第4話 魔改造

『ブルースライム+1

 レベル:1

 体力:8

 力:4

 素早さ:4

 魔力:0

 スキル:麻痺耐性+3

 状態:エメリコに懐いている』

 

 見た目こそ、涙型のぷよぷよしたブルースライムのまんまだ。

 だけど、毒キノコのシビレ成分を取り込んだのか麻痺耐性がついているじゃないか!

 地味に体力も上昇しているし。

 

「まだパープルボルチーニはあったかなあ……」


 シビレ薬は割に動く商品なんだよね。売上の少ない我が店において主力商品の一つだ。

 一番人気があるのは、薬草類だけど。

 でも、薬草類は道具屋の方が……ぐうう。負けねえぞお。 

 何でも広く浅く置いています、なんて店に負けるものかあああ。

 なんて、負のオーラを出していたらパープルボルチーニを発見した。なあんだ。薬草と一緒に置いていたのかあ。


「エメリコの名において願う。シンテシス合成


 在庫の半分ほどのパープルボルチーニをブルースライムに合成してみた。

 スライムの見た目の変化はないけど、どうなっているのかなあ。

 ワクワクしながら、片眼鏡を覗く。


『ブルースライム+1

 レベル:1

 体力:38

 力:4

 素早さ:4

 魔力:0

 スキル:麻痺耐性+10

 状態:エメリコに懐いている』


「お、おお」


 麻痺耐性がカンストしているじゃないか。

 パープルボルチーニは確かにシビレ薬の材料だけど、低位の麻痺効果で耐性が青天井にあがるとは、すげえなスライム。

 恐ろしいことに耐性がカンストした後も、体力はそのまま成長していくのか。

 キノコだけでどこまで体力があがるのか試してみてもいいな。

 

 お次は何を試そうかなあ。

 薬草、毒消し草、ポーション、硫酸、硫黄と次々に合成していく。

 やはり特にスライムの見た目に変化はなかった。

 しかし、ステータスは確実に成長……いや、何かもうおかしい。

 

『ブルースライム+1

 レベル:1

 体力:108

 力:4

 素早さ:72

 魔力:0

 スキル:麻痺耐性+10

     自己修復+10

     酸耐性+10

 状態:エメリコに懐いている』

 

 キノコの時と同じで、低位の回復手段である薬草なんかでも、スキルがカンストまであがってしまうのだ。

 少し怖くなってきたけど、それ以上に何だか楽しくなってきた。

 このスライム、一体どこまで強化することができるんだろう。

 

「にゃーん」


 モミジが俺の足に頬を擦りつけ、ひょいと膝の上に乗っかってまるくなる。

 珍しいな。まだ布団に入っていないのにお休みモードになるなんて。モミジは猫らしくなく、夜もぐっすり休むことが多い。

 夜ごはんを食べて眠くなっちゃったのかな。

 ぐうう――。

 いや、違う。ははは。ついつい夢中になって結構時間がたっちゃったみたいだ。

 腹の虫が時間の経過を教えてくれた。

 

「少し食べてから寝るとしようかな」


 モミジの顎を指先でぐりぐりとしたら、彼はぐるぐると喉を鳴らし尻尾をぐてえっと垂らす。

 モミジを抱っこして、二階の自室にあるベッドに寝かせ作業台へ戻った。

 店の奥は作業スペースと生活スペースが一体になっていて、部屋が広くないので机は一つだけだ。

 つまり、作業台は食事にも調合にも使う。

 ちゃんとお片付けしていないと、毒草の粉が料理に入ったりしてのたうち回ることになる……二回ほどやっちまったけど、アレはキツイ。

 

「ふんふんふんー」


 炭に火をつけ、お鍋をぐつぐつと煮込む。ウサギ肉と玉ねぎに、鳥ガラを加えー。最後はこれだあ。

 ブルースライムがぴょこぴょこと足元で跳ね、踏みつけそうになりながらも真っ赤な粉が入った瓶を手に取る。

 そう、こいつは俺の生活に欠かせない「トンガラシ」だ!

 

 どばどばあああっとトンガラシの粉を鍋に投入。

 うーん。この鼻にびりびりくる感じ、良いね良いね。

 

 鍋掴みを装備し、手をワキワキさせ……鍋を作業台に運びこ……ううおお。


「待て。そこでぴょこぴょこしたらコケるって」

 

 カラン――。

 ふ、ふう。

 何とか転ばずに済んだが、トンガラシの粉が入った瓶が棚から落ちてしまった。

 拾い上げようとしたら、ブルースライムが瓶を掴んだ俺の手に向け猛烈にぷにぷにさせてくる。

 

「トンガラシが食べたいのか?」


 ぴょこぴょこ。

 ぶるぶる身を震わせて跳ねるブルースライム。

 イエスかノーか分からん。

 

 深皿を床に置いて、トンガラシの粉を乗せてやるとブルースライムがそこに乗っかり体に赤色の粉を取り込み始めた。

 ついでだ。トンガラシも合成してやろう。

 すり潰していない甲虫の角のままのトンガラシをブルースライムの頭に乗せて、魔力を込める。

 

「エメリコの名において願う。シンテシス合成


 甲虫の角が光を放ち、ブルースライムの糧になった。

 

 ん? もっとトンガラシの粉が欲しいのかな?

 トンガラシの粉は俺の生命線……毎日思いっきり使うんだ。

 お前も好きなのか、トンガラシが。

 

 何だか妙に親近感を覚えた俺は、一抱えある甕に入っている真っ赤な甲虫の角を作業台横まで運ぶ。


「粉にした方がいいのかな」

 

 甕の蓋を開けたら、ブルースライムが飛び込んでいってしまった。

 ついでだ。合成もしてしまえ。

 

 なあんてやっていたら、甕の中が空っぽになってしまったぞ。

 明日、仕入れにいかないと。

 すっかり冷めてしまったウサギ肉をほうばりながら、やってしまったことを少し後悔する俺なのであった。

 

 スライム?

 スライムは俺の膝に登ってぷるぷるとご満悦な様子だよ。

 色まで青色から赤色に変わっちゃってまあ。余程、トンガラシがお気に召したと見える。

 

 どれどれ。

 行儀悪くもしゃもしゃしながら、片眼鏡を手に取る。

 

『トンガラシスライム+1

 レベル:1

 体力:168

 力:380

 素早さ:272

 魔力:0

 スキル:麻痺耐性+10

     自己修復+10

     酸耐性+10

     火の息+5

 状態:エメリコに懐いている』

 

「え、ええええ」


 カラーン。

 つい、持っていたスプーンを落としてしまった。食べながらステータスを閲覧するのは良くないな、うん。

 こ、こいつスライムの癖に火の息なんて使えるようになったのか。

 しかし、口なんてないけど、どうやって火の息なんて使うんだろう。そもそもこいつ、呼吸さえしてないような……。

 

 ◇◇◇

 

 ――現代。

 背負子の横でぷるぷるしている赤スライムを指先で突っつく。

 こいつ、赤スライムって呼んでいるけど、鑑定によると名前は「トンガラシスライム」なんだよな。

 トンガラシを欲しがるのも納得である。

 あれからいろいろ合成して、こいつがとんでもない能力値になっていることは俺だけが正確に把握している。

 普通に鑑定しただけだと、赤スライムのステータスを閲覧できなくしたからな。

 そうそう。赤スライムのために、家にあるトンガラシストックを倍に増やしたんだよ。

 面白いことに、スライムは色によってある程度食べ物に好みがあるようで……。

 

「待たせたなー。すまんすまん」

「いえー」


 赤スライムこいつのことを思い出しながら、背負子の中を整理していたので特に待ったという感覚は無かった。

 むしろ、ファビオが来るまでしばらくかかるってミリアが言っていたのに「もう来たの?」くらいだ。

 

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