6話 それだけは、本当の無意味になってしまうから。
「ゆーりの勝ちです!」
「わたしが負けた、だと……! 悠里ちゃんやっぱデュエリストセンスあるね。この短期間でわたしに運なしで勝てるようになるなんて」
運。
運ってなんだろう。
この小説の世界に運なんて存在するのか。
起こることは全て必然なんじゃないか。
今日も今日とてリーネと悠里はデュエルをして、僕は鬱屈した思いを抱えながらぼうっとする。
お互いにこの世界について話して、それでも納得できなかった日からそんな日々が続いている。
なんの気力も湧かないんだ。
暇も嫌だけど、TCGもテレビゲームもやる気が起きない。
ただただ絶望が蝕んでいく時間。
この世は地獄だ。
すべてが決められたディストピア。
突然轟音が響く。
震動が近づいて来る。
またか。
「これはまずいね、映像出すよ」
リーネが手を
「そんなことできたんだ」
「他のエリア見れないかなって思ったら見れたよ」
「ガバガバ設定め……」
「そういうこと言わないの! この【タワー】はわたしたちの為にあって、施設も自由に使えるんだから監視カメラぐらい使えても不思議じゃないよ!」
スクリーンを見ると、【ウーズ】の大軍が一階の入り口から入り込んで攻めてきている。建物は壊されていないが、数が多すぎる。数え切れないが、百以上はいるだろう。床を這い、壁を這い、天井を這い、階段を上り、近づいてきている。
僕たちのいる三階の居住区へ、もうすぐにでも到達するだろう。
「どうせこれも、小説のイベントだ」
「それもあると思うけど、この前からメタ発言な会話をしまくった結果批判力が莫大な量発生してしまったからだよ!」
あと数秒もすれば、大軍がこの階層へ雪崩れ込む。
「来るスピードやばい! もう行かないと!」
走って出て行くリーネ。
僕は出ず、監視カメラのスクリーンだけを無気力に眺めた。
変身したリーネが階段前の廊下で【ウーズ】を迎え撃っている光景が見える。
宇宙人たちを斬って斬って、舞う緑色。
だけどやはり、敵の数が多くて苦しそうだ。
何とか踏みとどまっている程度に過ぎない。
すぐに限界が来るだろう。
「お兄ちゃん! リーネちゃんが!」
「どうせ死んだところで死なないんだ……」
悠里が腕を引っ張ってくる。
「行ってください!」
「行かないよ」
「意気地なしです! 全員死んじゃったらどうなるかわかんないのに!」
悠里が戻ってきた時は、リーネが文章を弄った。
なら僕らが全員死んだら、作者が何もしなければ、このまま終わるのか……?
全部終わっていいのかもしれない。
こんな偽りの世界。小説の世界。最初からあってないようなものだろう。
終わったって、いいはずだ。
「お兄ちゃん!」
スクリーン先のリーネが腕を斬られた。血が舞っている。
足も斬られた。腹も貫かれた。リーネは苦しみながら、戦っている。
終わったっていいはずだ。
「お兄ちゃん……」
リーネが弱々しく僕の腕を引く。
終わっていい無価値な世界だ。
「お兄ちゃん」
そのはずなのに。
心が痛む。
無いはずの心が痛む。
胸が苦しい。
リーネと悠里を失いたくない。
その思いだけ肥大していく。
これも全部作者がやっていることなのか?
これも全部嘘なのか?
わからない。
「僕は」
でも。
それでも。
今動かなければ、いけないと思った。
疑問ばかり追いかけても、最後にはなにもできなくなって、それだけは、本当の無意味になってしまうから。
立ち上がり、部屋を出て走る。
走っていると、心が少し晴れた。
リーネと悠里、二人のことが好きで、二人の為に動くと生きてるって感じがした。
結局止められないんだ。二人が大切だという気持ちも、二人に関することに対して動きたいという気持ちも。
それが僕なんだ。絶望だけしてても何も動かないだけ。ならせめて、動こう。
絶望を抱えたまま、ただ動くことを決意した。
――こうして僕が動くことも、決められているんじゃないか。
一瞬、そんな考えが過ぎる。
それでも、二人が失われるよりはましなんだ。
階段前の線上に辿り着く。
「リーネ、来たよ」
「素名くん、元気になったんだね!」
「元気ではないよ」
気分は重いままだ。でも動くんだ。
「どっちにしろ戦ってくれるなら助かるー!」
リーネに振り下ろされようとしていた軟泥の刃を剣で受け、破壊する。想いによって無限の破壊力を纏った信緑の想剣とまともに打ち合えば、相手は破滅する運命にある。
緑の刀身を一閃させれば、【ウーズ】の一体は消滅した。
「素名くん、手を」
「ああ」
リーネと手を繋ぎ、また踊るように剣を振るっていく。
僕たちの戦闘スタイルは、やはりこれが一番合っている。
【ウーズ】を何体も斬り伏せた。
だが、それだけで旨くいってくれるほど今回の状況は甘くなかった。
敵の数が多すぎる。とてもではないが二人でどうにかできる量ではない。
もうすぐにでも、飲まれそうだ。
軟泥の体に切り裂かれ生傷が増えていく。
このまま死んだらどうなるんだろう。
生き返ってまた空しい思いをしなければならないのか。
それともこの物語は終わるのか。
それとも書き直されて全く違う世界になってしまうのか。
「そうだ、ここは小説なんだ!」
リーネが急に叫んだ。
「何を言ってるんだ?」
そんなわかり切った最悪を。
「だから、悠里ちゃんを生き返らせたとき文章弄ったでしょ? なにも蘇生だけに使える手段じゃないんだよ。見てて、ここを、こうすれば」
"リーネが振り抜いた
リーネが生み出した文章通りに、階段を埋め尽くしていた宇宙人たちは消え去る。
「いけるよ! このご都合書き換えなら! ほら素名くんも」
「これも凄く空しいやり方だけど……まあ、みんな死ぬよりはいいかな」
見える範囲の【ウーズ】は消えたけど、まだまだ下の階層から出てきて出てきて途切れない。
"僕が信緑の想剣を振るうと、その【ウーズ】たちも死んだ"
本当に死んだ。なんだこれ。
「悠里ちゃんも来て―!」
「なにごとですか!?」
悠里がリーネの部屋から出てきてここまで走ってくる。監視カメラで今までのことは見ていたんだろうけど困惑気味だ。
「悠里ちゃんも文章弄れば、戦えるよ」
「や、やってみます」
"悠里はどこからともなく巨大なミニガンを取り出し、撃ち続けて【ウーズ】を蹴散らしていく"
「で、できました。すごいです! これでゆーりもお兄ちゃんたちと一緒に戦えます!」
この小さな体躯に見合わない巨大な銃器を無反動で撃ち続ける悠里。
その光景は僕に目眩さえ覚えさせた。
多銃身を回転させながら無数の弾を撃ち続けるガトリングガン。無数の弾の一発一発が、一体一体の【ウーズ】を四散させていく。
これがもしただの物理的な兵器としてのミニガンだったなら、弾を撃ち尽くしても一体の【ウーズ】すら倒せなかっただろう。
本来【ウーズ】とは、それほどの強敵だったはずだ。
でなければ地球を滅ぼされかけていない。
それが今は見る影もないんだ。
「いいね悠里ちゃんイカしてるよー! やっぱ美少女に機関銃は似合うね! わたしもまだまだやっちゃるぜー!」
また文章を弄り出すリーネ。
これを続けていって、簡単に宇宙人たちは倒し切られた。
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