【完結】パーティを追放された支援魔術師は、実は規格外だった〜人間強化しても裏切られるので、ゴーレム強化を極めました〜
ファンタスティック小説家
第1話 すべてを失った男
舌を噛み切らんとばかりに、歯を食いしばる。
冒険者ギルドの酒場。
その隅のつくえは″俺たち″の定位置だったはずだ。
なのに、今、″俺たち″の中に俺は含まれていない。
「バルトメロイ、これがパーティの決定だ。はやく出て行けよ」
「待てよ、俺はここにしか居場所が……! ここで仲間を得られたって信じてたのに……!」
言い淀み、言葉に詰まる。
ふざけるな、ふざけるな!
なんだお前たちのその目は、顔は!
ずっと一緒にやってきた「フォーグス剣士隊」の仲間たちの他人を見る目。えらく薄情じゃないか。
席に座している他のメンバーは何も言わないが、ニヤニヤと笑ったり、興味もなく隣のやつとコソコソ話をしたり。
ここまでサブリーダーとして、パーティの雑務やメンバーの取り分配分、備品の購入、交渉、事前調査、なによりみんなの戦いを、魔術で援護してきたはずだ!
「ふざけんなよ! こんな仕打ちを受けてたまるか!」
「吠えるなよ、バルトメロイ。見苦しいぞ。ずっと昔から思ってたんだが、俺たちって剣士隊なんだよ。そもそも、お前が今まで″俺たちみたいな英雄″といられたことを感謝すべきなんだ。それに、ほら、わかるだろ? 残念だけどな、
「なっ……お前、ここまで、誰の、おかげで……」
「そうだ、そうだ、魔術師ならギラーテアのデカパイ嬢ちゃんにみたいに、派手に魔物を爆殺して見せろよな〜!」
ヤジを入れてくるメンバーたち。
うちの剣士のひとりが、遠くの席に陣取る「ギラーテア魔術師団」にいやらしい目つきを向ける。
それを受けてフォーグスは「あっちは純魔術師集団。剣士隊として格好もつかないしな」と気安くこぼす。
場の流れが、俺を排除を裏付けている。
俺のすべて、そう、すべてを捧げたパーティ。
仲間だ、一緒に戦った、そのはずなのに……。
気分が悪くなってきた。
めまいがする、
昔を思いだす。
初期は4人ではじめたパーティ。
今では12人と大所帯になった″俺たち″のパーティ。
8年になる、8年だ。
今まで頑張ってきたのに、なんで切り捨てられる?
わからない。
どうしてこんな目に合わなきゃいけない。
「俺たちはこれからもっと危険な冒険に挑む。剣士としてな。だから、改めて言おうと思う、バルトメロイ、お前はもう役に立たない。パーティに貢献できない人間はいるべきじゃない。というか、いらん」
数日前から、リーダーのフォーグスとはメンバーの整理について話し合っていたわけだがーーまさか、俺を除籍筆頭のメンバーだと考えていたなんて。
足元がぐらつく。
すると、向こうの席から涼しい声が聞こえてきた。
「可哀想なバルトメロイ。
聞き覚えのある声に、顔を動かす。
最高位冒険者のサブリーダーとして、何度も顔を合わせた美しい女性。あのパーティの姉さん。俺の守備範囲外……。
あの位置、金と潔白のローブ、桃色の髪……ギラーテアか。
「バルトメロイ、あたしたちのところに来たら? あたし、ずっとバルトメロイが欲しかったんだ」
「ギラーテアさん……でも、ここは、俺の居場所で、全部をこのパーティのために……」
長く旅をしたパーティだ。
すぐには決心なんてつくはずがない。
「おい、待てよ、ギラーテア。棒振り能無し猿? あんまり俺様を怒らせるなよ。魔術師ごとき、何人束になっても無力だっての」
「バルトメロイがいなきゃ何もできない三流剣士様へ。その頭の悪さはどうやったら得られるんだ。脳みそに鼻くそでもつまってんじゃないの?」
「て、てめぇ……ッ」
ギラーテアは涼しい顔で、綿毛のような前髪から赤い瞳をのぞかせてこちらを見下ろしてくる。
「はっ! なんだ、そんなにバルトメロイが欲しいんならくれてやるよ、こんな役立たず、別にいらねぇから! ただ、後悔すんなよ……頼まれても、
「息が臭いから喋らないで。耳が腐っちゃう。あと汚物みたいな視線やめて。目玉くりぬいてリフティングしてあげようか?」
ギラーテアの冷たい瞳に鼻を鳴らし、フォーグスは席をたつ。
「可愛げのない女だ。そんじゃな。バルトメロイ、せいぜい他人に迷惑かけずに生きろよ。おし、行くか、お前たち! おら、どけどけぇえ! 最強のドラゴン級冒険者パーティ『フォーグス剣士隊』が通るぞぉお!」
ほかの冒険者たちをおしのけ、フォーグスはパーティメンバーを連れて、ギルドをでていく。
彼の後につづくメンバー間からは、「ごめんね、バルトメロイ……」と気弱に謝る小さな声と、「安全圏から見守ってるだけ分け前もらってやつ……」と嘲る者の声と、「あいつ小さい女が好みらしいぜ……」と許されない罵倒が混在して聞こえてきた。
「俺は……なんのために、なんの……」
力なく崩れ落ちる。
今日の会議で、パーティメンバーに差し入れしようとしていた焼き菓子を取り落とし、決定的に俺のなかで何かが壊れた。
表世界に馴染むために、全力で駆け抜けた青春。
暗黒魔術教団のアジトから、父親のチカラをかりて命からがら逃げだして、「仲間を見つけなさい」と父の最後の言葉にしたがい生きてきた。
共に戦い、危機をかいくぐり、冒険をした!
「それが仲間だと信じてたのに……!」
涙があふれて止まらなかった。
これが現実か。
こんなのが平気で起こるのか。
「……そうだね、考える時間は与えられて然るべき、だよね」
背後でギラーテアの憂いの声が聞こえた。
「ぅぅ、ぅうあああ、ああ、俺には、なにも、残ってない……! あぁぁああ、うぁああ!」
クソが、クソが、クソ野郎……!
フォーグス、お前は、最低なクソ野郎だ!
悲しみが俺を支配する。
俺は、また一人ぼっちになってしまった。
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