第3話 え、まさか、巫女の伝説をご存知ない……?
男たちは面食らった様子で、少女を受けとる。
そしめ、互いに顔を見合わせると、俺が降参したと思ったのか、そのまま引きあげようとしはじめた。
「え、えぇえ!? あ、あのっ、助けてくれるんじゃないのーッ!?」
絶望の表情で叫んでくる少女。
俺は親指をたてて、「君ならやれる」と一言だけ応援をそえた。
よし、これで上手くいけばーー。
「離して、離してよーっ!」
暴れる少女。
男たちが抑えつけんと手足をつかもうと試みる。
「っ、ちょ、なんだ、この怪力は、ぐぼへぇあ!?」
「相棒ー!? く、よくも、フンッ、そんなフニフニの足をジタバタさせたところで……ぶるちぇんこふッ!?」
「…………ぁ、離してくれた」
少女がジタバタと艶を振り回しただけで、屈強な男たちは、吹き飛ばされ、轟音をひびかせて、路地裏の壁面に顔をめりこませて埋まってしまった。
ピクリとも動かない男たち。
地面に尻餅ついて、解放される少女。
ロイドは目を飛び出さんとばかりに、見開いて口をあんぐり開けている。
「……は? ぃ、いやいや、ば、ば、ばぱ、そんな馬鹿なことがあるかぁあーッ!? な、何が、何が起こっているんかいなー!?」
俺は不敵に笑い、自身の小さな手を見つめ「私にこんな力が……ッ!」と驚いている少女の肩に、そっと手をそえる。
「え、まさか、風の巫女の伝説をご存じない? 嘘ですよね?」
「…………し、知らんが、もしや、何かまずいモノに、ウチは首を突っ込んでしまったんか?」
「そのとおり。いや、なんと、『ブランディ商会』の長ともあろう方が、有名な噂を知らないとは……お前は、風の巫女に眠る人類滅亡のチカラを呼び覚ましてしまったんだ。このことがバレれば、お前の商会はおろか、組織の長であるお前は、魔術協会の刺客に脳みそのなかを徹底的に調べられ、目も当てられない拷問の末に、廃人になるんだろうな!」
「ひ、ひぃい!? そんな、危険なバケモノだったのかっ! 魔術協会が出張ってくるなんて、そんなもん、ウチじゃ、とてもじゃねえが扱いきれねぇ!」
息巻く少女に睨まれ、ロイドは汗だくで逃げさって行っていく。
存外にちょろい奴だったな。
なんすか、風の巫女の伝説って。
「ふう、上手く行った。大丈夫かな、お嬢さん。怪我はないかい?」
少女の体を懇切丁寧にペタペタとチェックして、どこにも外傷がないことを確認する。
「っ、だめぇえ! あまり近づくと危ないわ! わたしは人類を滅ぼす破滅の存在、終わりを伝える怪物なのよ! きっとあなたも傷つけちゃう!」
ちょっと厨二くさくなっちゃったよ。この子。
「大丈夫だ、安心しなさい。さっきのはあの奴隷商をやり過ごすための
腰に差した中杖の先端に片手を触れながら、もう片方の手で指を鳴らし、魔法を解除する。
「ほら、もう熱はおさまったでしょ?」
「す、すごい、すごいわ! あなたがわたしに力を授けてくるてたの!? はっ、もしかして、あなた、あなた様は、伝説に聞く魔法使い様なのですかー!?」
感激した様子の少女は、やつれたスカートの端をつまみ、見慣れない変わったお辞儀をしてくる。
口調も丁寧にしようと努めてくれている。可愛い。ぺろぺろ。
「わたしの名前はウィンディ、です! あの意地悪い人に捕まって、なんとか逃げようしてきたの。です! 本当にありがとうございます! 魔法使い様! ぜひお名前を聞かせて、ください!」
「俺の名前はバルトメロイ。ウィンディの言うとおり魔術の学徒たよ。俺も君を助けられて本当に嬉しい。うん、嬉しいとも(いい匂いがする)」
ふわふわの緑の髪の毛をなで、今日が最悪のだったのを忘れて最高に幸せな気分になる。
「あ、あの! 魔法使い様!」
「ん、なんだい、ウィンディ」
「差し出がましいようですが、よろしければ、わたしを弟子にしてくださいませんか!」
「……な、なんだと……」
う、嘘だ。
こんな俺にだけ都合のいい事があるのか?
ああ、でも幸せと不幸はプラマイゼロになるとか効くし、それはつまりパーティを追放された分の、幸せがあるということ。
なるほど。
ならば納得だ。
「あ、あの、やっぱり、だめ、ですよね……すみません、こんな無理なお願いをしてーー」
「い゛い゛!! いいッ! 全然、いい゛ィイ! ウィンディ、今日からウィンディは、このバルトメロイの弟子だ! うちの子だ!」
「っ、うわーい! やったです、これで退屈な里の暮らしとおさらばです!」
ウィンディを持ちあげて、振り回しともにはしゃぐ。
なんでか、わからないが弟子が出来てしまった。
それも、こんなふわっふわの少女!
すごく楽しくなってきた。
よし、全力で愛でてしまおうか!
「それじゃまずは、お腹いっぱいにご飯を食べよう! 森の奥地じゃ食べられない物でも、高級な料理でも、なんでも食べさせてやる! 先生はそれなりにお金持ちなのだ」
「わーい! ありがとうございます、先生! お腹がぺこぺこだったんです!」
ウィンデと手を繋いで、明るい通りをゆく。
俺たちの新しい生活がはじまる。
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