『華一会 HANA ICHIE 』

レイフロ


『華一会〜HANA−ICHIE〜』


【ジャンル:シリアス】

【所要時間:分程度】


【あらすじ】

廃刀令が出される前のお話。

一人の侍と、人買いに売られていた少女が出会った。


【人物紹介】

男♂:無精ひげの侍。とある怪しげな仕事を生業なりわいとしている。

女♀:子供と呼ぶには育ちすぎており、女性と呼ぶには幼すぎる頃合い。首には醜い傷痕があり、口を利かない。



【演じる際の注意点】

☡冒頭、花いちもんめの歌詞が出てきますが、歌ってもいいですし、ただ読んでも構いません。ただし、どちらかには合わせて欲しいので、演じる前にご相談をお願いします。

☡文中で出てくる「夜鷹」とは、「江戸時代に、夜、道ばたで客を引いた、下等の売春婦」のことです。




↓生声劇等でご使用の際の張り付け用

――――――――

『華一会』

作:レイフロ

男♂:

女♀:

――――――――


⚠今後のレイフロの台本の更新、新作の公開につきましては、下記HPで行いますので、ぜひご覧ください!

https://reifuro12daihon.amebaownd.com/





以下、台本です。

――――――――――――――――

(冒頭の花いちもんめは、歌ってもいいし、セリフとして言ってもいいですが、明るくも暗くもなりすぎないようなトーンでお願いします。つまり普通で。←)



女:

勝って嬉しい 花いちもんめ


男:

負けて悔しい 花いちもんめ


女:

あの子が欲しい


男:

あの子じゃわからん


女:

相談しましょ


男:

そうしましょ …




(間)




女:

私は最後まで売れ残った。

「あの子が欲しい」

「あの子じゃわかりませんよ」

「値段は相談しましょう」

「そうしましょう」

周りの子はどんどん売れていく。


男:

余っていたガキを買った。薄汚くガリガリで、おまけに首にはみにく傷痕きずあとがあった。

子供と呼ぶには育ちすぎているが、かといって、女性と呼ぶには未成熟だ。

格安だった。

「旦那、本当に買うんですか」、と念を押された。


女:

売れた。私が売れた。

花が何本か買えるほどの値段だった。

男は小汚い髭を生やしていて、腰には刀が差してあった。


男:

―――…ここまでくれば大丈夫だろう。


女:

一刻ほど無言で私を連れて歩いたのち

男は辺りを見まわして、腰の刀をスラっと抜いた。

上段じょうだんに構えられたそれに、月の光が反射して眩しい。


男:

―――く…っ…


女:

男はそのままの姿勢で存分に躊躇ためらっていたが、やがて深いため息と共にゆっくりと刀は下ろされた。

人買いに売られてからずっと付けていた首の縄がほどかれる。


男:

―――さぁ、どこへでも行っちまえ。


女:

ぶっきら棒な男の言葉と同時に、私の腹の虫がぐうう、と鳴いた。

男は半開きだった目を見開いて、私と、私のお腹を交互に見た。


男:

―――はぁ…面倒なことになった…


女:

男は、小汚い店でかゆ馳走ちそうしてくれた。

温かい物を食べたのは、いつぶりだったか知れない。


男:

―――急に沢山食べると胃のによくねぇ。一杯にしておけ。


女:

体をいたわられたのは初めてだった。

のちに分かったことだが、単にこの男、金子きんすがなかっただけだった。


男:

―――女、名を何という。


女:

―――あ、


男:

―――いや待て!お前は俺が買ったんだ。名は俺が付ける。


女:

―――…。


男:

―――うぅむ。


女:

男はしばらく目を瞑って考えているようだったが、やがて諦めたように大きく息をついた。


男:

―――はぁ…。俺には学なんてねぇし、女の名前なんぞ知るか!


女:

結局私は、「女」と呼ばれることになった。




(間)




男:

―――ほれ、犬ころ、取ってこい!


女:

男はなぜか、行く先々で犬には好かれた。

よく骨を持っていたからだろう。


男:

―――女、疲れたか?


女:

いいえ、と首を横に振った。


男:

―――これから登る山は険しい。今日はふもとで野宿するとしよう。


女:

男と行動を共にしてひと月が過ぎていた。

私は未だに「女」と呼ばれ、男も名乗らなかったので、呼びようがなかった。







男:

―――これで何か食って待ってろ。


女:

新しい町に着くたびに、小銭を渡されて、待っているように言われた。

そして、男は夜鷹よたかそでを引かれ、そそくさと暗がりに消えていくのだ。


男:

(女を押し倒して)

―――んっ…


女:

そっと後をつけて暗がりを覗き込むと、みすぼらしい御座ござの上で男が夜鷹よたかを組み敷いていた。


男:

(吐息交じりで)

―――はぁ…っ


女:

夜鷹よたかは着物の袖を噛んで声を抑えていた。






女:

私は露天で水飴を買った。

売り子は私を見てぎょっとしていた。

首の傷痕きずあとみにくかったからだろうか。


女:

男を待つ間、夜鷹よたかを買う金で、時折見かける花売りから綺麗な花が何本買えるのか計算しようとしたが、面倒になって止めた。




男:

―――何をしている。


女:

私は構わずに水飴を練った。

いつの間にか広まった夜の闇に、クチャクチャと、水音が響いた。


男:

女は少しねているようにも見えた。

俺が夜鷹よたかを買ったことを快く思っていないのだろうか。


男:

いいや、気のせいだ。

夢中で水飴を練っているではないか。女とは言え、まだガキなのだ。

夜鷹よたかが何なのかすら、わかっていないだろう。


女:

男は、私が水飴を食べ終わるまで、律儀りちぎに待っていた。




(間)




男:

それから数日かけて山を二つ超えた。

女は弱音一つ吐かなかったが、ふとした時に草履ぞうりに血が滲んでいることに気付いた。

次の町までもう少しというところだったが、その日はボロボロの山小屋で早めに休むことにした。


女:

―――…っ…!


男:

―――痛いか?


女:

―――…んん…(首を横に振る)


男:

鼻緒はなおれて、傷ついた右足の親指と人差し指の間を水で洗ってやる。

女は小さく震えて痛みに耐えていた。


男:

―――俺が何故、人相にんそう書きにある罪人ざいにんを探し回っているか分かるか?


女:

私は首を横に振った。


男:

―――金目当てじゃあねぇ。殺すために探している。


女:

私は、黙っていた。


男:

―――俺が怖いか?


女:

男の目が、鈍く光った。


男:

―――本当かどうかは知らんが、人のしんぞうは、妙薬みょうやくになるのだそうな。

俺は罪人ざいにんを殺して、心の臓をえぐり、それを真っ当じゃねぇ薬師くすしに売っている。


男:

―――お前のも売ろうと思っていたんだ。

依頼があってな。子供のしんぞうなら、いつもの三倍の値で買い取ると言われた。

まぁ、お前はもう子供というにはギリギリと言ったところだが。


男:

―――子供の心の臓を手に入れるためには人攫ひとさらいをするしかなかったが、それは信条に反する。

だが、人買いが売っている二束三文の売れ残りのガキなら…いいと思っちまった。


女:

可愛い子や扱いやすそうな子から売れてゆく。

私は最後まで売れ残った、要らない子。


男:

―――お前は喉元にみにくい傷痕があって、口もろくに聞けんようだしな。

これまで、さぞ酷い人生だったろう。


女:

私は、

要らない子。


男:

―――お前を買ったはいいが…結局俺には出来なかった。

お前の手が温かかったから悪いんだ。

決心が鈍っちまった。


女:

なんて甘い男だろう。手が温かかったという理由でガキを殺せぬとは。

罪人ざいにんとて、手は温かいだろうに。


男:

―――その喉の傷は誰に付けられた?父か?破落戸ごろつき共にか?


女:

どうでもいい。もうこの醜い傷は一生消えないのだから。


男:

―――どうした?まだ足が痛むか?


女:

優しい言葉など信じない。また騙される。また…


男:

―――おい、顔色が悪いぞ?


女:

もうたくさんだ。傷つけられるのは。

ならば、いっそのこと…!


(一呼吸おいてから)


女:

―――…っふ…!(男に飛び掛かる)


男:

女は突然、俺の胸に忍ばせていた太刀たちを奪うと、そのままの勢いで俺を押し倒した。


女:

―――はあ、はあっ…


男:

太刀たちの切っ先が、俺のしんぞうの真上で止まっている。

プツッと音がして、薄い皮膚が破れた。


女:

―――ふっ…うう…うううッ!(刺そうと力をこめようとする)


男:

女は、必至に太刀たちを俺の心の臓に押し込もうとしているようだったが、刃はカタカタと激しく震えるだけだった。

表皮に無数の切り傷が出来、そこから血がジワリと滲み出る。


女:

―――はあ…、…はぁ…


男:

どのくらいそうしていただろうか。

女の息がそのまま止まってしまうのではないかと思うほどに、小さくなっていった。


女:

…ふふ…(少しだけ笑う)


男:

おい、どうし…


女:

(舌ったらずな感じで)

―――あい、が、と… (ありがとう)


男:

女が“ありがとう”と言った。

聞き取りづらい声だった。

女が初めて微笑んだ。

美しいと思った。


女:

―――ふっッ!!


男:

次の瞬間、俺の胸の上にあった太刀たちは大きく振りかぶられ、女は、その切っ先を自身の薄い胸へ向けて、一気に振り下ろした。


(SE:刺さる音)






(十分に間を取ってください)






女:

―――れぇ、こで、あってう? (ねぇ、これ合ってる?)


男:

―――あぁ、それでいい。そのまま魚が食いつくまで待て。


女:

―――きょ、いぃ、てえき(今日、良い天気)


男:

―――良い天気ってか?そうだな。最高の釣り日和だ。


女:

―――て、いらい?(手、痛い?)


男:

―――手が痛いかって?まぁあの時、咄嗟とっさにお前の自害を止めようとして、手のひらにグッサリいっちまったからな。

医者が言うには、もう動かねぇってさ。


女:

―――……。


男:

―――あの後、お前がぐわんぐわん泣きながらふもとの医者まで俺を連れてってくれたおかげで、俺はこの程度で済んだんだ。

罪人とは言え、今まで散々人を殺した罰にしては、随分軽かったと思うぜ。


男:

―――…そんな顔すんな。(無事な方の手で女の頭を撫でる)


女:

―――ん…。


男:

―――さ、晩飯はお前の釣りの腕に掛かってんだ。しっかり頼む、ぜ…?


女:

―――ど、たの? (どうしたの?)


男:

―――いや、名前がねぇと不便だなと思ってよ。今まではお前が喋らなかったから、おいとかコラで済んでたが。


女:

―――ら、まえ…(名前)


男:

―――俺の名前は、なんてことはねぇ。平八へいはちってんだ。言ってみろ。


女:

―――へーはひ


男:

―――へ・い・は・ち


女:

―――へーはひ


男:

―――ぷっ…ま、いっか。お前の名前は?


女:

―――あ…


男:

―――いや待て!お前は俺が買ったんだ。俺が付ける!


女:

―――ん…


男:

―――ん~何にするか…。最初会った時は小汚かったから、「くま」なんてどうだ!「おくま」!


女:

―――やらっ (やだ)


男:

―――じゃあ…最近はようやく健康的に肉も付いてきたから「おふく」は?


女:

―――やらっ (やだ)


男:

―――ばっか、お前決まんねーじゃねーか。


女:

―――むぅ (拗ねたように)


男:

―――じゃあアレだな。お前、前から花売りとすれ違うとジッと見てたろ?


…「おはな」、でどうだ。



女:

―――…っ!…ん!(嬉しそうに頷く)






(十分間を取って下さい)





【回想】


(↓以下の「あのこが欲しい」は歌わないで下さい。セリフとして言ってください。)


男:

あの日、狭い格子こうしの中には一人の女がいた。


―――あの子が欲しい。


人買いは、「旦那、本当に買うんですか、売れ残りですよ?」と念を押したが、俺の腰の刀に気付くと納得したようにこう言った。

「あぁ、お侍様でしたか。こいつぁ試し斬りには十分ですが、もちっと待って頂ければ上玉じょうだまもまた入りやすよ?」


俺は下種げすな人買いから目をらし、ジッと睨んでいる女に視線を戻した。

その瞳には、絶望と焦燥しょうそうと、

ほんの一縷いちるの光が宿っていた。



―――いや、あのが欲しい。






End.

―――――――――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『華一会 HANA ICHIE 』 レイフロ @reifuro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る