異世界転生して自分自身と戦う羽目になりました
@HasumiChouji
序章:アーチャー VS ニンジャ
通学中にトラック(最後の記憶からすると、多分、居眠り運転だ)に轢き殺され、この世界に転生して一〇日ほど。
何とか、この世界にも慣れ、転生した時に得た「能力」で何が出来て、何が出来ないかが概ね判りかけた頃、俺は、そいつに襲われた。
体中を切り刻まれ……血を失ない……休む時間のないまま、夜の町を、そいつから逃げ続けた。
元の世界とは違って、この世界の夜は、町中であっても暗い。でも、俺を狙っているヤツは、その夜の闇の中でも、ちゃんと目が見えているようだ。
そして、足音1つ立てず、物陰からいきなり襲って来る。
元の世界で言うなら、中世ヨーロッパを連想する町。
道は細く、いくつもの路地が有り……つまり、ヤツが身を隠す場所は、山程有る。
「どうす………る?」
だが……。
「罠か? わざと、ここに誘導したのか? それとも……?」
俺は、偶然、目に映った、町を囲む城壁に開いている門の1つに向って走り出した。
肌寒い。
あたりに広がっているのは、とっくの昔に収穫を終えたらしい初冬の畑。
「まだか……」
明くはなっているが、東の空には、まだ日は上っていない。
町の方から、ヤツがやって来た。
「ば……馬鹿な……」
俺は、この世界に転生した時に「
そのお蔭で、かなり離れているヤツの顔が見えた。
「よう、『俺』」
「なんだと……?」
「悪いが、俺もまた別の『俺』に狙われててなぁ……。自分の身を守る為に……あんたの能力をもらうぞ……。あんたを殺してな」
姿を現わした、俺を狙っていたヤツ。別の「俺」は、まるで忍者のコスプレみたいな姿だった……。なるほど、「夜目」「足音を立てずに高速移動」「物陰に隠れる」が、ヤツの能力か……。
「どうした……? 何がおかしい?」
「何故、俺が何人も居るかまでは判らんが……おまえ、俺にしてはマヌケだな」
「あっ?」
ギリギリで日が上っていた。
1日1回、日の出の時に矢が補充される「魔法の矢筒」。俺は、それから矢を取り出し、身を屈める……狙うは、ヤツの足。まずは機動力を奪う。
ニンジャ姿のもう1人の俺は……俺が撃った矢を何本も食らって、倒れた。
「おまえ……本当に俺か?」
「……な……なに……?」
「小学校高学年か中学の頃、親父が借りてきた時代劇のDVDを一緒に見た事有っただろ。忍者を倒すのに、何も無い野っ原に誘い込む、って話をさ……。そうすれば、忍者が得意な事の多くは出来なくなる。何で、俺の狙いに気付かなかった?」
「……そ……そうか……それが……俺が失なったモノ……」
「は?」
「死ぬ前に教えてくれ……。俺の親の名前は? 俺に兄弟は居たのか? どんな……家族だった?」
「おい……何を言ってる?」
「俺が……この世界に転生した時……理由は……判らんが……何人もの俺が生まれてしまった……らしい……。そして……俺を狙った……別の……『俺』は……俺達全員が……それぞれ……何かを欠いていると言っていた……」
「はぁ?」
「お前に……言われて……ようやく……気付いた……。俺が……転生した時に失なったものは……家族の……記憶だ……」
やがて、もう1人の俺の体は……黒い煙と化して消えた。
残ったのは、ヤツの衣服と装備……そして……ヤツの喉仏だった辺りに、1つの宝石が有った。
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