第6話
昼前になると、五十代くらいの会社員みたいな男がミーヤに近づいてきた。
線路を隔てる金網の手前の縁石に座り込む
「なんか、いいことないかなぁ」
『にゃー』
「あぁ、例えば宝くじの一等三億円があたるとかさ」
『にゃー』
「あぁ、そんなのは夢のまた夢だってわかってるけどね」
『にゃー』
「ずっと、自分なりには努力してきたつもりなんだよ。だけど、タイミングが合わないのか、出世からは遠のいて、未だ平社員の営業。同期は部長だっているのに」
『にゃー』
「わかってる。そりゃ出世ばかりが人生じゃないってね。だけど、それは言い訳、やっぱ会社にいれば出世したいのが本音だし、誰もが一度は夢みるんだよ」
『にゃー』
「まぁ、猫のおまえにはわからないかも、
しれないけど」
『にゃー』
「あ、そうか、おまえは日々生きていくことだけで、精一杯だよな。下手すりゃ死ぬことだってあるんだよな」
『にゃー』
「ほんと、俺は甘いよな、出世くらいでくよくよして。情けないな」
『にゃー』
「だよな。わかった!定年まであと数年しかないけど、精一杯今の仕事を頑張って、全うしてみるよ。ありがとう!」
そういうと、男はミーヤをひとなですると、足取りもしっかりと、スタスタと歩いて行った。
残された猫は黙って、男を見送った。
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