永遠を生きること

「葵ちゃん、重心がぶれてるわ」


 その言葉と同時に私はリエンさんの蹴りによって吹き飛ばされ下の池に落ちる。

 直ぐに体勢を立て直すと池に刺さってる棒の上に戻り、再びリエンさんと打ち合いを始める。


「いい?葵ちゃん。魔女の強さの1つとして形にとらわれないことがあるわ。例えば……」


 リエンさんは水の棒を出し私に振ってくる。それをかわすが、避けたと思った棒の先が槍の穂先に変わっており私の首元に当たりそうになっている。


「棒から槍への変化。でもトリッキーな攻撃に頼り過ぎてもいけないわ。武器の基本が出来てこそ今のような攻撃が生きてくるの」

 

 そう言いながらリエンさんは武器の形状を次々に変え打ち込んでくる。


「いい、葵ちゃんなんとしても生き残るの。魔女の戦い方を卑怯だと言われるかもしれないわ。それでも良い生きるのよ」


 そう言うリエンさんは、いつもより強く打ち込んできた気がした。


 ***


 修行が終わって私はリエンさんと一緒にお風呂に入っている。リエンさんと入ると女性としての自信を無くす……

 自分の胸とリエンさんの胸を見比べ前から気になっていたこと聞いてみる。


「リエンさん私の胸とかって成長するんですか?」

「胸?それは無理じゃないかしら。魔女としてアニママスと完全に融合したときで年齢と体の成長は止まるわ。葵ちゃん覚醒しちゃったから多分そのままよ」


 がーーーーーーーーーーーん


 私はかなりショックを受ける。


「ふふ、でもね魔女として覚醒するだけでも凄いことなのよ」


 リエンさんが私の背中を擦りながら優しく話し始める。


「わたし達魔女が適正の有りそうな人にアニママスを渡しても、魂がうまく混ざらず覚醒しないままだったり、拒否反応が出て最悪、死ぬこともあるわ」

「え、私死ぬ可能あったんですか?」

「あったわよ。ただ火の魔女自身の魂が混ざったから確率は低くかったでしょうけどね」


 ここにきて前々から気になってたことを思い出す。


「今さらですけど火の魔女さんの名前ってなんですか?」


 リエンさんは私の後ろにいるので表情なんかは分からないけど空気が変わるのを感じる。

 すごく悲しくて重い感じ……


「ミーテ、優しくて人の痛みに敏感な子。なのに自分の痛みには鈍感な子。

 魔女の実力は凄かったけど、一番魔女に向いていない、そんな子だったわ」

「ミーテさんか……」


 なんとなく胸の辺りを押さえる。もう本人はいないけど魂の一部が私に混ざっていると思うと嬉しいような悲しいような気持ちになる。

 ミーテさんに会ってみたかったな。


「葵ちゃんは自分の体嫌い?」

「え!体?いやその……リエンさんより貧相だし、傷だらけだし……」


 しどろもどろになりながら答える。


「いい、傷は二度と消えないわ。

 わたし達、魔女は永遠を生きるけど死ねない訳じゃないの。

 刺されば血は出るし、傷も残る。悲しみも、苦しみも感じるの。

 永遠を生きることは寿命からの解放と同時に、苦しみや、悲しみを永遠に背負う事になるの」

 

 リエンさんに背中からぎゅっときつく抱きつかれ動けなくなる。


「葵ちゃん明日ここを出なさい。魔女の基礎は教えたわ。

 もっと色々教える事はあるのだけど、その前にやらなければいけないことがあるの」

「やらなければいけないこと?」


 正直それがなんなのか検討もつかずほうけている私にリエンさんは、ゆっくりだけど力強くその言葉を口にする。


「相手の命を奪うこと。これが出来なければどんなに強くなっても意味は無いわ」

「……」


 なんて言えば良いか分からないから声が出ない……


「前に生きていた場所とは違って、ここは命のやり取りがある場所。

 天使は葵ちゃんを殺しに来るわ。それは魔女を倒すため。力を欲すため。

 葵ちゃんがどんなに無害だったとしても関係ない。そんな相手に話しは通じないわ」


 背中越しなのでリエンさんの顔が見えない。声の感じだと必死に本当に必死に話しているのが分かる。


「ここにいては、経験出来ないこと、相手の命を奪い生き残ること。これが出来て、葵ちゃんの用事を済ませたら戻ってきて」

「命を……」

「まだ、葵ちゃんは魔女見習いよ。教える事沢山あるのだからちゃんと生きて帰ってきてね」


 私の言葉を遮るように、更にギュッと抱き締められる。


 その夜リエンさんと一緒に寝た。リエンさんに抱き締められたまま。

 考えたことなかった。生まれて17年くらいの私が永遠を生きる存在になる。不老であって不死ではない存在。

 それは生きる限り出会いと別れ、喜びと悲しみを経験し続けなければならない果てしない時間。


 命を奪う、そうしないと生き残れない。私に出来るだろうか。なんとなく手のひらを見てみる。


 あーー考え過ぎた、考えても答えは出ないや。


 隣で寝るリエンさんをみる。

 リエンさんも長い間を生きてきて色んな経験してきたんだろうな。

 私はこの人にとって楽しい記憶として残らなきゃ、悲しませちゃいけない。そう思いながら眠りにつく。



 次の日の朝、朝食を済ませた私はリエンさんの結界から出てミカ達を探しに行く。


「いい、帰って来たら修行の続きがあるわよ」

「えーー、帰りたくないです」

「ふふ、ちゃんと紅茶も用意してるから帰ってきなさい」

「はーい、じゃあ行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」


 リエンはミカの背中を送る。


「いつになっても別れる瞬間は慣れないわね。

 ミーテ、貴女の最後の魂の選択、間違ってないわよ。葵ちゃんは凄くいい子だもの。

 貴女の約束とあの子の為にここを守り続けるわ」


 リエンは涙で潤んだ目を擦る。


「さて、紅茶の葉を準備しないといけないわ。お布団も干そうかしら」


 少し広くなった家の掃除を始める。

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