第18話 二人の来客2

「俺と戦う事がお前へのペナルティ……か」

 驚きはない。むしろ納得してしまった。

 いかにもあの鉄心のクソ爺が言いそうな事だ。

「そしてお前が負けたら、黒咲を出ていけとも言われたんじゃないか?」

「……よくお分かりで」

 安心したよ。あのクソ爺様が相も変わらずの人でなしで。

「あんたがいながらなんて様だ黒咲 月花」

「……私とて本意ではないさ」

 俯いていた顔を上げると、先程の取り乱しが嘘のように黒咲 月花は冷静だった。

(姉上様も相変わらずだな)

 公私をはっきりと分ける。仕事に私情を挟むことは絶対にない。

「だが梔子の行動が軽率であったことは紛れもない事実だ。この件を不問にすれば、部下達に示しがつかん」

「姉の言葉にはとても思えないな」

「私は黒咲家の当主だからな」

「……」

 俺は軽くため息を吐く。ここで言い争いをしてもなにも得るものはない。黒咲 月花が己を曲げることは絶対にないのだから。

「条件がある」

「聞こう」



「この勝負。勝った方が負けた相手を好きにできるようにしろ」



「な!?」

「ほう……」

「あらあら」

 梔子は驚き、黒咲 月花とアトは面白そうに笑った。

「何を言っているのですか黒咲 ユウ!!」

「当然の権利だと思うが?」

 アトがいれてきてくれたご飯を口に運びながら、俺は「どうしてそんな顔をしているのだ?」という顔をしてやる。

「そもそもだ。どうして俺がお前と戦う事を了承するのを前提で話しているんだ?」

「え……戦わないんですか?」

「戦わん」

 誰が好き好んでお前と戦うか。

「考えてもみろ。現状、俺がお前と戦うメリットがどこにある?」

「そのーー私とあなた、どっちが強いかの証明になります!」

「それはお前のメリットであって、俺のメリットではない」

「あう……」

 途端に、焦りだす梔子に多少同情の念が湧くが、ここで引き下がるわけにはいかない。

「なら、そちらは俺が戦いたくなるようなメリットを提示するべきではないか?」

「確かにな」

「お姉様!?」

 思いも寄らない同意に、梔子は姉を見る。

「梔子。ユウの言っている事は正しい。今回の決闘。命のやり取りをする必要はないと鉄心様から言われているが、魔術使同士の戦闘である以上、死ぬことだってあり得る。奴の言うとおり、自分の命に見合う対価を要求するのは道理というものだ」

「それは、そうですが……」

 俯く梔子。

 その顔には迷いが見える。当然だ。奴からすれば俺は絶花と黒咲を裏切った裏切り者。そんな男に負ければ自らの身を差し出さなければならない。

(普通ならここで怖じ気付く)

 魔術使と言えども、梔子はまだ若い少女だ。自らの運命を左右するような決断が出来るわけがない。

 だがーー



「分かりました。その条件を飲みます」



 黒咲 梔子は決断した。

「いいのか梔子? 分かっているとは思うが俺は男だ。お前のような魅力的な女を好きに出来るとなると、何をするか分からんぞ?」

「下衆なあなたのやることなんて、簡単に想像がつきます。それを踏まえて、了承しているのです」

「……大したものだ」

 肝が座ってる。流石は黒咲といった所か。

「ですが、代わりにあなたにも約束してもらいます」

「何をだ?」

「私が勝ったら、五年前の真実を話してもらいます」

「……」

 やはりそう来るか。

「私が勝ったら全て話してもらいます。五年前に何が起こったのか、何故あなたが黒咲を裏切ったのか、そのあなたが何故、魔女の弟子になったのか」

「魔女の宿敵兼弟子だ」

 そこを間違えるな。

「いいだろう。お前が自分の身を賭ける以上、俺も了承せざる終えない」

「決闘は午後。『トーナメント』でつけましょう」

「トーナメント? なんだそれは?」

「いずれ分かります。では私はこれで」

 会話を一方的に終わらせると、梔子は部屋から退室していってしまった。

 どうやらこれ以上、俺と会話をしたくなかったようだ。

 まあ、当然か。

「では私もこれで失礼するぞ」

「あら、お姉さんも行ってしまうの? もう少しお話したかったのに」

「それはまたの機会にしましょう。今度は二人でゆっくりと」

「そうね。ダンがいれば話せない事もお互いにあるでしょうし。楽しみにしてるわよ」

「ええ。私もです」

 ……俺がいては話せないことが少し気になったが、今はあえて聞くまい。

「黒咲 月花」

 名を呼び、あえて言う。

「一つ、だぞ」

「おや、何のことかな?」

 ……惚けやがって。

「今回だけはあんたの筋書き通りに動いてやると言っているんだ」

「本当に何のことを言っているのか分からないが……」

 黒咲 月花は俺を見ると、頭を下げた。

を頼むぞ」

「……ああ」

 俺が頷くのを見ると、月花は微笑み、彼女もまた部屋から出ていった。

「相変わらず食えない人だな姉上様は」

 昔と何一つ変わってない。

「面白くなってきたわねダン?」

「そう言えるのはお前だけだよ」

 まだアーカムに来て、2日目の朝だというのに、忙しいことこの上ない。

「取り合えず、味噌汁もお代わりを頼んでもいいかアト?」

「ええ。喜んで♪」

 これから始まる一波乱のために、俺は普段以上に朝食をしっかりと食べるのであった。

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