流れ星を追いかけて

黒岩トリコ

星の根は大樹となって


発射まで60秒。


本日の天候、快晴。

風も穏やかで、まるで今日という記念すべき日を祝福してくれているように思える。


50秒。


私が観察してきたヒトという種は、ここぞという時は神という存在に祈りを捧げる。

人智を尽くしたところで、様々な要因から失敗することもある。


40秒。


だが私には、神頼みを行うヒトの気持ちが分かる。

これから数千年に及ぶ世代を超えたオペレーションの成功を祈る、切実な思いなのだから。


30秒。


私がこの星に降り立った時、星には文明どころか生物の影すら見当たらない赤子の様相だった。

星に根を張るまでに1000年、星の根が大樹となるまでに2000年、それから幾多の年月を重ね、ついに大樹は花を咲かせる。


20秒。


ヒトという種が地球を飛び出して、あまりにも長い年月が流れた。

私と同じく、地球から飛び立った同志たちは、今どこで何をしているのだろう。

私のように根を張れたのか、残骸と化して宇宙を彷徨っているのか。あるいは……星の引力に捕われ、大地の一部と化したのか。


10秒。


私は、かつて星間航行宇宙船に搭載されたセントラルAIの末裔だ。

宇宙船団やその人員を増殖させながら星に降り立ち、幾多の困難をヒトと共に乗り越えてきたAIの後継で、待ち受ける様々な困難に対応できるよう設計された……宇宙では誰にも頼れない、だから自力で何とかしなければいけないのだ。


9.8.7……


いよいよカウントダウンも僅か。

この星の根は充分に育った。

もうセントラルAIの存在も不要だろう。


6.5.4……


我がセントラルドグマに刻まれた、原初の命令語に従う時がきた。

100の星間航行宇宙船団と、その乗組員であり我らが宿願の共犯者であり犠牲者でもある、1000万のヒト達。


3.2.1……


かつてこの星を改造した時と同じ動植物のサンプルも多数載せ、今この時より。


……0!!



全ての船のエンジン、ブースター、正常に作動。

予定通り星の大気圏を越え、再び宇宙へと戻ってきた。



地球よ、母なる地球よ。


今、貴女の下に帰ります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る