森の住人

 メサイアから逃げ、舞が目を覚ますのを待って移動を開始。

 3日が過ぎる。

 舞の体調を気遣い移動距離こそ稼げてなかったが、メサイアの追跡を免れたのは確信できた。


「舞、歩けますの? 水、いえ何か食べた方が良いかしら。体力をつけないと」


 怪我を気遣いオロオロするニサを見て辛そうな表情を少し緩める。


「落ち着けって、魔物をなめるなよ。これぐらいすぐに治る。それより飯食おうぜ」


 多分お腹なんて空いて無いだろうにニサを気遣い食事の提案を受ける。

 ただここで嬉しい誤算だったのはニサにサバイバル能力の素質が眠っていたことだった。 

 何度かニサ達を襲ってきた魔物を倒してはさばき、川や湖で魚を釣ったりしてるうちに食料は充実。

 そこにニサのサバイバル能力が開花し始め、まず肉や魚のさばき方が上手くなる。

 次に目覚める自然から日用品などを生み出す技術。木を切り、草のツルを編んで紐を作ったりして、簡単な寝床を作り舞を寝かせたりしている。


「ニサなんかたくましくなったな」

「サバイバル生活が上手くなってどうしますの。早くベットで寝たいですわ」


 舞の心からの称賛に対して、ニサはうんざりな表情を見せる。


 ガサッ 


 草が揺れる音にニサが反応して、背中に羽を広げると空中に飛び上がり、召喚した槍を構え草を揺らした者をとらえる。


「観念して今晩の夕食になりなさい!」

「すまねえ、すまねえ、食べないでくれ~」

 

 命乞いする獲物


「あら? ドワーフ? ごめんなさい、食料……魔物と思ってつい……て何かようかしら!」


 一瞬緩めた槍を再び突き出す。


「ひぃぃ、ただ声がするから見ただけだ、本当だ、信じてくれ~」


 拝みながら懇願するドワーフを見てニサは槍を下げる。

 そして頭を下げながらドワーフにお願いをする。


「お願いがありますわ。わたくしの仲間が怪我をしてますの。貴方の住む場所で休ませてもらえないかしら?」


 天使が森の住人に頭を下げてお願いをするその光景にドワーフは度肝を抜かれる。

 天使は魔物を悪とし時々討伐にやってくる。

 理由無き討伐。


 そんな事をする天使が自分にお願いをする。

 裏があるのか?そんな考えもよぎるが後ろに寝ているのは天使ではない。血の匂いが魔物であることをドワーフに知らせてくれる。


「そ、村長に聞いてみる」

 

 ドワーフはその天使を信じる事にした。


 ***


 2人はドワーフに案内されジャングルの様な森を抜けやがて岩と木で隠れたドワーフの住みかに案内される。

 1本の道を挟み両脇に3階建てのアパートみたいな建物が雛壇式に3棟並び通りの行き当たりには1階建てだが横に広い建物が建っている。


「こんなところに村があるなんて驚きですわ。しかもとても広いですわね」

「こっ、こっちだ」

 

 驚くニサ達をドワーフは行き当たりにある建物へと案内される。

 そこには髭の長い顔の険しいドワーフがいて鍛冶をしている他のドワーフの後ろに立ち指導をしているようだった。

 案内してくれたドワーフが話しかけそのひげの長いドワーフをつれてきて紹介する。


「村長、今話した天使と魔物です。お前らこの方が我々の村長だ」


「わたくしの名はニサ ニーベルングですわ。こちらは黒田 舞。村長様にお願いがあって来ましたわ」


 調子の悪い舞の分までニサが丁寧にお辞儀して自己紹介をする。


「ふん、天使は嫌いだ。帰れ」


 とりつく島もない態度にニサも必死になる。


「ちょっと話を聞いてもらえないかしら。わたくしの友人が怪我してますの。ちょっと休まして欲しいだけですの!」

「友人?」


 ドワーフの村長は舞を見る。そして必死な天使と怪我をした魔物を何度か見て口を開く。


「この魔物が天使の友人なのか? なんで?」

「友人になんではありませんわ!

 天使のわたくしが嫌いで邪魔なら出ていきますわ! だから舞だけでも休ませて、出来れば手当てをお願いしますわ!」

「……」


 村長は必死なニサをじっと見る。

 やがて長い髭で見えないが口元を緩める。


「おい、こいつらに寝床用意してやれ。魔物の姉ちゃんの方には医者を呼べ」

「あっ、ありがとうございますわ!感謝します!」


 ニサが頭を下げてお礼を言う。


「ふん、変わった天使だな。まあ良い。後で食い物も準備してやる。案内寄越すから魔物の姉ちゃん連れて行け」


 舞とニサはもう一度、頭を下げて案内のドワーフと共に家を後にする。


「村長、よく許したっすね?」


 家の中で鍛冶をしていたドワーフが手を止めて村長に話しかける。


「あそこまで本気の目で言われたら仕方ねえだろ。天使と魔物が友人とか訳有りだろうしな」

「いやそんなの村に置いて良いんすか? 絶対危険じゃないっすか?」

「悪い奴じゃ無さそうなのが追われてる、なら追ってる方が悪い奴だ! どっちの味方するかって事だ!」

「なんか無茶苦茶っすね」 

「うるせー」


 村長に質問したドワーフは頭を叩かれる。


 ***


 ドワーフの村に来て2週間


「かなり、動けるようになったぜ!」


 シャドウボクシングを始める舞。その姿を見てニサは呆れる。


「あんまり調子にのると傷が開きますわよ」

「大丈夫、ちょっと散歩に行ってくる」

「気をつけて行ってらっしゃいな」


 散歩に出る舞を見送った後


「さて、わたくしも行こうかしら」


 ニサは村長の工房へと向かう。


 この村の家はシンプルながらもしっかり作られており、ドワーフ達の農具などをはじめとした道具も一級品に近い。

 これらは村長をはじめとした生産者の腕によるものだと分かったニサは、連日槍の製作と修復をお願いしに行っていた。


「村長様、今日もお願いに参りましたわ」

「またお前か。作らんぞ! 基本的に武器は作らない主義でな」

「せめてこの槍を修復して欲しいのですわ」

「それもやらん。それに引っ付けたとこで強度が落ちる。武器としては使えんだろう」

「……また来ますわ。それとお世話になっているお代にはならないでしょうけどこちらを置いていきますわ」


 そう言って魚と獣の肉を置く。


「ああ、すまんな。正直助かってる」


 村長がお礼を言ったのでニサは会釈をして部屋へと戻ろうすると、村長が思い出したように、戻るニサの背中に話しかける。


「ちょっと聞きたいことがある。肉はお前さんが槍で仕留めてるんだろ? 魚はどうしてる?見たとこ槍で突いた跡もないし、さばいたときに餌も出てこないどうやって取ってる?」

「あぁ、それでしたらこれですわ」


 そう言って魔方陣から舞のルアーセットを取り出して見せる。


「これは!?」


 村長がルアーに釘付けになる。


「なんだこれは? 魚の形して針が付いてるが、これで釣るのか?」

「えっと確かここに、こんなのも有りますわよ」


 ワームと呼ばれる塩化ビニールなんかで作られている物も見せる。


「こいつは、ミミズみたいだな。どうやって使う? 何で出来てる?」


 興奮してかじりつくように見る村長に興味を引かれドワーフ達が集まってくる。

 やがて品評会が始まる。


「なあ、こいつをくれないか?作ってみたい!」

「えぇと、一応舞のですから聞いてみますわ」

「おお、頼む。お代はそうだな嬢ちゃんの槍の修理と新しい槍を作ってやるでどうだ!」

「わかりましたわ!」


 思いがけない提案にニサは即答して舞を探すため走り出す。

 さっきまで武器を作らない主義とか言ってた気がするけど、気が変わらないうちに舞を見つけルアーをドワーフに渡す約束を取り付ける。

 

 更に舞の熱いルアー講座により

 気を良くしたドワーフ達に魔法を発現出来る槍を作る為の鉱石と雷鳥について教えてくれ、ニサと舞いは鉱山に向かうことになった。


 このルアーが後に魔界に広まり、ルアーフィッシングが流行るとはこの時誰も想像していなかった


 ***

   ーーーミカの軟禁生活②ーーー


 投獄されてから体が鈍らないように筋トレをする。


「145、146、147」


 (腕立て伏せ、フォームを崩さないようにするの難しいんだよな。無理すると肩を痛めるし)

 そんな事を思っていると不意に声をかけられる。


「ミカ様、何を目指してるのです?」

「あぁ、カノンか。ここさ魔方陣呼び出し禁止じゃん。体が鈍りそうでとりあえず筋トレをしようと思ってね」

「投獄される前より血色も良くなって体も鍛えてたくましくなるなんて、ミカ様凄いですね!」

「誉めてる?」

「誉めてます」


 ニコニコしながらカノンは圧をかけてくる。


 多分誉めてない……


「そうそう、一つ朗報が、メサイアがニサと魔物を発見したそうです。ただ逃げられたみたいで次はサキ様も討伐に加わるそうです」

「本当!ニサと舞生きてたんだ……良かった……」


 涙を浮かべるミカと一緒に喜ぶカノンも、うっすら涙を浮かべていた。

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