女王への不信
女王候補?
今までそんなことを言われたことはなかった。そもそも「候補」とはなんだ。
呆然と立ち尽くしてしまう。
女王は神が選ぶとされていた。神託があり選ばれると。そのため血縁同士で王座をめぐって争うようなことはない。血縁を残さないためにも女王は純潔であらねばならない。
そう思っていた。
だが、実際に朱雹華という女王金蓮の孫が存在してしまっているのだから、その伝統は嘘になる。雹華の信じていた国が揺らいでいく。いったいどういうことなのだ。
「私が、女王候補?」
思わず声が出ていた。
いままで生かされてきた意味がやっとわかった。やはり血縁を愛おしんでというわけではなかったようだ。
それほど大きな声を出したわけではないが、そのとたん侍女が慌てた様子で平伏した。
「控えよ。発言は許していない」
重苦しい声だった。その言葉だけで、女王が女王として生まれてきたのだと誰もが理解する。張り上げたような大声ではないのに、女王の声は良く響く。
「お許しください。私に罰を」
発言をしたのは雹華なのに侍女が額ずき罰を求めている。
「杖刑二〇回に処す」
女王が低い声で言う。そのとたんどこからかやってきた官吏のような男たちが侍女を引きずっていこうとした。
「待ってください! 悪いのは私です。その人は関係ないでしょ」
雹華は思わず叫んだ。だが男たちは雹華に一瞥すらくれない。
この侍女と言葉を交わしたことは数えるほどしかない。だがなぜ自分のせいで彼女が罰せられるのかわからない。侍女を助けようと男たちに駆けよろうとするが、さらにやってきた別の男に阻まれた。侍女を連れて行こうとしている男たちとは衣の色が違う。先ほどの男たちは黒い衣だったが、彼らは紅色の衣を纏っている。時々この衣の男を居所でも見たとこがあった。つまり彼らは
女王は何も言わない。それどころかすでに雹華に対する興味を失ったようにすら見えた。
「なぜ」
雹華はこぶしを固めた。閹者は雹華に触れるようなことはないが、一介の武人のような体格で雹華を通そうとしなかった。
「発言しただけで、なぜ罰せられるの」
つつましく、静かに生きてきた。
ある日突然家族から離され、意味も解らず高貴な身分のように扱われた。だが、ここには誰一人として親しく話しかけてくれる者はいない。親も友も。大人は教師か、食事を運んでくれたり身の回りの世話をしてくれたりした侍女だった。名前さえ知らない。誰一人として名前を聞いても答えてくれない。一方的な教えばかりでこちらの質問には答えてくれない。
血縁であるはずの女王も何も答えてくれない。
雹華は誰よりも孤独な存在だった。
「女王様がご退出なされます」
雹華を阻む閹者ではない、おそらく女王付きの閹者の高い声が響く。
女王は何も言わないまま去っていった。
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