うちまだオナニーしてるで
@keiko0629
第1話
「うちまだオナニーしてるで!」
けたたましく響いた声に姉は蒼白な顔で下を向いた。ははは、と笑っていたけれど顔は全く笑っていなかった。むしろ目は真っ黒だった。宇宙くらい、漆黒の、黒。
その声をあげたのが77歳の祖母だったから。
祖母は昭和14年生まれで、裕福な家庭に生まれた。4人姉妹ひとりひとりに乳母がいて大きな木が植えられている家に生まれたそうだ。
祖母は4人姉妹の3番目で、悪童であり、よくその大木に縛りつけられていたらしい。
性格は激昂しやすく、誰とでも喧嘩する、正義感の強い大酒飲みである。
そんな祖母の家はは5歳か6歳の頃、戦争ですべて焼けてしまい、海軍だった祖母の父の船は爆撃だか魚雷だかで沈んでしまったそうだが、それはまた別のお話。
そんな祖母がなぜいきなりオナニーの話を始めたのかは、記憶にない。
季節も、時期も、正直曖昧である。
この一言のインパクトですべてぶっ飛んでいったからだ。
祖母の家の中がひんやりと冷たかったことだけが体感として残っている。
祖母は19歳の時に15歳で石川県から大阪にでて働いていた祖父、当時24歳と結婚した。
祖父は丁稚奉公のようなことをしながら会社員になり、営業マンとして働き、祖母と結婚してからは独立し、商社を設立して中小企業ながら住んでいた市の5本の指に入るほどの納税額を納めるほどの会社になった。
その裏には酒を飲むとすぐ寝てしまう祖父のかわりに大酒飲みの祖母が寝ている祖父の隣でお客さんと酒を飲み交わし、接待しながら信頼を得ていったという話があるとかないとか。
祖母はいいとこの出なのに、生来の下品さが備わっていた。
姉がPTAに入ったときけば、「あんた!PTAは不倫ばっかりやろ、そんなんしぃなや!」と、親指と人差し指でオッケーの指の形を作りながら親指と人差し指をリズミカルにくっつけたり離したりしていた。
ピストン、だろう。下品である。
しかも孫に対して。
酔えば春歌を歌い、母が本気で嫌がっていた。
一つと出たわいな ヨサホイのホイ
一人娘とする時にゃホイ
親の許しを得にゃならぬ ホイホイ
ニつと出たわいな ヨサホイのホイ
二人娘とする時にゃ ホイホイ
姉の方からせにやならぬ ホイホイ
三つと出たわいな ヨサホイのホイ
醜い女とする時にや ホイホイ
ハンカチかぶせて せにゃならぬ ホイホイ…
そのくらい性に奔放なのかと思いきや、祖父のたった一回の浮気未遂に会社を潰す勢いで大暴れし、毎日会社の役員が祖父母宅へ出向き泥酔状態の祖母を説得し、祖母は祖父のカツラを切り刻むという事態が続いた。
今思えば面白く、外面がよく、社交的で、詩吟やらコーラスをすれば次々と優勝を飾り、師範になり弟子を取り、裁縫は孫たちの服をお揃いであつらえてくれたり、陶芸をすれば賞を取り、料理は素人が作れないようなものも作り上げて振る舞ってくれていた。
だけど裏では誰にも本音を言えない、何でもできるが故甘え下手で、甘えたい時どんな風に言えばいいかわからず、泥酔、喧嘩吹っかけ、絶縁を繰り返す祖母がいた。
祖父はお世辞にも思いやりがあるタイプではなく、今からアスペルガーの診断が下るであろうタイプで、3人の子供の長女、私の母も完全にアスペルガーであり長男は祖母の激昂部分を凝縮して三日三晩煮込んだようなタイプであった。
私の母より10歳年下の次男は、スポーツができて、明るくみんなから好かれる生徒会長だったそうだが、私が生まれる一年前15歳の時に野球チームの練習中心臓発作を起こして死んだ。
この出来事が祖母たちに暗い影を落としているのは明白であった。
そして残された意思疎通のできない家族達。
私からすれば祖母の性格も大概なのだけど。
そんな、オナニーをまだしている祖母の話をまだもう少し書きたいと思います。
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