第10話 星

 あれで治るのだから、たいしたものだ。

 エステルの献身的な治療(?)によって、シグルドの体はどうにか動くようになっていた。

 だけど、シグルドあえて起き上がろうとはしなかった。

 もう二週間、ベッドの上に横たわっていた。

 あの洞窟での一件が、すっかりトラウマになっていたのだ。

 熊に襲われたことではない。

 それよりも、女子供にお説教されたことに深くプライドが傷ついていた

 その時のことを思い出すと泣いてしまう。

 時々は、何か前向きなことをしなければと思うのだが、その度に洞窟のことが思い出されて涙と一緒に気力まで抜け落ちてしまうのだった。

 シグルドは木偶人形のような日々の中でシグルドには星を見る習慣が身についた。

 辛うじて排せつ物を垂れ流さない程度の分別を留めていたシグルドは、夜中に用を足しに外へ出ると、しばらく夜空を眺めるのだった。

 満天。

 夜空に鏤められた無数の光は、シグルドの目にはただデタラメに散らばっているように見える。

 しかし、星を読み解く知恵を持ったものには、それは確固なる運命を示しているのだという。

 もし自分に星を読むことが出来たなら、それはどんな運命を囁いているのだろうか。

 シグルドはある時、エステルに尋ねたことがあった。

「ねえ、俺はこれからどうしたらいいんだろう?」

 言ってから死ぬほど後悔した。

 なんて情けない。

 自分は洞窟から逃げ帰って来たあの時に金玉を落としてきたのではなかろうか。

 枕もとでシグルドの看病をしていたエステルは、微笑んで言った。

「急にどうしたんですか? 金玉でも落としちゃいましたか?」

「いや、エステルさんは、星を読めるんだろう」

「まあ確かに、占星術に関しては多少、天才的ではありますね」

 エステルは、そう言うと得意そうに胸を張った。

「それって、俺の未来も視えるのかい」

 シグルドの問いかけに、エステルは少し困惑したような顔になった。

「シグルドさん。いけません。私たち占星医術師にとって個人の運命を占うことはご法度です。禁忌、ダメ絶対」

「俺は、冒険者にむいてないのかもしれない。田舎で芋畑でも耕しているのがお似合いさ」

 その一言に、普段穏やかなエステルは珍しく激した。

「な、ダメですよ。お百姓さんの苦労も知らないくせに」

 エステルに叱られると、シグルドはまた木偶人形へと戻っていくのだった。

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