お義母様

 馬車に2時間ほど揺られ大きな建物の前に着く。

 建物の前に長く大きな階段がありその階段の左右には大きな剣を地面に刺した天使像と大きな盾を持った天使像がある。

 階段を上りきると神殿のような建物が現れる。

 

 馬車から降りると、カノンを先頭にミカを左右から挟んで、天使兵に連れられるような格好で移動をする。

 長い廊下を歩いていくと他のドアより装飾が立派な一回り大きいドアの前に到着する。


「ソフィー様、ミカ様をお連れしました」

 カノンがノックしながら扉の向こうの人物へと伝える。


「入りなさい」


 静かな声が響くとドアが開き中には気の強そうな凛とした女性が立っていた。

 天使は不老故に年はミカと変わらないように見えるが、他の天使とは違う威厳を感じさせる。


「ミカ テレーゼ 貴女には我々天使を裏切り、魔女と魔物と行動をし謀反を起こす可能性があるとして反逆罪の容疑がかけられています。

 異議、自供等の発言は裁判にて行うことを認めます。今ここでは今後の日程と現段階での処罰を言い渡します。

 この部屋にいるもの私とミカ テレーゼ そして護衛としてカノン ニーベルングのみ残り、他の者は外へ出なさい」


 ミカ達が入室するなりそう言い放つと部屋の中に3人だけ残り後はゾロゾロと退出する。


 3人になり沈黙が訪れる。

 ソフィーと呼ばれた女性は咳払いをしミカにゆっくり近づくとミカをギュッと抱き締める。


「ごめんね~ミカ大丈夫? お母さん怖かった? ねぇ怖くなかった?

 あーー手痛くない? 外す? いや外したら駄目ね、緩めよう、よし緩めようか? あーー手が赤くなってる誰これ結んだの! 牢にぶちこんでやるわ!

 それよりも傷だらけね、服もボロボロ辛かったでしょうに、だれにやられた? サキ? トリス? あいつら投獄してやるわ! うちのミカに手を出したら許さないんだから!!」


 物凄い勢いで喋り始めミカを圧殺しそうな勢いで抱き締める。いや圧殺している最中である。


「痛い、痛い、痛いですお義母様、いやと言うか死ぬ、死にます。押し潰されてミカは死にます……」

「あら、ごめんなさいお母さん久しぶりだからついね、てへっ」


 解放されてぐったりするミカにソフィーが真面目な顔をする。


「ミカがお母さんを探しに来るのは分かっていました。あなたの封印を解くためでしょう。

 いい? ミカにはお母さんのリング『能力封印』とミカのリング『色変わり』の2つを同時に使用して姿を偽っている状態なのは分かるわね。

 その作用で能力が一部封印されてるの。

 これを解くことで元の能力が使えるようになる代わりにミカは元の色に戻るわ。天使として名乗る事の出来ない色になるの。

 それは天使として生きていけないことよ。覚悟はある?」


 ソフィーの問いにミカは迷うことなく頷き微笑む。

 その姿を見てソフィーは優しく微笑む。


「信頼出来るお友達が出来たみたいね」

「ええ、とても良いお友達が出来ました」


 さっきとは違い優しくミカを抱きしめそっと告げる。


「良いミカ? お母さんも味方だからね」

「はい、ありがとうございます」

「それじゃあ、まず封印解くわ」


 ソフィーはミカの胸に手を当てると「リング」と呟く。

 ミカの胸元に小さなリングが現れパリンと割れ消える。


「これで鍵は外したわ、後は時間はかかるけど能力が戻ってくるはずよ。

 その間ミカには裁判まで軟禁という処置で閉じ込めさせてもらうわ。

 裁判までの時間はこっちで引き伸ばすからその間に傷を癒して、能力を戻していってね」

「なにからなにまで、ありがとうございます」


 深々とお辞儀をするミカの姿は周りから見たら親子の関係に見えないだろう。

 確かに本当の親子ではないのだがソフィーはちょっと寂しそうな顔をする。



「そうだ、お義母様。アリエル達は何をしようとしてるのです? なにか知りませんか?」


 ソフィーはちょっと考えて静かに語りだす。


「私もカノンに協力してもらって情報を集めてるところだけど、恐らく戦争……いえ天使と魔物、魔女を巻き込んだ偽りの争い。

 そして、人間界への進出。

 これらを起こして、人口増加による食料事情なんかを解決しようとしていると思われるわ」

「食料事情? 戦争?」


 疑問符が飛ぶミカに対しカノンが口を開く


「ソフィー様、私からお話しますが宜しいですか?」

「えぇ、お願いするわ」


 ソフィーの許しを得てカノンが話し始める。


「天使とは個人差はありますが、ある一定まで成長したら年を取らなくなり不老になります。

 病気や大きな怪我がない限り死ぬことはありません。

 それゆえか繁殖能力は極めて低く、子供の出生率は無いに等しいぐらいです。

 それでも緩やかですけど人口は増えていきます。ましてこの500年間戦争がありませんでした。そのせいで人口は減ることなく増える一方なのです。

 これによって食料、土地の問題等が出てきています。

 緩やかに衰退へ向かっているので、気付く者が少ないですが、この問題を解決するために偽りの争いと、人間界へ目をつけたのかと思われます」


 カノンの話を聞いてミカは言葉が出ない。今まで普通に過ごしてきた天使の世界でそんな事が起きていたのに気付かなかった自分にショックを受けていた。


「いきなりで混乱するでしょう。今は体を休める為にも部屋へ案内させるわ。そこでゆっくり考えてみると良いわ」


「おっ、お義母様はどうするつもりですか?」

 

「止めるわ。やろうとする義は分かるけど、やり方は間違ってるもの」


 ソフィーはまっすぐな目で答える。


 ミカは混乱する頭を整理出来ないまま軟禁される部屋へと向かった。


***


ーーー葵ちゃんの修行②ーーー


 今私は滝に打たれています。

 いや本当は打たれてはダメです。

 イグニスを体内に巡らせて体に膜を張り水を弾けと言われてますが出来てません。


「イグニスを指先まで巡らせて」


 イグニスと一緒に必死で集中する。

 ぬぬぬぬ……

(ぬぬぬ……)


「葵ちゃーーーーん」


 滝の上に立っている。本当に水の上に立っているリエンさんが名前を呼ぶ。

 嫌な予感しかしない……


「水を追加するわね。頑張らないと溺れるわよ」


 ドドドドドドッ!!


 そう言った途端、滝の勢いは倍ぐらい増して私に降りかかる。


「うわわわ、死ぬ!死ぬ!」


 滝に飲み込まれる……


「葵ちゃーん、集中、集中!」


 遠くでリエンさんの声が聞こえる……

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