霊能力者紅倉美姫16 女の園の火祭り

岳石祭人

第1話 実行委員


 芙蓉美貴ふようみきの通う白玉しらたま女学園大学で、クリスマス前の日曜日、「クリスマス・コンサート&バザー」の催しが開かれる。芙蓉はその実行委員を務めていた。

 芙蓉が実行委員を引き受けたのは、仲良くしている先輩、岩崎玲緒奈れおなのお付き合いだった。

 玲緒奈は芸能活動をしていて、先のことを考えると、ちょっと進級の為の単位が危ない状況で、その救済策として指導教員から実行委員になることを勧められたのだ。

「実習と同じ単位あげるよ?」

 と。

 白玉女学園は生徒の学外活動、取り分け芸能活動には理解があるのだ。

 大学の知名度アップになることは大いに喜ばれる。

 芙蓉も芸能人と言えば芸能人で、けっこうテレビに出てたりするが、普段は真面目にコツコツ講義に出席しているので、留年の危険はなさそうだ。

 白玉女学園は開学にキリスト教の精神が備わっていて、敷地内にチャペルがあり、月一で一般の人も参加出来るミサが執り行われている。……そういう所に芙蓉のような「霊能力者の助手」なんていう怪しげな仕事をしている者が生徒でいていいのか心配になってしまうが、寛容の精神に感謝だ。アーメン。

 もっとも、現在、より開かれた学園を目指して宗教色はかなり薄まっている。以前は必修だったキリスト教の学習も選択科目の一つになり、もちろん入学の条件に「キリスト教信者であること」なんてものもない。日曜ミサに参加する生徒はほんの少数の生粋の信者だけだ。


 とは言え、開学の精神をすっかりおろそかにしているわけではない。

 この

「クリスマス・コンサート&バザー」

 がその一つだ。

 キリスト教の本場、欧米は、寄付文化が盛んである。

 コンサートで多くの人に足を運んでもらい、生徒たちが提供した不用品のバザーの売り上げをキリスト教系列の福祉団体に寄付するのだ。簡単な食べ物の模擬店もある。


 この催しはけっこう有名で、来場者も多い。

 目玉のイベントが、若い女子に人気の雑誌モデルを招いて行われるファッションショーで、オークションのおまけもある。

 この恒例のショーは毎年盛り上がる。

 今年のゲストは去年に引き続き、



「今をめいっぱい楽しみたい」女子に大人気の

 ちょっぴりお姉さん系ファッション雑誌


「bloomin'(ブルーミン)」


 専属モデル七人。

 もちろんトップ人気の二人、沖州茉央(おきすまお)、加藤泉南(かとうせな)も含まれる。



 そうしたゲストの交渉や、お金の管理も運営委員の生徒たちが行うので、なかなか忙しく、責任重大なのだ。

 もっとも、開催が迫ってから委員になった芙蓉たちはほんのお手伝いで、委員長ら主要メンバーは四月の年度始めから準備を始めていた。そうでなければ人気モデルのスケジュールなど押さえられない。芙蓉は最初からサークル活動などするつもりがなかったので気づかなかったが、四月のサークルの勧誘期間にいっしょに運営委員の募集をやっていたらしい。

 委員長、三年の山本美鈴、以下約二十名の委員が、コンサート、バザー、ショー&オークション、の三班に別れて活動していた。

 準備の最終段階になってから参加した二人は、まず玲緒奈が

「慣れてるでしょうから」

 とショー&オークション班に加わることを頼まれたのだが、玲緒奈は、

(うっ……)

 と顔を引きつらせ、脂汗を浮かべながら微笑むと、

「いえ、あの、出来れば顔を合わせたくない……もとい、地味な縁の下の力持ち的なお仕事の方が……」

 とお願いした。頼んだ山本委員長も、

(あらあ~……)

 と事情を察し、玲緒奈はバザー班に入ることで落ち着いた。

 代わりに芙蓉がショー&オークション班に入ることになった。

 ショー&オークション班の班長、池花衣(いけはなの)に、

「よろしく。かっこいいわね、あなた」

 と挨拶され、握手した。二年の池はオレンジに染めた短髪に、薄い紫のメガネの、いかにもショー・ディレクターと言った感じの人だった。

「よろしくお願いします」

 芙蓉はいつもの癖で、無表情にじいっと相手を観察してしまったが、内心では

(楽しくなりそうね)

 とウキウキしていた。

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