らいむ

かつたけい

プロローグ

 ここは淡い光の差し込む海の中です。

 まるで幻灯絵のように、人魚姫のシルエットが映っています。


 ぶくぶくぶく

 可愛らしいその身体から、あぶくが生まれてはふわふわ、ぱちん。


 ふわふわ、ぱちん。

 ぶくぶくぶくぶく

 ぶくぶくぶくぶく


 この無数のシャボン玉のような中には、何が入っているの?

 と、泡の一つへ右手を伸ばしました。


 嘆き?

 怒り?

 不安?

 やすらぎ?

 憎悪?

 悲しみ?

 ねたみ?


 自分が何を感じているのか、自分という存在が何であったのか、自分でもまったく分からず、それがとても心細かったからです。


 その時です。

 人魚姫の、その伸ばした右腕のすべてが、一瞬にして泡と化していました。


 泡はゆらゆらと、上がっていきます。


 その泡へと、今度は左手を伸ばしました。

 でも、触れることは出来ませんでした。


 そうです。左手も右手と同じように、すべてが泡になっていたのです。


 わたしは、幸せだったのですか?

 手で触れて確かめることの出来なくなった人魚姫は、それならば、と神様に尋ねました。


 でも、神様どころかだあれも答えてはくれませんでした。


 ぶくぶくぶくぶく

 ぶくぶくぶくぶく


 こうして人魚姫の身体は泡になり、海の中へと溶けていったのです。

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