第5話 実践1(関わり始めるには挨拶がいいらしい)


 俺は早速教えてもらったことを実践するため、次の日朝早くに登校することにした。

 というのも、俺の幼馴染の柳瀬さんは毎朝朝早くに学校に来ていることを知っているからだ。

 流石に人目につくところで話しかけるのはまだ恥ずかしいので、人が少ない朝早くに挨拶をすることにした。


 ガラガラ、と音を立てて扉を開ける。

 案の定、彼女は1番乗りで教室の机に座っていた。

 ちらりと教室に置いてある花瓶を見ると、中には水が入っていた。


 やはり彼女は優しい人だ。

 そう、彼女は朝早くに来て水やりをしてくれるのだ。きっとほとんど誰も知らないであろうが、俺はそんなさりげない優しさが好きだった。


 俺は緊張でドキドキする心臓を抑えながら、さりげなく柳瀬さんの机へと近づく。


「や、やあ、柳瀬さん。お、おはよう」


 緊張で声を震わせながらもなんとか挨拶をすることができた。


「……?えっ……え!?一ノ瀬くん!?お、おはよう!」


 声をかけると、柳瀬さんはゆっくりと顔を上げる。

 俺が声をかけたと分かると、なぜか慌てふためいた声を上げながらも挨拶を返してくれた。

 挨拶が返ってきた嬉しさでますます上がってしまう。


「えっと…………な、名前覚えてくれてたんだ?」


 挨拶だけで終わらせるのは勿体ないと思い、なんとか頭を振り絞って話題を繋げる。

 久しぶりに好きな人と話せている、その緊張にもにたドキドキ感が強く襲ってくる。


「え、ええ、一ノ瀬くんも私の名前知っててくれたんだ……」


 なぜか少しだけ嬉しそうにはにかむ柳瀬さんは、柔らかい声でポツリと呟いた。

 長い前髪で顔はよく見えないが、それでも見える口元は少しだけ緩んで頰もほんのりと色づいていた。


「ま、まあ…………。じゃ、じゃあ」


「う、うん……」


 緊張で上がってしまい頭の中は真っ白だ。

 結局それ以上話すことが思いつかず、逃げるように離れてしまった。


 ああ、俺の馬鹿野郎。なんでもっと話さないんだよ!

 まじで俺ってヘタレだな。


 俺は自分の席に着いて、顔を机に突っ伏しながらもっと話さなかったことを激しく後悔した。

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