た汚らしい姿をしているからだろう。後で直しておくか。
俺はカウンターへ近づき、そこにいた受付の女に話かけた。
「ギルドに入りたいんだが」
「はい。それでは名前と職業をお願いします」
「名前はラルグだ。職業は――」
俺はそこで言葉に詰まった。
ここで『回復士』と言い、自分しか回復できないということがバレなければ、その後は安泰だろう。
しかし、それがバレたら。
俺は追放されてしまうどころか、身に危険が及ぶことになってしまうだろう。
「……剣士で」
「? 剣を持っていないようですが?」
「あ、な、失くしたんだ」
女が訝しげな表情になる。
「……まぁいいです。ギルド長に話は通してみますので、ここで待っていて下さい。
よかった。
門前払いを食らう所だった。
しかし、実技試験とかはあるのだろうか。
そこで落とされる可能性だって大いにある。
けど、剣なんて全く扱えないぞ……
判断を間違えたな。
そんなことを考えていると、奥に行っていた女が戻ってきた。
5分も経っていないぞ。
もしや、嘘がバレたのか?
「……あなたの参加を認めます。これが冒険者カードです。四角の枠の上に指を乗せれば完了です」
先程と違って何故かにこやかな、含みのある笑顔で四角の白い枠が真ん中にあるだけの、茶色のカードを手渡してきた。
早過ぎると思ったのだが、これが普通なのかもしれない。
俺は枠の中に指を乗せた。
その途端、カードがボーッと光り出し、俺の名が浮かび上がってきた。
「それでは、良い冒険者ライフを」
「……」
何か怪しいな。
カードの色が汚すぎるのもあるが……
「ブッ……フッ……良い冒険者ライフをだってよ」
何だ?
笑い声が聞こえる。
俺が戸惑っていると、筋骨隆々で中年ぐらいの男が近づいてきた。
「お、おめぇ、『雑用係』のカード押し付けられてんじゃねぇか!!」
その瞬間、ギルド内が大爆笑に包まれた。
「ギャハハハハッ!! け、『剣士』志望が『雑用係』だってよ!!」
「えらい職業押し付けられたなぁ!! ヒャハハハッ!! ま、新人にはお似合いだろ」
なんだ?
『雑用係』のカード?
この茶色のカードのことか?
「『雑用係』は下の下だぜぇ? 冒険者の圧倒的格下!!」
どういうことだ。
なぜ押し付けられたんだ。
「俺は剣士だと言ったはずだ。どうなってる」
「あら、そんな下品な格好でしたから、『雑用係』がお似合いだと思いまして」
……なんて奴だ。
「職業は一回決まるとランクが『上級』に上がるまで変えれねぇんだ。
だが、雑用の仕事は幾らやっても『上級』に上がることはできねぇ。
つまり、お前は一生俺たちの下僕ってことだ!!」
男が笑い声を上げる。
下僕だと?
俺は冒険者になりたくてここへ来たんだ。
『上級』に上がるまで変えれない?
今から依頼を受けて上げるだけだ。
「おーっとぉ、一応言っとくが、雑用係は雑用の仕事しか受けれねぇんだぜ?」
掲示板の前にさっきの男が立ちはだかる。
なんだコイツは。
「……そこをどけ。依頼なら無理矢理にでも受けてやる」
再び大爆笑が起きる。
「『雑用係』が『そこをどけ』だってよぉ!!」
男が馬鹿にしたような顔で言う。
その顔を見ていると、無性に腹が立ってきた。
せっかくギルドに入れたというのにこの始末か。
「いいからそこをどけ。俺は依頼を受けたいんだ。」
「……チッ。そんなに依頼を受けてぇんなら俺を倒してみろよ!!」
周りの奴らはニヤニヤ薄ら笑いを浮かべながら眺めている。
……やるしかないか。
自分しか回復できない落ちこぼれ回復士が自分を回復し続けたら最強の肉体になった件 〜それでも俺は冒険者になりたい〜 @p @pppppp172454388
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