魔界の森 ~それぞれの戦い~

ファイエルン共和国へ

「サキちゃん下がっていいわよ~、帰って傷治してなさ~い」

「はい、トリス様」


 サキは肩の槍を抜くとサッと消えた。


「それじゃぁ~皆さんには~、死んじゃってもらおうかなぁ~」


 なんだろう、見た目は物凄く優しそうでニコニコしている女の人。

 全てを包んでくれそうな優しさ、包容力を感じさせる……そう、母のようだ。

 白いドレスに優雅でおっとりした感じがますます母性を感じさせる。


 でも、甘い感じでしゃべる言葉の端々に狂気がにじみ出ている感じがする。

 この人は関わってはいけない、私の感がそう訴えてくる。


「さてさて~、ここから先に行ってもらうと困るのよねぇ~」


 頬に手を当てて「困ったわ」みたいなポーズをとっている。


「だから~バラバラになりましょうねぇ~」

「惨殺ちゃ~ん」


 魔方陣が出てきて右手に握られる巨大なノコギリ。

 持ち手には華麗な装飾が施されているが刃の部分はシンプルだ。

 刃は手入れが行き届いているのが遠くからでも分かる位、輝いている。


「みんなで一斉に掛かって来てねぇ~」

「ト、トリス様」


 ニサがトリスに話かけるがトリスはニヤアっとねっとりした笑いをみせる。


「ニサちゃんもかかって来なさいよ~。貴女可愛いから頭飾っちゃお~、顔は傷つけないように頑張るわ~」


 話合う余地は全く無さそうだ。


「トリス……お前に聞きたいことがある」

「ミカちゃん、答え無いわよ~」


 トリスはにっこり笑う。


「ミカ落ち着け、これは聞いていた以上にヤバいぞ」

「ごちゃごちゃ言わないの~、も~待つの嫌いなのよ~」


 巨大ノコギリを横に大きく振る。

 もの凄いスピードで振られるノコギリを舞が鎌で受けるがそのまま吹き飛ばされる。


 ズドーーーン!


「ガハッ」


 壁に叩きつけられ舞が血を吐く。


「グラーツイア」

「モラルタ」

「イグニス、3つ! 盾2つ、爆」


 舞が叩き付けられたのと同時に3人が動き出す。

 大きなノコギリ、取り回しは悪いはず……そんな予想も虚しくトリスはノコギリを軽々と振り回していく。

 しかもノコギリの特性を生かしてガードしてもノコギリを引いて削ってくる。

 

 盾のあるミカと私は攻撃を切り傷を増やしながらも捌いていくが、体が小さいニサはギリギリのところで避けているものの攻撃がカスっただけで吹き飛ばされている。


 トリスと名乗ったこの天使、圧倒的に強い。

 3人相手に余裕で攻撃を捌きつつ、的確に巨大なノコギリを振ってくる。

 しかもそれは相手を倒す為でなく、相手を傷つけて遊ぶ攻撃。本来なら私たちはとっくに死んでいる。完全に遊ばれているのが分かる。

 それでも1撃も与えられない


「イグニス、集まる!ファイヤー トルネード!」


 戦いの最中ばらまいたイグニスの火を集めトリスに放つ

 一瞬火に巻かれたがノコギリを振ってかき消す。


「ん~今のはなかなかねぇ~流石は灰の魔女ちゃん」

「ほら~ミカちゃんもニサちゃんも負けずに頑張って~」

「ふざけて!!」


 ミカが盾を構え剣を振りおろす


「ん~ダメねぇ~」


 振りおろされた剣を左手で摘まむように受け止めるとそのままミカごと持ち上げノコギリで胸元を切りつける。

 ミカは剣を離し身をひねり避ける傷は浅くなるが切られてしまう。


 ザシュ!!


「いっ!」


 血が散る。その血がトリスの白いドレスに飛び散る。

 うっとりその血を見つめるトリスは微笑みながら嬉しそうな顔をする。


「今回はどんな模様になるのかしらねぇ~」


 ゾワッ、ヤバい、この人強さもだけどそれ以上に人としてヤバい……


「さ~て、もっともっといくわよ~」


 更に激しくなる攻撃、私たちは血まみれになり、その血はトリスのドレスを染める模様となる。


「あぐっ!!」


 もう何度目か分からないがニサが吹き飛ばされ地面に叩き付けられる。


「あんまりやると~顔に傷ついちゃうわね~。そろそろ切っちゃいましょねぇ~」


 ニサの首もと目掛けてノコギリを振り下ろ

 す。


 ガシッ!!


 舞が鎌で受け止め足は熊のようになり踏ん張っている。


「あら~起きたの魔物ちゃん」

「寝てれば良いのに~だって天使と魔女よ~何で魔物のあなたが必死に戦うのかしら~」

「あんたに関係ないだろ!」

「まあ~関係無いわよね~。切るだけだけど~」


 グッと力を入れると鎌を弾き飛ばし舞に切りかかる


 ガキッ!!


 舞は両腕に骨の刃を出し受け止める。

 トリスは受け止められたまま振り抜き舞を地面に叩き付ける。そして


 ギゴ、ギゴ、ギゴ!!


 地面に背を叩き付けられながらもガードを続けていた舞に対しトリスはノコギリを引き始める。


「があ、あぁぁ!」


 舞の骨の刃は砕け腕に到達し切り始めたところでようやく間に合う


「マイをはなせぇぇ!!」

「イグニス、爆!」


 ミカと私は攻撃を仕掛ける


「えぇ~もうちょっとで腕切れたのにぃ~」


 そういいながらサラリと爆風を避けミカをノコギリの持ち手で突くとミカを吹き飛ばし私に切りかかる。


「イグニス、盾の形にトゲ、回転」


 トゲの盾を縦方向に回転させトリスのノコギリに対抗するべく回転ノコを作り出す。


 ギィィィィン!


 トリスのノコギリとイグニスの回転ノコの間に火花が散る。


「んん! これ! 良いわ~前に人間界で見たことあるわ~自分で肉を引く感触なさそうだから興味なかったけど、これはこれで良さそうね~!?

 流石~灰の魔女ちゃん、わたしのインスピレーション、ビンビンよ~」


 そういいながらイグニスごと私も切られながら吹き飛ばされる。


 ドーーーーン!!


「あぐっっ」


 私は壁に叩ききつけられる。


「ねぇ、舞! 大丈夫ですの? なんで出てきたのですの!」

「いっつつ、助けたのに酷い言われようだな。腕はなんとか繋がってるし治るさ。だから泣くなよ」

「なんで、葵もミカも舞もわたくしなんかに優しくするんですの。こんなわたくしに……」

「あぁ? 理由? この状況で聞くなよ、なんだ、友達で仲間だろ良いじゃんそれで」


 涙を流しながら頷くニサ。


「さてさて、もう終わりにしようかしら~ドレスの方も良い感じに染まってきたしぃ~作りたいものも出来たから帰りたいのよねぇ~」


 その時、シュュュ~と音が聞こえ始める。

 門の隙間から霧が入ってくる、やがて霧は辺り一面を覆う。

 周りは全く見えない。


 頭に声が響く


「門への道はあんないするわ。座標までは調整出来ないけどそこにいるよりはましでしょう」


 霧の中にボワンと光る青い玉が浮かびふよふよと飛び始める。その玉を追って私達は逃げるようにそれぞれ門へ向かって走り出す。



 やがて霧は消える。1人残されたトリス


「水?……あれが動くなんてどういう風の吹き回しかしら~」

「まあ~いいわ。帰って鍛冶屋に作らせなきゃ! 動力はどうしようかしら~光ちゃんに聞いてみようかしら~」


 そう言いながら門に消えていく。


 こうしてボロボロになった私達はファイエルン共和国へと向かう。

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